⑤介護保険基礎 介護事業者の指定申請
■介護事業の指定を考える前に
1.介護事業の種類を確認しよう
介護事業を行い、介護報酬を得るためには、行政から指定(または許可。以下指定で統一)を受ける必要があります。
ここで言う「行政」とは都道府県知事または市町村長のことを指しています。まずは下記の表から、次の2点を確認しましょう。
・7種類の介護サービスのうち、どこに該当するか
・その介護サービスの指定権者
7種類の介護サービスと指定権者
サービスの種類 | 指定権者 |
①居宅サービス事業者 | 都道府県 |
②居宅介護支援事業者 | |
③介護予防サービス事業者 | |
④介護老人保健施設・介護老人福祉施設 | |
⑤地域密着型サービス事業者 | 市町村 |
⑥地域密着型介護予防サービス事業者 | |
⑦介護予防支援事業者 |
※平成30年には居宅介護支援事業者の指定権限が市町村に委譲される計画です。
2.指定件数の多い、居宅サービス事業者の内訳
上記表の7種類の介護サービスはさらに詳細に分類されます。例えば、指定件数の圧倒的に多い上記の表の①居宅サービス事業者の内訳は次の通りです。
・訪問介護事業
・訪問入浴事業
・訪問看護事業
・訪問リハビリテーション事業
・通所介護事業
・通所リハビリテーション事業
・短期入所生活介護事業
・短期入所療養介護事業
・居宅療養管理指導事業
・特定施設入居者生活介護事業
・福祉用具貸与事業
3.申請スケジュールを確認しよう
他の事業分野の行政許認可と異なり、介護事業の指定は申請受付日と指定日(営業開始日)が厳格に定められています。申請件数が非常に多いため、審査を標準化・画一化するのが狙いであると思われます。
したがって、介護事業を開始するに当たっては、指定日(営業開始日)をいつに設定するかを決定し、逆算で法人設立・事務所賃貸契約・介護事業申請を計画だてる必要があります。
各自治体によって取扱いは異なりますが、申請スケジュールはおおむね次の通りです。
毎月10日ごろまでに受理した申請について、翌月1日で指定を受けることができます。申請書に不備がある場合、補正が必要です。その期間も計算に入れましょう。
設例では10日に受理されている事が必要なため、申請受付期間の早めの日に(例:前月25日)提出しておきましょう。申請には事前予約制度を採っている自治体が多く、その申請予約の受付期間も厳格に定められている場合があるため、注意が必要です。
(申請期限に遅れると、例外なく翌月回しとなりますので、この点だけは鉄壁に!)
■さあ介護事業の指定申請を準備しよう!
1.各自治体で微妙に異なる指定要件に注意
次に肝心の指定申請について説明します。
指定申請は、介護保険法という国の法律で定められているにもかかわらず、申請先の大半が市町村となるため、その判断基準に大きな差があります。都道府県が申請先の場合であっても、全域を幾つかの区域に分割し、申請先を分けている場合があります。
そのため、全国一律に介護事業者の指定申請を指南するガイドを作りにくいのです。一例を挙げると、「相談者のプライバシーを守る設備」の要件。
広いワンフロアを簡易パーテションで区切る程度でよいのか、部屋として独立させる必要があるのか。このあたりは、申請先により判断基準が大きく分かれるところと言えます。
したがって、介護事業者の指定申請では、事前相談を行うのが鉄則です。事前相談を行い、担当者の確認を得ることで、事後のトラブルを回避しましょう。
2.指定要件 3つの重要事項を抑えていますか?
介護事業者の指定申請で(細かい点は抜きにして)まず大前提として抑える必要があるのは、次の3点です。この3点を見逃すと介護事業の指定申請の土台にすら乗りませんので、注意しましょう。
①申請者(会社)の要件
介護事業を営むためには、法人である必要があります。つまり、個人事業主では介護事業者の指定を受けることができません。すでに何らかの事業を行っている事業者であれば、登記上の事業目的の追加で事足ります。
これから新しく法人を設立する方の場合、現在の会社法制度ではいくつかの法人形態を選べますが、事実上は株式会社、合同会社、一般社団法人の3者択一となるでしょう。
法人設立に当たっては、登記上の事業目的の文言記載によって、市町村または都道府県の介護事業者指定を受けられない場合があるので、事前相談をお勧めします。
なお大阪府の場合は、下記の通り、細かい文言を気にせず、包括的な記載で問題ありません。
(1)介護保険法に基づく居宅サービス事業
【該当する事業名】
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、通所介護
短期入所生活介護、特定施設入居者生活介護
福祉用具貸与、特定福祉用具販売(2)介護保険法に基づく介護予防サービス事業
【該当する事業名】
介護予防訪問介護、介護予防訪問入浴介護、介護予防訪問看護、介護予防通所介護
介護予防短期入所生活介護、介護予防特定施設入居者生活介護
介護予防福祉用具貸与、特定介護予防福祉用具販売(3)介護保険法に基づく居宅介護支援事業
【該当する事業名】
居宅介護支援
②人員の要件
指定を受ける介護サービスにより差があります。一例として大阪府堺市の指定訪問介護の要件を記載します。
訪問介護の人員配置基準
職種 | 資格要件 | 配置基準 |
管理者 | なし | 専らその職務に従事する常勤の者1名 |
サービス 提供責任者 |
・介護福祉士 ・実務者研修修了者 ・(旧)介護職員基礎研修課程修了者 ・(旧)訪問介護に関する1級課程修了者 ・看護師、准看護師 |
訪問介護員の中から、専ら指定訪問介護の職務に従事する常勤の者を利用者40人またはその端数を増すごとに1名以上 ※下表参照 |
