介護・障害者福祉事業所の【法人設立】指定申請前に4種類の法人のメリット・デメリット比較 株式、合同、NPO、一般社団

介護・障害福祉事業の立ち上げを計画中の方へ。最初に着手するのは法人(会社)設立です。介護・障害福祉事業の事業所指定には法人格が必須だからです。株式会社、合同会社・NPO・一般社団どれにするか困っていませんか?このコラムでは4種類の法人を徹底的に比較します。きっとあなたの介護・障害福祉事業に最適な法人設立方法が見つかるはずです。

このコラムを読む前に、基本知識を抑えたい方はこちらの動画をご参照下さい。

☑コラムの信頼性について

このコラムは介護・障害福祉事業の立ち上げを専門に対応している、行政書士・社会保険労務士の井ノ上剛(いのうえごう)が執筆しています。井ノ上剛が代表を務めるタスクマン合同法務事務所では、介護・障害福祉事業の開業支援実績、累積400社です(2021年4月時点)。著者プロフィールはコラムの末尾をご参照ください。

☑コラム対象者

このコラムは介護・障害福祉業の開業を計画中の方のうち、法人設立についてのノウハウを高めたいと考えている方が対象です。このコラムを熟読すれば、法人設立についての全ての知識が網羅的に習得できます。

こちらがこのコラムでお伝えしたい内容の目次です。全て読むには時間がかかりますので、知りたい情報へジャンプするもの一案です。

目次

法人設立が初めの一歩 介護・障害福祉事業の開業計画

介護保険法、障害者総合支援法とその指定基準では、「介護事業、障害福祉事業として事業所指定を受けるためには、法人でなければならない」とされています。

既存の法人でも新設の法人でも構わないわけですが、障害者総合支援法の「就労継続支援A型」に限って、次の制限があるため注意しましょう。

平成18年9月29日 (障害者総合支援法指定基準 厚労省令第171号 第189条)
指定就労継続支援A型事業者が社会福祉法人以外の者である場合は、当該指定就労継続支援A型事業者は専ら社会福祉事業を行う者でなければならない。

つまり、就労継続支援A型事業は、社会福祉事業以外の一般事業を行う法人では事業所指定されない、という意味です。

就労継続支援A型についてはこちらのコラムで詳しく解説しています。
>>就労移行支援、就労継続支援A型B型、就労定着支援の比較

株式会社、合同会社、NPO法人、一般社団法人 設立比較一覧表

日本の法律では何十もの法人種類が規定されていますが、社会福祉法人や財団法人は設立のためのハードルが高いため、介護・障害者福祉事業の開業では、株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人からの事実上の4者択一なるかと思います。

一覧表で比較した後、それぞれの法人についてコメントします。

  株式会社 合同会社 NPO法人 一般社団法人
漢字略称 (株) (同) (特非) (一社)
カタカナ略称 カ) ド) トクヒ) シャ)
事業目的 自由 自由 主として20種類の特定非営利活動(収益事業も可) 自由
成立条件 登記 登記 所轄庁の認証後、2週間以内に登記 登記
所轄庁 なし なし 都道府県、政令指定都市(その他権限移譲の場合も) なし
株式会社への移行 可能 不可 不可
最低資本金 1円以上 1円以上 資本金制度なし 資本金制度なし
信用労務出資 不可 不可 不可 不可
定款印紙税 40,000円(電子認証の場合は0円) 40,000円(電子認証の場合は0円) 0円 0円
定款認証手数料等 約52,000円 0円 0円 約52,000円
登録免許税 最低150,000円(資本金額×7/1,000) 最低60,000円(資本金額×7/1,000) 0円 60,000円
発起人(出資者)の呼称 株主 社員 社員 社員
利益配当 出資に比例 自由 不可 不可
設立必要人数
(発起人)
1名以上 1名以上 10名以上 2名以上
最高機関 株主総会 全社員の同意 社員総会 社員総会
出資者責任 有限責任 有限責任 オーナーの概念なし 有限責任
会社の代表者 代表取締役 代表社員 理事長 代表理事
役員 取締役1名以上 社員1名以上 理事3名以上、監事1名以上 理事1名以上
役員の任期 10年以内 任期なし 原則2年 理事2年以内、監事4年以内
決算の公開 公告義務あり 公告義務なし 決算書類等を所轄庁に提出 公告義務あり
税制 全所得課税 全所得課税 原則非課税、収益事業課税 ○非営利型法人は原則非課税、収益事業は課税、
○営利型法人は全所得課税
特徴 ①所有と経営の分離
②株式公開(上場)を目指せる
①所有と経営が一致
②会社設立コストが最も低い
①役員報酬について独自の規制
②設立時や毎年、所轄庁への提出書類が膨大で労力
①法改正により、通常事業も可能に
②公的なイメージ

