前稿では日本に数ある法人の種類の中で、現実的に介護・障害者福祉事業を開設するためには、株式会社・合同会社・一般社団法人の3社択一であることをご説明しました。

本稿では設立する法人の種類を選んだ後に、具体的に決定すべきことのうち、会社名称(商号)と事業目的について注意点とともに開設します。

 

介護・障害者福祉事業の会社名称(商号)を決める

1.類似商号に注意しよう

会社法改正前までは、最小行政区域(例:市町村)内に、類似の会社名がある場合には会社の設立登記が出来ませんでした。

しかし、会社法が改正された後は、同じ住所(ビル内など)に類似会社名がなければ、設立が可能となっています。

つまり、登記の上ではほぼ制約なしに会社名を決定することが出来るわけです。

一方で、不正競争防止法・商標法などを根拠に、ライバイル会社から会社名(商号)の類似性を訴えられるケースが増えています。

インターネット、自治体から指定を受けている介護・障害者福祉事業者の名称リストを確認し、類似の会社名(商号)がないかどうかを事前確認しましょう。

2.お客様から振込みを受けることを念頭に置こう

経理業務に携わったことのない方には分かりにくいかもしれませんが、会社名称(商号)はそのまま銀行通帳の名義になります。

次のような会社名称(商号)は振り込んで下さるお客様に余計な手間や間違いを起こさせてしまう原因となります。

・会社名称(商号)が長い
・アルファベットや数字を多用する
・「ふりがな」がなければ読めない難しい漢字を含む

起業の理念を会社名称に組み込みたいところではありますが、事業の発展のためには万人に知ってもらい、親しんでもらう必要があります。

最優先は読みやすさです。複雑な会社名称は極力避けましょう。

3.会社名称(商号)でWEBの対策を行う

ある人がインターネットで特定のWEBサイトへアクセスする場合、その手法は主に2つあります。

①検索キーワードを入力し、高順位に来ているサイトへアクセスする

②検索キーワードを入力し、広告枠に表示されるサイトへアクセスする

さらに①は2つに分類され、

①-1 業種・サービス名称・商品・地域などのキーワードで提供事業者を探す

①-2 特定の「事業者名」を直接入力して探す

①-1の対策技術は複雑高度化しており、競争の激しい業界(キーワード)で上位表示させるためには相当の専門知識が必要です。(専門に請け負っている業者も多数存在します。)

しかし①-2はWEB関連の知識のない素人でも上位表示が可能です。

試しに当事務所名称である「タスクマン」をヤフーやグーグルで検索してみて下さい。おそらく上位3件は当事務所の関連サイトだと思います。

この手法で上位表示を狙うためには、他にない個性的な会社名称(商号)にする必要があるわけです。例えば、多数ありそうな「株式会社スマイル」などでは、①-2の手法での上位表示は相当難しいでしょう。

4.設立法人の印鑑を作る

会社名称(商号)が決まったら、印鑑の作成を行いましょう。

 ア)実印(登記印) 登記後、印鑑証明書が発行されるようになります。 
 イ)銀行印 銀行口座の開設に必要となります。
 ウ)角印  請求書・領収書などに捺印します。(浸透印も可)
 エ)認印  必要に応じて、会社実印の代わりに捺印します。

ア)の実印(登記印)だけ必須作成です。イ)はア)との兼用も可能。ウ)エ)はそもそも任意の印鑑です。

 

介護・障害者福祉事業の事業目的を決める

1.行政指定を受ける場合、検討は慎重に

会社の事業目的は行政指定(許認可)を受ける際に、非常に重要となります。

つまり、行政指定(許認可)を行う側の自治体が、「この事業目的が入っていなければ指定(許認可)を与えない」という条件があるのです。

以前は、訪問介護・通所介護・リハビリテーションなどの細目ごとに事業目的の登記が必要とされていましたが、現在では以下のように包括的な表示を認めている自治体も存在します。

・介護保険法に基づく居宅サービス事業
・介護保険法に基づく介護予防サービス事業
・介護保険法に基づく居宅介護支援事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく一般相談支援事業
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく特定相談支援事業

