【令和4年2月開始】介護職員処遇改善支援補助金について

介護職員処遇改善支援補助金
井ノ上剛(社労士・行政書士)

令和3年度補正予算で、「介護職員処遇改善支援補助金」の制度が新たに設けられました。現行の処遇改善加算とは別枠で、毎月の総報酬×1~2%の交付率で支給される見込みです。今回のコラムでは政府の発表に基づき、令和4年1月1日時点で判明してる範囲で、 「介護職員処遇改善支援補助金」 の概要説明を行います。

読むのが苦手な方向けに同じ内容の動画もご準備しています。

このコラムの推奨対象者

・介護職員処遇改善支援補助金について詳しく知りたい方
・介護職員処遇改善支援補助金と介護職員処遇改善加算の違いを知りたい方

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和4年1月)現在、介護障害福祉事業の累積設立支援実績463社。多くの顧問先から「介護職員処遇改善支援補助金」についてご質問を受けています。このコラムは政府発表に基づいて執筆していますので、どうぞ安心してお読みください。

処遇改善加算との比較

初めに、類似制度である 「介護職員処遇改善加算」との比較を行いましょう。 介護職員の賃上げという目的においては、 「介護職員処遇改善支援補助金」と 「介護職員処遇改善加算」 は同じですが、 「介護職員処遇改善支援補助金」が補正予算で組まれている点が異なります。つまり制度開始時点では令和4年9月までの臨時的な措置であると言うわけです。

  処遇改善支援補助金(新設) 処遇改善加算(既存)
対象業種 介護保険事業
(訪問看護、訪問リハ、福祉用具販売貸与、居宅介護支援は対象外)
対象職種 介護職員+その他職員 介護職員のみ
計算方法 総報酬 × 交付率 (基本報酬+各種加算)× 加算率
交付率・加算率 職員数に応じた交付率 取組内容に応じた加算率(Ⅰ~Ⅲ)
事前届出 ×
計画書提出
実績報告
制度期間 令和4年9月までの臨時制度
(以後も継続を検討)
恒常的制度

なお、障害福祉事業においては「福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金」という名称で補助金が準備されています。内容は概ね同じようです。

「介護職員処遇改善支援補助金」の受給額は?

続いて、「介護職員処遇改善支援補助金」によって、実際にどれくらいの受給額が見込めるのかを確認しましょう。発表では、職員数に応じた交付率とされていますが、現段階で示されている交付率は各事業1種類のみです。

主要な介護保険事業

事業種別 交付率
訪問介護 2.1%
通所介護 1.0%
地域密着型通所介護 1.0%

その他の介護保険事業

事業種別 交付率
夜間対応型訪問介護 2.1%
定期巡回随時対応型訪問介護看護 2.1%
(介護予防)訪問入浴介護 1.0%
(介護予防)通所リハビリテーション 0.9%
(介護予防)特定施設入居者生活介護 1.4%
地域密着型特定施設入居者生活介護 1.4%
(介護予防)認知症対応型通所介護 2.1%
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 1.6%
看護小規模多機能型居宅介護 1.6%
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 2.0%
介護老人福祉施設 1.4%
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 1.4%
(介護予防)短期入所生活介護 1.4%
介護老人保健施設 0.8%
(介護予防)短期入所療養介護/老健 0.8%
介護療養型医療施設 0.5%
(介護予防)短期入所療養介護/病院等  0.5%
介護医療院 0.5%
(介護予防)短期入所療養介護/医療院  0.5%

事業所側で為すべき手続きは?

それでは実際に 「介護職員処遇改善支援補助金」 を受給するために、事業所側でどのような手続きが必要となるのかを見ていきましょう。

【R4.1月】介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲいずれかを取得する

「介護職員処遇改善支援補助金」 の要件として、

令和4年2月サービス提供分について、介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲいずれかを取得していること

と定められています。つまり令和4年2月時点で介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを取得していない場合、補助金の対象外となります。

【R4.1月】補助金見込み額を計算する

次の確認作業は、補助金見込み額の計算です。これは 「介護職員処遇改善加算」の場合でも同じですね。要するに 「介護職員処遇改善支援補助金」 が

総報酬額 × 交付率

で支給されるため、補助金受給額を見込んだ上で、その金額に見合う賃上げを行いましょう、と言う意味です。詳細は発表されていませんが、「介護職員処遇改善支援補助金」も処遇改善加算同様に、