次の項で、4つの法人の特徴についてコメントしていきます。

株式会社の特徴

日本における株式会社の始まりは、坂本龍馬の亀山社中であると言われています。亀山社中は現三菱グループの前身です。

株式会社の最大の特徴はお金を出す資本家と経営専門家のマッチングにあります。亀山社中でいうと、いわゆる「お殿様」がお金を出し、龍馬を中心とした「浪人たち」が廻船業を運営しました。つまり資本力と経営力がマッチングしてこそ、株式会社の真価が発揮されるわけです。

一方、現代日本に目を向けると上場会社を除き、ほとんどの株式会社が「お金を出している人」と「経営している人」が同一人物です。このような形態では元来の株式会社の特徴を生かし切れていないとも言えます。

☑こんなケースは株式会社がお勧め

〇出資する人の一部が役員(経営者)として登記しない場合
〇役員(経営者)になる方の一部が出資しない場合
〇「株式会社」というネームバリューが欲しい場合
〇将来の事業展開のために、金融機関と付き合いたい場合

合同会社の特徴

合同会社を一言で表すと、株式会社の小型版です。2006年会社法施行により新たに誕生した法人スタイルであるため、高齢の方々には認知されにくいと思います。

しかしながら、先に説明した株式会社が、制度創設時の趣旨と乖離した状況にあるため、現状の日本の中小企業設立には「お金を出す人」と「経営する人」が一致する合同会社が最も適していると言えます。

合同会社は、将来株式会社へ組織変更することができるため、小さく始めるには最適の法人です。設立のための実費印紙代も6万円と格安です。

☑こんなケースは合同会社がお勧め

〇出資者がそのまま役員(経営者)になる場合
〇設立費用を安く抑えたい場合
〇将来の事業展開のために金融機関と付き合いたい場合

NPO法人の特徴

NPO法人(特定非営利活動法人)は、本来非営利のボランティア活動を行う法人として誕生しましたが、実は収益事業を行うことも可能です。

4つの法人の中で唯一、法人の設立自体に行政庁の認可申請が必要となります。つまり、申請内容によっては設立が認められない場合がある、という意味です。

この認可を得た後、登記申請することになるので、通常は着手から登記完了まで6カ月程度の期間が必要となります。またNPO法人は自治体の認可法人であるため、登記内容の変更については原則市長の再認可が必要です。

決算後は税務署に法人税申告するだけでなく、市長に対しても実績報告を行い、その内容は広く公開されます。

NPO法人は以上のような手続き上の煩雑さがあるため、小規模の営利事業の運営には適さないでしょう。

☑こんなケースはNPO法人がお勧め

〇行政手続きの煩雑さが苦にならない場合
〇公益のために頑張って広く支援者を募りたい場合
〇訪問型事業や相談支援事業など開業資金があまりかからない場合
〇事業拡大をあまり重視せず、自己資金の範囲で活動する場合

一般社団法人の特徴

一般社団法人の特徴を一言で表すと、「2人以上の理念共有による設立」。株式会社、合同会社と異なり、そもそも「お金を出す=出資=資本金」という概念ががありません。よって所有やオーナーという概念もありません

NPO法人と同じく「非営利組織の代表格」と言われていますが、ここで言う「非営利」とは「利益を出してはいけない」ことを指すのでも、「給与を得てはいけない」ことを指すのでもありませn。

非営利とは「利益分配をしてはいけない」という事を指しているだけです。利益分配は株式会社でいう「配当」のこと。つまり働いていない人間に対して、不労所得を与えてはいけないという意味です。これはNPO法人でも同様の考え方です。

「一般社団法人」と聞くと設立のためのハードルが高そうですが、2人以上が理念共有し、設立印紙代11万円程度を支払うだけで、実は誰でも一般社団法人を設立することができます。

ただし、一般社団法人であることで、一部の信用保証協会融資や、政府の補助金対象枠から外れることがあるので注意が必要です。

☑こんなケースは一般社団法人がお勧め

〇「一般社団法人」のネームバリューが欲しい場合
〇訪問型事業や相談支援事業など開業資金があまりかからない場合
〇事業拡大をあまり重視せず、自己資金の範囲で活動する場合