事前に管轄自治体に相談して慎重に検討しましょう。

2.就労継続支援A型で起業する場合は特に注意

①介護・障害者福祉事業所の法人設立手続きでもご説明しましたが、就労継続支援A型での起業を予定している場合は特に注意が必要です。

厚生労働省令に次のような規定があります。

厚生労働省令第171号(第189条)
指定就労継続支援A型事業者が社会福祉法人以外の者である場合は、当該指定就労継続支援A型事業者は専ら社会福祉事業を行う者でなければならない。

逆に言うと、就労継続支援A型を行う場合、事業目的には「福祉」分野以外を記載することはできません

「起業時には介護・障害者福祉の分野でスタートするが、将来は飲食店・物販業を・・・」

等と考え、事業目的にそれらを記載すると、就労継続支援A型事業所の行政指定(許認可)を受けることが出来なくなります。

3.就労継続支援A型以外で起業する場合は将来の追加コストに注意

就労継続支援A型作業所を行う場合、事業目的には福祉関連分野以外の記載が出来ないわけですが、就労継続支援A型以外で起業する場合は、その制限がありません。

将来、飲食店・物販業などに進出したいと考える場合、事後的に事業目的を追加するには法務局で手数料(1回30,000円)を支払う必要があるため、できる限り実施可能性のあるビジネスを列挙しましょう。

記載数に制限はありませんが、会社の登記簿(登記事項証明書)はだれでも請求して内容を見ることができるため、脈絡のない事業目的を羅列すると、いったい何の会社なのか?との疑念を与えかねません。

 

介護・障害者福祉事業の本社住所を決める

1.会社設立登記前後の不動産賃貸契約に注意

会社設立登記申請日時点で、本社住所が決定されている必要がある以上、不動産の賃貸借契約または仮契約を事前に済ませておく必要があります。

当然、契約・仮契約時点では会社設立が済んでいないため、代表者の個人名義で契約することになります。

その場合必ず、「会社(法人)で事業を行う旨」を不動産会社に伝えましょう。

契約名義が代表者個人から会社に変わるだけで、名義変更手数料(数万円、時に10万円を超える場合もある)を請求される場合があります。

2.指定(行政許認可)を出す自治体が求める使用承諾に注意

介護・障害者福祉事業で管轄自治体に指定(許認可)申請を提出する場合、必ずチェックされる点があります。

それが、使用目的(事業内容)に対する家主の承諾です。つまり、家主が「何の目的で使用することに承諾しているか」と言うことです。

試用承諾に関しては不動産賃貸借契約書の中に必ず記載があります。行政指定(許認可)権限を持つ自治体では、

【不動産賃貸借契約書の記載事項】

× 事務所として使用することを承諾する
○ 介護事業所、障害者作業所として使用することを承諾する

上記の見解を持っている自治体も存在するため、事前にチェックしましょう。

3.マンション部屋番号が付いている場合に注意

会社の本社住所を登記する場合、登記申請先である法務局は住所の記載内容のチェックは一切行いません

例えば、不動産賃貸借契約書に次のような記載があるとします。(住所は架空です)

大阪府高槻市吉田町1-2-3山田マンション101号室

まず、調査すべきは高槻市役所に電話をして、「1-2-3」が正式な住居表示では、どのように記載するのかを確認することです。

市役所の回答が「1丁目2番3号」だとします。法務局で登記申請する場合、下記のいずれでも受け付けてくれます。

①大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号山田マンション101号室
②大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号101
③大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号
④大阪府高槻市吉田町1丁目2番3号101号室

※極論すると「吉田町」の部分を、実際には存在しない「山田町」と書いて申請しても通ってしまう場合があります。

さて①~④での比較検討ですが、

①居住用マンションの一室、小規模事業のイメージ
③住宅地の民家、小規模事業のイメージ

外部に対してこのような印象を与える可能性があります。

このあたりを検討して(また郵便物が正しく到着することを確認して)本社住所の表示を検討しましょう。

 

労務専門コラム 介護・障害者福祉 設立編

>>①介護・障害者福祉事業所の法人設立手続き
>>②会社設立形態 法人の種類と比較一覧表
>>③設立法人の種類を比較しよう
>>④会社設立~会社名称、本社住所、事業目的を決めよう
>>⑤会社設立~決算月、資本金、出資者、役員を決めよう
>>⑥会社設立後に必要な届出手続き
>>⑦障害者作業所 就労移行支援・就労継続支援(A型B型)
>>⑧就労移行支援、就労継続支援(A型B型)の事業者要件
>>⑨雑記 宗教法人と非営利型社団法人の比較
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