介護・障害福祉ビジネスの今
介護・障害福祉事業の将来性は?
すでに介護・障害福祉事業に関心を持ち、市場調査を進めているあなたに対しては、蛇足説明かもしれませんが、介護・障害福祉事業は今後市場が確実に拡大する分野であると言うことができます。
次の図の通り、介護事業者に対して直接支払われる介護給付は、医療・年金に比べ、著しく高い約2.4倍の伸び率になることが予測されています。(厚生労働省資料より)
確実に成長が見込める介護市場
超高齢、人口減少社会を迎えるにあたり、国内経済の縮小が懸念されている中、介護・障害福祉分野だけは例外的に市場が急拡大する、特殊な業界なのです。しかも一部の大規模施設系の介護事業を除き、一般的な訪問介護、通所介護事業、障害者作業所は初期投資が比較的少なく済み、在庫、貸倒れリスクもない魅力的なビジネスです。多くの社会起業家が競って参入している理由とも言えます。
介護・障害福祉事業の倒産率は?
しかし一方で他の事業同様に、介護・障害福祉事業にも倒産・廃業は付きものです。
業暦 | 倒産件数 |
3年未満 | 27 |
3~5年 | 29 |
5~10年 | 70 |
10年以上 | 38 |
合計 | 164 |
医療介護分野の倒産件数
平成25年帝国データバンクの調べによると、1年間に倒産・廃業した医療・介護事業者は164社。うち、設立から3年以内の倒産・廃業は27社。全体の約16%に当たります。
しかし、一般事業の3年未満倒産率が70%と言われているのに比べれば圧倒的に低いと言えます。今後は介護事業も、介護保険制度の変更、人材確保、サービスの差別化などに対して、真剣に取り組む事業者が勝ち残る、競争市場に変化して行くことでしょう。
【3年未満 倒産率の比較(目安)】
一般事業の場合 :70%
医療介護事業の場合:16%
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設立前に抑えたい!介護・障害福祉事業のキソ知識
当事務所のコラムで介護・障害福祉のお勉強!
●2015年介護保険制度改正編
>>①2015年 介護保険改正の骨子
>>②介護保険改正 利用者負担を1割から2割へ
>>③介護保険改正 要支援者向け予防給付の介護保険外し
>>④介護保険改正 特別養護老人ホームの新規入所を要介護3以上に
>>⑤介護保険改正 一定資産がある人の食費補助を打ち切り
>>⑥介護保険改正 高額介護費負担の上限をアップ
●介護保険のしくみ編
>>①介護保険基礎 制度を取り巻く体制
>>②介護保険基礎 要介護状態と被保険者
>>③介護保険基礎 要介護認定
>>④介護保険基礎 介護保険サービスの種類と名称
>>⑤介護保険基礎 介護事業者の指定申請
>>⑥介護保険基礎 地域支援事業
●障害者福祉サービス編
>>①障害者福祉をめぐる福祉六法の成立
>>②支援費制度への移管と問題点 障害者自立支援法
>>③障害者総合支援法の成立とその概要
●介護・障害者福祉 設立編
>>①介護・障害者福祉事業所の法人設立手続き
>>②会社設立形態 法人の種類と比較一覧表
>>③設立法人の種類を比較しよう
>>④会社設立~会社名称、本社住所、事業目的を決めよう
>>⑤会社設立~決算月、資本金、出資者、役員を決めよう
>>⑥会社設立後に必要な届出手続き
>>⑦障害者作業所 就労移行支援・就労継続支援(A型B型)
>>⑧就労移行支援、就労継続支援(A型B型)の事業者要件
>>⑨雑記 宗教法人と非営利型社団法人の比較
>>このカテゴリ(介護・障害者福祉 設立編)のトップへ戻る
●認知症・成年後見編
>>①基礎から学ぶ成年後見制度
>>②成年後見・保佐・補助の仕組み
>>③老いと死の不安を解消する6つの支援制度
>>④基礎から学ぶ任意後見制度
>>⑤財産管理契約・日常生活自立支援・死後事務契約
>>⑥悪質商法・詐欺商法から高齢者を守る
>>⑦認知症と不動産売却・遺産分割(相続)
一覧でチェック!設立と運営に必要な手続き
それでは実際に介護事業をスタートするにあたり、どのような手続きが必要なのかをチェックしていきます。手続きを大きく3種類に分けて説明します。専門家の自分が言うのも気が引けますが、会社を起こす際の手続きは非常に多岐にわたり、正直大変です。
期限に遅れるとメリットを受けることが出来ない手続きもあれば、逆にデメリットやペナルティーを受ける手続きもあります。また大きな声では言えませんが、「正直者がバカを見る」ということも往々にしてあります。
自分でやってしまおうとせずに、専門家を利用されるか少なくともご相談をされることを強くお勧めします。
1.介護法人設立時に一度だけ必要な手続き
手続名称 | 管轄 |
法人設立定款認証 | 公証役場 |
法人設立登記申請 | 法務局 |
商標(サービスマーク)調査 | 特許庁 |
法人設立届 | 税務署 |
青色申告承認申請 | |
給与支払事務所等の開設届出 | |
源泉所得税の納期特例承認に関する申請 | |
棚卸資産の評価方法の届出 | |
減価償却資産の償却方法の届出 | |
申告期限の延長特例申請 | |
法人設立届 | 都道府県 |
申告期限の延長特例申請 | |
法人設立届 | 市町村 |
就業規則届出 | 労働基準監督署 |
36条労使協定届出 | |
労働保険 保険関係成立届 | |
労働保険 概算保険料申告 | |
雇用保険 適用事業所設置届 | 職業安定所 |
雇用保険 被保険者資格取得届 | |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | |
健康保険被扶養者(異動)届 | |