法人を設立をする際の注意点

ここでは法人を設立する際に決定すべきことの注意点を細かく解説します。

法人の商号(会社名)を決める

類似商号の調査

会社法改正前までは、最小行政区域(例:市町村)内に、類似の会社名がある場合には会社の設立登記が出来ませんでした。

しかし、会社法が改正された後は、同じ住所(ビル内など)に類似会社名がなければ、設立が可能となっています。つまり、登記の上ではほぼ制約なしに会社名を決定することが出来るわけです。

一方で、不正競争防止法・商標法などを根拠に、ライバイル会社から会社名(商号)の類似性を訴えられるケースが増えています。

インターネット、自治体から指定を受けている介護・障害者福祉事業者の名称リストを確認し、類似の会社名(商号)がないかどうかは念のためにチェックされることをお勧めします。

☑ここがポイント

商号(会社名)は会社設立時には、ほぼ審査なしで通るが、その後のトラブルに備えて、少なくとも同一市内、同一業種に類似がないかは調査はしておく。

外部から振込みを受けることを念頭に

経理業務に携わったことのない方には分かりにくいかもしれませんが、会社名称(商号)はそのまま銀行通帳の名義になります。

次のような会社名称(商号)は振り込んで下さる相手方に余計な手間や間違いを起こさせてしまう原因となります。

・会社名称(商号)が長い
・アルファベットや数字を多用する
・「ふりがな」がなければ読めない難しい漢字を含む

起業の理念を会社名称に組み込みたいところではありますが、事業の発展のためには万人に知ってもらい、親しんでもらう必要があります。

最優先は読みやすさです。複雑な会社名称は極力避けましょう。

☑ここがポイント

振込間違いを避けるために、なるべく短く、分かりやすい商号に。

会社名称(商号)でWEBの対策を行う

ある人がインターネットで特定のWEBサイトへアクセスする場合、その手法は主に2つあります。

① 業種・サービス名称・商品・地域などのキーワードで提供事業者を探す
② 特定の「事業者名」を直接入力して探す

①対策技術(SEO)は複雑高度化しており、競争の激しい業界(キーワード)で上位表示させるためには相当の専門知識が必要です。SEOを専門に請け負っている業者も多数存在します。

しかし②はWEB関連の知識のない素人でも上位表示が可能です。

試しに当事務所名称である「タスクマン合同法務事務所」をヤフーやグーグルで検索してみて下さい。おそらく上位3件は当事務所の関連サイトだと思います。

この手法で上位表示を狙うためには、他にない個性的な会社名称(商号)にする必要があるわけです。例えば、多数ありそうな「株式会社スマイル」などでは、②の手法での上位表示は相当難しいでしょう。

☑ここがポイント

社名での検索結果で上位表示されるように、オリジナリティーのある商号に。

設立法人の印鑑を作る

会社名称(商号)が決まったら、印鑑の作成を行いましょう。

(ア)実印(登記印)
(イ)銀行印
(ウ)角印

(ア)の実印(登記印)だけ必須作成です。(イ)は(ア)とサイズが近いので兼用も可能。(ウ)はそもそも任意の印鑑です。

ちなみに当社自身は(ア)と(イ)を同じ印鑑で兼用、(ウ)を別途作っています。インターネット通販の印鑑業者さんでは3本セットで販売するケースも多いです。

こちら(↓)のはんこプレミアムさんが運営する【Inkans.com】等は、即日発送で法人設立印のバリエーションも豊富でお勧めです。



☑ここがポイント

タイミングを揃えてセットで作った方が安いので、実印(登記印)、銀行印、角印を同時に作ることをお勧め。

定款の事業目的を決める

行政指定を受ける場合、検討は慎重に

介護・障害福祉事業で事業所指定を受ける場合、会社の事業目的の決定は非常に重要となります。

つまり、指定を行う側の自治体が、「この事業目的が入っていなければ指定(許認可)を与えない」という条件があるためです。

以前は、訪問介護・通所介護・リハビリテーションなどの細目ごとに事業目的の登記が必要とされていましたが、現在では以下のように包括的な表示を認めている自治体も存在します。

・介護保険法に基づく居宅サービス事業
・介護保険法に基づく介護予防サービス事業
・介護保険法に基づく居宅介護支援事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく一般相談支援事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく特定相談支援事業

当事務所では介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法で指定受ける全ての事業を網羅できるよう、定款記載を工夫しています。

