キャリアップ助成金(正社員化コース)の制度変更|令和4年4月、10月改定

令和4年キャリアップ助成金改正
井ノ上剛(社労士・行政書士)

キャリアップ助成金(正社員化コース)の受給要件が変更されました。主なポイントは令和4年4月1日以降の「有期雇用→無期雇用(旧受給額28.5万円)が廃止された点、同年10月1日以降の「非正規社員の正社員転換」の要件が厳格化された点です。今回のコラムでは厚生労働省のQ&Aに基づいて 「非正規社員の正社員転換」 の概要説明を行います。

賞与または退職金制度を就業規則に定める

就業規則に、正規社員転換後は賞与または退職金の少なくともどちらかが支給される旨を記載する必要があります。退職金よりも賞与規定の方が整備しやすいため、賞与を基準にご説明します。

就業規則に、

「賞与は成績査定の上、毎年〇月、〇月に支給する」

との規定があり、それに基づき賞与支給がなされていれば問題ないものと思われます。一方で「場合によっては支給しない可能性がある」ときの判断について、厚生労働省のQ&Aに例が示されています。

「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある」

この記載だけをもって不支給になることはない、とのこと。ただし、

「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」

といったように、原則不支給の規定の場合や、

「賞与の支給は会社業績による」

といったように、原則として賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。

正規社員の昇給制度を就業規則に定める

就業規則に「年1回賃金改定を行う」などの客観的な昇給基準を定める必要があります。例えば介護福祉職員処遇改善加算の算定に伴い、賃金体系図や昇給時期などが明記されている場合は、客観的な昇給基準が定まっていると判断されるものと思われます。

厚生労働省のQ&Aには「必ずしも昇給するとは限らない(据え置きや減額)場合」の事例が示されていますので、ご参考になさって下さい。

〇支給対象となる例
(例1)毎年1回、各等級の役割遂行度を評価 し、基本給の増額又は減額改定を行う。
(例2)昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行う。ただし会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。

×不支給になる例
(例3)会社が必要と判断した場合には、会社は賃金の昇降給その他の改定を行う。

(例3)の記載では、客観的な昇給基準とは言えないためです。

有期雇用契約の期間を就業規則に定める

就業規則等上に有期雇用契約についての「契約期間」を定める必要があります。この定めがない場合は、たとえ雇用契約書で契約期間を定めた場合でも、無期雇用労働者とみなされます。(有期→正規の申請であっても、無期→正規として半額での支給決定)。就業規則の記載例をご案内します。

有期雇用契約社員の雇用契約期間は6か月とする

非正規社員に適用される賃金規程を定める

正規社員への転換前6か月以上の期間継続して、正規社員とは異なる(非正規社員用の)賃金基準が適用されている必要があり、その賃金基準を就業規則に定める必要があります。

ここで言う「賃金基準」については基本給、賞与、退職金、各種手当等について、1つ以上で正規社員と非正規社員に差があること、が例として示されています。

例えば、

・正規社員は賃金体系図で最低基本給が19万円だが、非正規社員は一律18万円
・非正規社員は賞与なし

等を就業規則に明示すれば支給要件を満たすものと考えらえます。要はこの規定に基づき6か月以上継続雇用された非正規社員が、キャリアップ助成金(正社員化コース)の対象となるわけです。

最後に

今回のコラムでは、令和4年10月改定のキャリアップ助成金(正社員化コース)について、ご説明しました。この他にも細かい審査基準があることにご注意頂きつつ、主要な改正ポイントを押さえて今後の人事労務管理にお役立頂ければ幸いです。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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