各種助成金実施計画書 | 労働局 |
実施介護事業に関する指定申請 | 都道府県・市町村 |
兼業事業がある場合の許認可申請 | 管轄行政庁 |
2.介護法人運営に毎年必要な手続き
手続名称 | 管轄 |
健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届 | 年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届 | |
労働保険年度更新申告書 | 労働基準監督署 |
給与所得者年末調整 | 社内 |
法人税申告 | 税務署 |
法人都道府県税申告 | 都道府県 |
法人市民税申告 | 市町村 |
消費税申告 | 税務署 |
法定調書合計表提出 | |
給与支配総括表提出 | 市町村 |
償却資産税申告 | 市町村 |
3.介護法人運営に随時・継続的に必要な手続き
手続名称 | 管轄 |
36条労使協定届出 | 労働基準監督署 |
変形労働時間制届出 | |
裁量労働時間制届出 | |
健康保険・厚生年金被保険者資格取得届 | 年金事務所 |
〃 資格喪失届 | |
〃 住所氏名異動届 | |
雇用保険資格取得届 | 職業安定所 |
〃 資格喪失届 | |
〃 住所氏名変更届 | |
消費税課税事業者届 | 税務署 |
消費税課税事業者選択届 | |
消費税簡易課税制度選択届 | |
〃 不適用届 | |
事業目的変更登記申請 | 法務局 |
役員変更登記申請 | |
本店所在地変更登記申請 | |
各種助成金受給申請 | 労働局 |
ここに掲載している手続きも、代表的なものの抜粋に過ぎません。この他にも会社によっては重要な手続きがあります。詳しくは開業前の無料相談でご確認ください。
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本格シミュレーション!事業設立の財務戦略
次に介護事業開業に必要なお金を検討しましょう。介護事業とはいえ、開業資金の考え方は一般事業と同じ。初期投資と固定費に分けて考えます。それぞれの考え方を整理しておきます。
【初期投資】
事業開始時に一回だけ必要となるお金。
通常は償却(何年で元を取るか)という考え方をとります。【固定費】
赤字でも黒字でも絶対に必要な毎月のお金。
通常は人件費、事務所家賃、初期投資償却費を中心に考えます。
1.介護事業初期投資
まずは初期投資から。訪問介護事業を例にとって、考えましょう。
表をご覧ください。家賃10万円、人件費20万円×2名(代表者を除く)というパターンを前提に示しています。
初期投資 | 調達元 | ||
項目 | 金額 | 項目 | 金額 |
法人設立(合同会社の場合の実費) | 6万 | エ)外部借入 | 0万 |
事務所敷金・保証金 | 20万 | ||
事務所内装費 | 30万 | ||
事務所備品 | 30万 | ||
求人費用 | 10万 | ||
広告物、パンフレットなど印刷費 | 10万 | オ)自己資金 | 226万 |
ア)人件費2名×2か月分 | 80万 | ||
イ)事務所家賃2か月分 | 20万 | ||
ウ)その他諸経費2か月分 | 20万 | ||
合計初期投資 | 226万 | 合計調達 | 226万 |
左側ア)~ウ)に着目してください。人件費・家賃・諸経費については2ヵ月分を余分にストックして事業をスタートするプランです。介護報酬が2ヶ月遅れで入金されるためです。
つまり介護事業は、どんなに幸先のよい事業スタートを切れても、介護報酬(9割)は2ヶ月遅れで入金されます。最初の2ヶ月は入金ゼロである事に注意が必要です。(当月入金されるのは1割の利用者負担のみです。)
上のプランでは2ヵ月分の余分ストックですが、事業スタート期を確実に乗り切るためには4~5か月分程度はストックして開業したいところです。
このア)~ウ)の部分を指して、運転資金と呼ぶ場合もあります。
2.介護事業 初期投資の調達
本例では合計初期投資が226万円です。この金額をどのように調達するかを右側に示しています。日本政策金融公庫(略称:公庫)の創業融資を受ける条件は、初期投資全体に対して、自己資金が1割以上必要。「残り9割を融資しましょう」というものです。
とは言え、事業開始にあたり自己資本比率が1割では健全な財務状態とは到底言えません。経験則から言うと最低3割(出来れば5割)以上は確保したいところです。
本例では226万円の全額を、代表者が自己資金で準備する計画となっています。
3.介護事業の固定費
毎月の固定費 | 金額 |
ア)人件費(代表者を除く) | 40万 |
イ)事務所家賃 | 10万 |
ウ)その他諸経費 | 10万 |
初期投資36ヶ月償却費 | 6万 |
合計 | 66万 |
次に固定費です。表をご覧ください。先ほど説明したア)~ウ)の毎月の必要額に加えて、初期投資償却費を固定費に足しています。
初期投資償却費とは、初期投資(本例では226万円)を何年で回収(元を取る)するかと言う考え方です。ここでは3年つまり36ヵ月で元を取るという計画です。毎月6万円は初期投資回収のために稼ぎ出さねばならないと言う意味です。
4.介護事業の損益分岐点売上
介護事業の場合、商品の仕入れがほとんど無いため、毎月の固定費=損益分岐点売上高となります。本例では66万円です。
毎月66万円の売上げを計上するために、何名の介護保険利用者に、どのような介護サービス提供を行う必要があるか、私たちと一緒に計画しましょう。
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