☑ここがポイント

指定を行う側の自治体が定める「事業目的」を定款に記載し、設立登記する

就労継続支援A型で起業する場合は特に注意

冒頭で少し触れましたが、就労継続支援A型での起業を予定している場合は特に注意が必要です。

厚生労働省令に次のような規定があります。

厚生労働省令第171号(第189条)
指定就労継続支援A型事業者が社会福祉法人以外の者である場合は、当該指定就労継続支援A型事業者は専ら社会福祉事業を行う者でなければならない。

逆に言うと、就労継続支援A型を行う場合、事業目的には「福祉」分野以外を記載することはできません

「起業時には介護・障害者福祉の分野でスタートするが、将来は飲食店・物販業を・・・」等と考え、事業目的にそれらを記載すると、就労継続支援A型事業所の行政指定(許認可)を受けることが出来なくなります。

☑ここがポイント

就労継続支援A型事業では、定款事業目的は福祉目的および実際のA型作業内容のみに留める

将来の追加コストに注意

就労継続支援A型以外で起業する場合は、その制限がありません。

将来、飲食店・物販業などに進出したいと考える場合、事後的に事業目的を追加するには法務局で登録免許税(1回30,000円)を支払う必要があるため、できる限り実施可能性のあるビジネスを列挙しましょう。

記載数に制限はありませんが、会社の登記簿(登記事項証明書)はだれでも請求して内容を見ることができるため、脈絡のない事業目的を羅列すると、いったい何の会社なのか?との疑念を与えかねません。

☑ここがポイント

事後的に事業目的を追加する際のコストを考え、実施可能性のある事業は予め記載しておく

法人の本店所在地を決める

会社設立登記前後の不動産賃貸契約に注意

会社設立登記申請日時点で、本社住所が決定されている必要があります。本店住所を新たに借りる賃貸物件の住所で定める場合、不動産会社に対して、

「契約書への捺印はまだだが、この住所で本店登記する」

と了解を得ておく必要があります。つまり介護・障害福祉事業の開業手続きでは、

[本店所在地の決定] → [法人設立登記] → [法人名義での賃貸借契約]

となるためです。本店所在地は実際の事業拠点と一致させる方が、郵送物の管理など面を考えても便利です。

先に個人名義で契約を行い、法人設立後に法人名義に切り替えてもらう方法もありますが、名義変更手数料(数万円、時に10万円を超える場合もある)を請求される場合があるため注意しましょう。この場合の流れは次のようになります。

[本店所在地の決定] → [個人名義での賃貸借契約] →  [法人設立登記] → [法人名義への切り替え]

☑ここがポイント

本店所在地は実際の事業拠点と一致させるのがベター。その場合は不動産会社との事前相談が必須。

指定(行政許認可)を出す自治体が求める使用承諾に注意

介護・障害者福祉事業で管轄自治体に指定(許認可)申請を提出する場合、必ずチェックされる点があります。

それが、物件の使用目的(事業内容)に対する家主の承諾です。つまり、家主が「何の目的で使用することに承諾しているか」と言うことです。

使用承諾に関しては不動産賃貸借契約書の中に必ず記載があります。行政指定(許認可)権限を持つ自治体では、単に「事務所として使用することを承諾する」では認めず、例えば「訪問介護事業の事務所として使用することを承諾する」とする必要があるため、事前に自治体で要件をチェックしましょう。

☑ここがポイント

物件の「使用目的欄」にどのような表現で記載すべきか、管轄の自治体で事前に確認する。

マンション部屋番号が付いている場合に注意

会社の本社住所を登記する場合、登記申請先である法務局は住所の記載内容のチェックは一切行いません。例えば、不動産賃貸借契約書に次のような記載があるとします。(住所は架空です)

大阪府高槻市吉田町1-2-3山田マンション101号室

まず、調査すべきは高槻市役所に電話をして、「1-2-3」が正式な住居表示では、どのように記載するのかを確認することです。

市役所の回答が「1丁目2番3号」だとします。法務局で登記申請する場合、下記のいずれでも受け付けてくれます。

①大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号山田マンション101号室
②大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号101
③大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号
④大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号101号室