初任者研修修了者または(旧)訪問介護に関する2級課程修了者で3年以上介護等の業務に従事した経験を有する者は、資格要件に合致するが減算対象。 | ||
訪問介護員 | ・介護福祉士 ・実務者研修修了者 ・初任者研修修了者 ・(旧)介護職員基礎研修課程修了者 ・(旧)訪問介護に関する1、2級課程修了者 ・看護師、准看護師 |
常勤換算法で2.5名以上(サービス提供責任者含む) |
サービス提供責任者の配置基準の詳細
サービス提供責任者 | |||
利用者数 | 常勤 | 常勤換算法 | 非常勤配置 |
40以下 | 1 | – | – |
41~80 | 2 | 1 | 1 |
81~120 | 3 | 2 | 1 |
121~160 | 4 | 3 | 1 |
161~200 | 5 | 4 | 1 |
注意点
①非常勤のサービス提供責任者については、常勤者の2分の1以上の勤務時間が必要です。
②利用者数には障害者総合支援法における指定を受ける場合、その利用者も含みます。
③上記②の場合でも、訪問介護単体で人数基準を満たす必要があります。
用語の解説
【常勤】
事業所で定める常勤職員以上の勤務時間に達することをいいます。最低32時間です。【専ら専従】
その職種以外の仕事をしないことをいいます。
③事業所の要件
こちらも指定を受ける介護サービスにより差があります。一例を挙げると、指定通所介護では次のような設備要件がありますので、抜粋掲載しておきます。
設備の種類 | 設備の条件 |
食堂・機能訓練室 | 定員1名あたり、3㎡ |
静養室 | ふとん・ベッドが置ける程度 |
相談室 | 遮蔽物によって会話が漏れない程度 |
■平成24年施行 改正介護保険法
「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(以下平成24年介護保険改正)」を確認しましょう。平成24年介護保険法改正で第一に掲げられているのが次の項目です。
医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが連携した要介護者等への包括的な支援(地域包括ケア)を推進
この指針に基づき、全国の都道府県では市町村に対する指定権限の委譲が進められています。一例として大阪府と奈良県の指定権限の委譲をご紹介します。
大阪府の介護事業指定権限の委譲
移譲(予定)年月 | 移譲対象市町村 |
---|---|
平成23年10月から | 池田市、箕面市、豊能町及び能勢町(広域連携により実施) |
茨木市 | |
島本町(老人福祉法に基づく老人居宅生活支援事業開始届受理等に関する事務のみ) | |
平成24年1月から | 富田林市、河内長野市、大阪狭山市、太子町、河南町及び千早赤阪村(広域連携により実施) |
柏原市 | |
平成24年4月から | 大阪市、堺市(指定都市) |
(改正介護保険法の施行による大都市特例) | 高槻市、東大阪市、豊中市(中核市) |
平成24年7月から | 吹田市 |
平成24年10月から | 八尾市 |
岸和田市、泉大津市、貝塚市、和泉市、高石市、忠岡町(広域連携により実施) | |
平成25年1月から | 枚方市 |
松原市 | |
平成25年4月から | 泉佐野市、泉南市、阪南市、熊取町、田尻町、岬町(広域連携により実施) |
(阪南市、岬町は老人福祉法に基づく老人居宅生活支援事業開始届受理等に関する事務は移譲済み) | |
平成25年10月から | 寝屋川市 |
奈良県の指定権限の委譲
平成24年4月から | 奈良市 |
人口50万人以上の政令指定都市、20万人以上の中核市などへ、介護事業者の指定権限が委譲されている様子が分かります。
■小規模型通所介護を地域密着型サービスへ移管
平成27年4月から定員18名以下の小規模型通所介護(以下デイサービス)は地域密着型サービスへ移管されています。これが何を意味するのでしょうか?
地域密着型サービスとは、そもそも指定・監督権限が市町村にあります。小規模型デイサービスが地位密着型サービスに移管された背景には、その事業者数の過多があります。
初期投資が少なくて済む小規模型デイサービスは、ニーズの高い一定の地域に集中し、その逆が進まないという問題点がありました。これらの問題点を是正するために、指定権限を市町村へ移し、地域包括ケアシステムの元で、偏りなく介護事業者を配置するのが狙いです。
今後は、市町村の計画数に達している地域では、新たな小規模型デイサービスの指定を受けることが出来なくなります。
■労務専門コラム 介護保険のしくみ編
>>①介護保険基礎 制度を取り巻く体制
>>②介護保険基礎 要介護状態と被保険者
>>③介護保険基礎 要介護認定
>>④介護保険基礎 介護保険サービスの種類と名称
>>⑤介護保険基礎 介護事業者の指定申請
>>⑥介護保険基礎 地域支援事業
>>このカテゴリ(介護保険のしくみ編)のトップへ戻る
これから介護事業で起業を計画されている方へ。起業時には物件の賃貸契約、人材の確保、利用者集めなど重要な事項が多々あります。そこで、法人の設立や各種届出、介護事業の許可(指定)などの手続きを専門事務所にお任せになりませんか?低コストであなたをバックアップ致します。
>>介護事業設立、運営支援、特設ページはこちら
【この記事の執筆・監修者】

- (いのうえ ごう)
-
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
◆タスクマン合同法務事務所 代表
〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
(電話)0120-60-60-60
06-7739-2538