補助金支給額 < 賃上げ額

となるように、計画書および実績報告書で示さなければならないものと予測します。

【R4.1~4月】就業規則・賃金規程等を変更する

「介護職員処遇改善支援補助金」は補助額の2/3以上をベースアップのために使うことが要件とされているため、就業規則・賃金規程の変更が必要となります。「ベースアップ」については、

①基本給
②決まって毎月支払われる額

がその定義とされています。①は賃金体系図の金額書き換えですね。②は各事業所で位置づけが異なると思いますが、例えば資格手当や役職手当の金額を書き換える事が想定されます。

①②によって、介護職員の収入を3%程度(月額9,000円)引き上げることが制度の目的です。この3%(月額9,000円)というのは政府が掲げるスローガンのような位置づけであるため、事業所側には3%(月額9,000円)といった明確な賃上げ義務は課されないものと予測します。

【R4.2~3月】ベースアップまたは一時金による賃上げを実施する

「介護職員処遇改善支援補助金」は令和4年2月または3月のベースアップが要件となります。年度の開始(4月)を待たず、事業所側に賃上げを先行させるのが、大きな特徴であると言えます。要するに補助金後払い制です。

岸田新内閣発足時期の補正予算であることも関係し、一刻も早くコロナ克服経済対策を実現するために、補助金支給に先行して介護労働者の賃上げを緊急に行って欲しい、との思惑かと思います。

一方で就業規則や賃金規程(賃金体系図)の変更には一定の時間を要するため、次の対処方法も認められます。

✓ 特例措置
①令和4年3月に、2月分を含めた賃金改善を行う
②令和4年2月~3月の賃金改善はベースアップではなく、一時金の支給とする。

いずれにせよ、国から「介護職員処遇改善支援補助金」が支給される6月から逆算すると、かなり先行して賃上げする必要がある訳です。

【R4.2月】賃上げを実施した旨を自治体に提出

「介護職員処遇改善加算」と異なり、「介護職員処遇改善支援補助金」制度では、処遇改善計画書の提出前に、「賃上げをした旨の書面」を自治体へ提出する必要があります。

ポイントは、「賃上げをします」ではなく「賃上げをしました」との結果報告であるという点です。

【R4.4月】処遇改善計画書を提出

自治体側の受付体制が整う、令和4年4月から「介護職員処遇改善支援補助金」に関する処遇改善計画書の受付が始まります。各報道では事業所側の書類作成負担増加を懸念する声が上がっているため、現行の処遇改善加算計画書よりも作成のための労力は減るのではないか?と予測しています。

その他の要点

①計画書においては個別労働者ごとの賃金改善額の記載は必要なく、事業所全体の賃金改善額の記載で問題ありません。

②介護職員以外の「その他の職員」も、「介護職員処遇改善支援補助金」による賃金改善が可能です。この点、介護職員処遇改善加算と異なります。例えば、通所介護における看護職員機能訓練指導員などが「その他の職員」として想定されます。

【R4.?月】交付決定

交付決定がどのような形式でいつ頃行われるか、令和4年1月1日時点では未定です。

【R4.6月~】補助金毎月交付

「介護職員処遇改善支援補助金」 が毎月の総報酬×交付率で計算されるため、介護報酬と同じく、算定月から2か月遅れで入金されるものと予測します。

【R4.9月】対象期間終了 実績報告書提出へ

「介護職員処遇改善支援補助金」 は令和3年度補正予算での取り組みであるため、ひとまず令和4年9月までを対象としています。要は制度創設タイミングにおいては、臨時的な措置であるわけです。

10月以降については「引き続き調整・検討予定」とされていることから、制度が継続することが予測されます。介護事業所にベースアップ(賃上げ)させておいて「後は知りません」とはできませんから。

いずれにせよ、一旦9月までが一つの区切りとなるため、9月までの賃上げ結果について、実績報告書の提出が必要となります。 「介護職員処遇改善加算」の制度を準用して、最終9月分の補助金が入金される11月+2か月程度、つまり令和5年1月が実績報告の提出期限となるのではないか?と予測しています。

実績報告書作成においては次の2点に留意しましょう。

実績報告書提出に関する留意点

①計画書と同じく、個別別労働者ごとの賃金改善額の記載は必要なく、事業所全体の賃金改善額の記載のみ。

②要件を満たさない場合には、補助金返還もあり得る。

最後に

このページに記載している内容は、今後の政府の詳細発表に伴い、随時加筆修正して参ります。

しっかりと情報収集し、皆様のお役に立てる情報配信に努めてまいりますので、ご理解の程、どうぞよろしくお願い致します。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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