※極論すると「吉田町」の部分を、実際には存在しない「山田町」と書いて申請しても通ってしまう場合があります。

さて①~④での比較検討ですが、

①居住用マンションの一室、小規模事業のイメージ
③住宅地の民家、小規模事業のイメージ

外部に対してこのような印象を与える可能性があります。

このあたりを検討して(また郵便物が正しく到着することを確認して)本社住所の表示を検討しましょう。個人的にはマンション名を省き、部屋番号だけにする④がお勧めです。

☑ここがポイント

郵便物が間違いなく届くことを前提に、マンション名や部屋番号の記載をどうするかは自由。小規模感をなくすためにマンション名を省くことをお勧め。

法人の決算月を決める

決算月の設定に制約はありません

良く聞く「決算セール」。12月や3月が多いですね。しかし商法・会社法・税法では決算月についての制約はありません。上場会社に12月や3月決算が多いのは、いわゆる総会対策であると言われています。

一定の条件を満たせば、だれでも定時株主総会(以下総会)に参加できるため、上場会社の総会に出席して様々な要望を投げかける方々がおられます。

このような方々も、同日にいくつもの総会に出席することは出来ないため、上場会社は揃って12月や3月に決算月を設定し、定時株主総会の実施日も統一して足並みを揃えるのです。

株式(出資)の保有が外部の第三者に渡っていない中小企業の場合、総会対策をする必要性が無いため、決算月に制約は殆どないわけです。

☑ここがポイント

外部株主がいない中小企業では、12月決算、3月決算にこだわる必要はない。

設立日と決算月の関係に注意しよう

例えば5月を決算月に設定する例で検討します。毎年6月1日~5月31日の期間の収支で決算申告することになります。

しかし設立1期目に限っては、以下の事例のようになるため注意が必要です。

【5月決算法人 設立1期目の決算事例】
①法人設立日が10月10日の場合 10月10日~5月31日の収支で決算
②法人設立日が3月20日の場合   3月20日~5月31日の収支で決算
③法人設立日が5月15日の場合   5月15日~5月31日の収支で決算

③の場合などは設立して15日間の活動収支でいきなり決算申告を迎えるわけです。多大な労力がかかりますね。このように考えると決算月の設定は、実際の法人設立日から1年近く先、例えば設立月の前月で設定するのが効率的だといえます。

なお、法人設立日はすなわち、法務局への登記申請日です。(年末年始、土日祝等を除く開庁日)大安や何らかの記念日を狙って登記申請する方が多いです。

登記簿謄本(登記事項証明書)に記載される項目の多くは後日変更が可能ですが、いったん法人が成立した後は、法人設立日の変更はできません

☑ここがポイント

設立日は会社の誕生日として永久に登記簿に記載。設立日から会社はスタートするため、決算月の設定は設立月の前月で設定するのがベター。

納税資金の確保に注意しよう

会社を運営する場合、避けて通れないのが納税資金。主な納税である法人税は、決算月から2ヶ月後の月末に納める必要があります。

さらにその納税から半年後には、中間納税として前年実績に応じた法人税を前倒しで納税する必要があります。

3月決算法人の例で示すと、次のようになります。

【3月決算法人の法人税】
 5月・・・法人税(本申告) つまり3月+2カ月
11月・・・法人税(中間申告)つまり5月+6カ月

次に大きな納税としては、従業員に支払う給与から源泉徴収する、源泉所得税

原則としては給与支給日の翌月10日に納税する必要がありますが、従業員数が10名未満の場合、「源泉所得税の納期の特例」の届出を行うことで、源泉所得税の納付を1月20日と7月10日にまとめる事が出来ます。

整理しましょう。3月決算法人の納税資金必要時期をまとめると、次のようになります。

【3月決算法人の納税時期】
 1月・・・源泉所得税
 5月・・・法人税(本申告)
 7月・・・源泉所得税
11月・・・法人税(中間申告)

上手く納税月が分散できますね。

しかし決算月は任意であるため、検討不足で決算月の設定をすると次のような現象が起こり得ます。

5月決算法人の納税時期】
1月・・・源泉所得税、法人税(中間申告)・・・2つの納税が重なる
7月・・・源泉所得税、法人税(本申告)・・・2つの納税が重なる

11月決算法人の納税時期】
1月・・・源泉所得税、法人税(本申告)・・・2つの納税が重なる
7月・・・源泉所得税、法人税(中間申告)・・・2つの納税が重なる

さらに補足すると、7月には労働保険料の概算納付や賞与の支給が重なることもあるため、極端な資金不足に陥ることが予測されます。5月決算と11月決算は避けたほうが良いでしょう。

☑ここがポイント

納税資金のことを考えて、5月決算、11月決算は避けたほうが良い。

法人の資本金を決める

(資本金制度のないNPO法人、一般社団法人に関しては考慮不要です)

消費税の課税問題は考慮しなくても大丈夫

資本金1000万円未満の法人では、法人設立1期目、2期目の消費税は、たとえ顧客から消費税を受け取ったとしても、納税の義務が免除されています。

しかし介護・障害者福祉事業におけるメインの売上げ(介護報酬)はそもそも消費税の課税対象外であるため、消費税の問題を気にする必要性がないのです。

☑ここがポイント

一般事業では消費税免税を考慮して、資本金1000万円未満の法人設立を行うことがあるが、介護・障害福祉事業はそもそも消費税免税だから資本考慮不要。

財務諸表(貸借対照表)への影響に注意する

上場会社と異なり中小企業の場合、一度資本金を出資すると、原則としてそれを取り戻す術がありません。例外的に可能な場合と言えば、あなたの出資金(株式)を誰かが全部または一部を買い取ってくれる場合などです。

参考までにオーナー(=経営者)が会社の運転資金を出す方法としては、次の2つがあります。

〇資本金・・・会社から返還を受けるのは手続き上困難
〇一時貸付・・・会社に資金余裕が出ればいつでも返還可能

一時貸付を会社の立場から見た場合、「役員借入金」と言います。つまり「会社が役員からお金を借りている」という状態です。

資本金5,000千円とした場合、財務諸表(貸借対照表)で言うと、資本金は下表に位置づけられます。(単位千円)

資産の部 負債の部
現金・預金 1,000 買掛金・未払金 1,000
売掛金・未収入金 300 銀行借入金 3,000
前払金・仮払金 20    
車両 2,500 負債合計 4,000
土地建物 5,000 資本の部
貸付金 100 資本金 5,000
権利金 300 繰越利益 520
敷金 300 資本合計① 5,520
資産合計 9,520 負債・資本合計② 9,520

会社の繰越利益とともに資本合計①が会社の底力を表します。ここがマイナスになるといわゆる債務超過です。

①÷②を自己資本比率と呼び、高い=底力があり、安定しているという指標になります。

事例では①5520千円÷②9520千円=57.9%。非常に良好です。(30%以上が望ましい)

一方で、設立時に資本金を1000千円しか入れなかったため、途中で資金が不足するケースを想定します。

4000千円をオーナー(経営者)が負担した場合の財務諸表(貸借対照表)は次のようになります。

資産の部 負債の部
現金・預金 1,000 買掛金・未払金 1,000
売掛金・未収入金 300 銀行借入金 3,000
前払金・仮払金 20 役員借入金 4,000
車両 2,500 負債合計 8,000
土地建物 5,000 資本の部
貸付金 100 資本金 1,000
権利金 300 繰越利益 520
敷金 300 資本合計① 1,520
資産合計 9,520 負債・資本合計② 9,520

自己資本比率は、①1520千円÷②9520千円=15.9%となり、先の事例に比べ大幅に低下することが分かります。

結論として、十分な必要資金額を予測して、資本金の設定を行うことが望ましいと言えます。

☑ここがポイント

事業のために必要となる金額をしっかりと計画し、資本金として支出する

法人の出資者と役員を決める

法人の支配、最高意思決定者に注意する

株式会社、合同会社では出資者、社団法人では理念に賛同する人(社員と呼びます)が最高意思決定者です。

実務運営上の意思決定は、後で述べる役員や代表者が行うわけですが、その役員自体を選ぶ権限が出資者(社団法人では社員)にあります。

意思決定は通常「2分の1以上」「3分の2以上」の議決で可決するため、なるべく主たる経営者とその親族で3分の2以上の比率を確保しましょう。

なお、設立時の出資者・社員は定款に記載する必要がありますが、事後的にも変更できます。出資者・社員の氏名が外部に公開されることはありません。

☑ここがポイント

役員や代表者を選ぶ権限は出資者(一般社団では社員)にある。主たる経営者と親族で3分の2以上確保を。

役員の給与に注意する

役員(取締役や理事)は、先ほどご説明した最高意思決定機関である出資者・社員によって選ばれます。その中から代表者が選ばれるわけです。

注意が必要なのが役員の給与。税務上では役員報酬と呼びます。役員報酬は原則として、1年間固定です。

意図的な増減により、会社に残る利益のコントロール(納税コントロール)を制限するためです。

また賞与を支給しても構いませんが、役員の賞与は事前に金額と支給日を税務署に届け出る必要があるため、中小企業では役員賞与は支給せず月額に折り込みます。

よって、しっかりとした業績予測を行い、完全固定で給与を設定する必要があるのです。

なお、非常勤役員に給与(役員報酬)を設定することも可能ですが、役割に対してあまりに高額な設定をすると、税務上否認される恐れがあります。

☑ここがポイント

1年間の業績をしっかりと予測して、各役員の給与(役員報酬)を決定する。

一般社団法人の収益課税問題に注意する

(収益法人である株式会社・合同会社に関しては考慮不要です)

まずは下の図をご覧下さい。

  一般社団法人 株式会社 合同会社
非営利法人 普通法人
法人税課税 収益事業課税 全所得課税

一般社団法人のうち、非営利型と認定される法人は、収益事業課税つまり、外部から得る収益を①収益事業、②非収益事業に分け、①収益課税のみに課税されます。

逆にいうと、一般社団法人(普通法人)、株式会社、合同会社などは外部から得る全ての収益に課税される全所得課税となります。

では、簡単に非営利型に認定される要件と、非収益事業の例をご説明しましょう。

【非営利型に認定される要件】
①親族など、特殊関係にない理事が3名以上(名義だけ借りるのはNG)
②剰余金の分配禁止を定款で定める
③解散したとき、残余財産を国等に帰属させる

【非収益事業の例】
①助成金・補助金
②会費・寄付金
③障害者が半数以上を占める事業

介護保険事業における介護報酬は、次の通り通達が出ており、収益事業であると定められています。

【介護サービス事業に係る法人税法上の取扱いについて(法令解釈通達)】
課法2ー6 平成12年6月8日
当庁は、公益法人等が行う介護サービス事業は、照会に係る事業内容等を前提とすれば、法人税法施行令第5条に規定する収益事業に該当する旨回答しました。

役員の構成をうまく工夫すれば、就労移行支援・就労継続支援の事業で法人税非課税を目指せるかもしれませんね。

☑ここがポイント

就労移行支援、就労継続支援A型、B型は状況によっては法人税非課税となる可能性も。

法人設立後の労働社会保険の加入手続き

法人で加入する労働社会保険の種類

介護・障害者福祉事業の分野では、雇用関係のコンプライアンス遵守が厳しくチェックされます。

法人設立登記が済んだら、次に労働社会保険の加入手続きに着手しましょう。

保険名称 備えるリスク
厚生年金保険 老後資金(国民年金の上乗せ)
健康保険 仕事以外の病気・怪我・出産
介護保険 要介護・要支援状態
雇用保険 失業、休業中の生活補償
労災保険 仕事中の怪我、死亡

加入者(被保険者)には、幾つかの要件が法律で定められています。逆に言うと、要件に合致すれば強制加入となりますので、会社や本人に加入・非加入の選択権があるというわけではありません。

以下、少し細かく内容を見ていきましょう。

厚生年金・健康保険・介護保険

法人の場合、従業員数に関わらず社会保険(厚生年金・健康保険・介護保険)の強制適用事業所となります。厚生年金・健康保険・介護保険はセット加入です。

交通費を含む月給の約15%を徴収、同額を会社が負担して納付します。

【月給20万円、交通費2万円の場合の厚生年金・健康保険・介護保険】
33,000円。同額を負担し、66,000円を納付

役員を除くすべての従業員が被保険者(加入対象者)となりますが、次の方は除かれます。(一例)

【被保険者から除かれる人】
・所定労働時間が正社員の4分の3未満の人(概ね、週30時間未満)
・2ヶ月以内の有期雇用

☑ここがポイント

概ね週30時間労働で社会保険(厚生年金・健康保険・介護保険)の加入義務。会社や本人に選択権はない。

扶養制度

女性主婦パートの方を雇用するとします。そこで問題となるのが、①ご主人の扶養問題と②社会保険加入問題です。

さらに、①ご主人の扶養問題はア)社会保険(3号年金・健康保険・介護保険)の扶養問題と、イ)所得税の扶養問題に分かれます。

時給1200円の女性主婦パートの方を雇用する場合、労働時間に応じて次の点に留意する必要があります。(雇用保険については後述内容をご参照下さい)

月間勤務 72h 86h 90h 98h 130h 131h
月給 8.5万 10.3万 10.8万 11.7万 15.6万 15.7万
年収 103万 123万 130万 141万 187万 188万
社会保険 加入できない 加入義務
〃 扶養 夫の扶養に入れる 夫の扶養に入れない
夫所得税 配偶者控除 配偶者特別控除 控除なし
雇用保険 加入できない 加入義務

女性主婦パートさん本人にとって、メリットのある項目をグレー背景の太字で示しています。

これを見ると、労働時間100~130時間、月給12~15万、年収145~180万円という、最も多くの方が該当しそうなボリュームゾーンで、次のデメリットが生じることになります。

【時給1200円。労働時間100~130時間の方のデメリット】
①社会保険(3号年金・健康保険・介護保険)で夫の扶養から外れる
②所得税で夫の扶養から外れる(配偶者控除・特別控除ともに)
③本人もパート勤務先で社会保険に加入できない(国民年金1号被保険者として、自分で年金を納付。単独で国民健康保険)

上記内容は、女性主婦パートさんを雇用する場合の、話し合い材料として是非参考にしてください。

☑ここがポイント

「扶養の範囲で働きたい」という要望があった場合は、年収が130万円未満となるように労働時間を調整する。

雇用保険

雇用保険は本人が月給(交通費含む)の0.3%、会社0.6%、合計0.9%(令和2年)を会社が納付します。

前述の厚生年金・健康保険・介護保険に比べると負担率は低いですが、1年分の前納が必要です。ただし、一定の要件に合致すれば三分割も可能です。

加入対象となる被保険者は、概ね週20時間労働以上の方です。(役員を除く)

☑ここがポイント

雇用保険の負担は社会保険に比べて低額、かつ扶養問題がないので、加入・非加入のラインにこだわる必要はない。

労災保険

労災保険は業種の危険率に応じて、交通費を含む月給の0.25%~7.9%を会社が全額負担します。介護・障害福祉事業の場合0.3%です。

こちらも1年分の前納が必要です。(要件に合えば分割可)

加入対象となる被保険者は、パートを含む全従業員です。(役員を除く)

☑ここがポイント

少しでも働けば怪我の危険があるため、労災保険は役員全員が自動加入。

法人設立後の税務署等への届出手続き

社会保険の手続きと並行して、税金関係の手続きを行いましょう。

源泉所得税

給与(報酬)支給の都度、会社は源泉徴収を行い、全従業員(役員を含む)分を本人に代わって税務署に納付する義務があります。

納期は原則として、給与支給日の翌月10日ですが、後述する源泉所得税納期特例に関する届出を提出すれば、7月10日と1月20日にまとめて納付することが認められています。

さらに、年内最後の給与において、本人からの申告に基づき各種税額控除を計算し、還付・徴収をする必要があります。(年末調整

☑ここがポイント

給与から徴収する源泉所得税は毎年7月と1月にまとめて納付することができる。

住民税

源泉所得税同様、給与(報酬)支給の都度、会社は源泉徴収を行い、全従業員(役員を含む)分を本人に代わって、各従業員の住民登録がされている各市町村に納付します。

人数が増え、各従業員の居住地が増えると事務処理が非常に大変です。

源泉所得税と異なり、半年分をまとめて納付するという特例が認められていないため、毎月10日に納付する必要があります。入社初年度は、現在課税中の住民税の残額を会社に報告してもらい、それを分割して源泉徴収し、納付することになります。

☑ここがポイント

住民税には、まとめ納付という制度がないため毎月10日期限で会社が納付する必要がある。

税務関係届出

法人設立が済んだことを、課税主体である3つの管轄に届出する必要があります。3つの管轄とは、

ア)税務署・・・法人税(国税)
イ)府県税事務所・・・法人府県民税、事業税(地方税)
ウ)市役所、町村役場・・・法人市町村民税(地方税)

主となる届出は「法人設立届」です。これは単に法人の設立、代表者、決算月、資本金などを通知するものです。

この法人設立届とは別に、税制上のメリットを受けるための届出が多々あります。一部をご紹介しましょう。

手続き名称 手続きの効果・目的
青色申告承認申請 発生する赤字を翌年度に繰り越し、黒字と相殺できる
源泉所得税の納期特例承認に関する申請 源泉所得税の納税を年2回に取りまとめる
棚卸資産の評価方法の届出 選択により、有利な在庫評価方法を選択できる
減価償却資産の償却方法の届出 選択により、有利な減価償却方法を選択できる
申告期限の延長特例申請 申告期限+1ヵ月間、法人税の納付遅れの罰則を逃れる

 手続きが漏れるとメリットを逃してしまいます。会社設立登記後、即実行しましょう。

☑ここがポイント

「青色申告承認申請」は法人設立登記日から3カ月が期限。送れないように管理を。

長文のコラム、最後までお読み頂き有難うございます。

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