介護・障害福祉事業立ち上げ時期の就業規則作成のポイント 意見書とは何か?

介護・障害福祉事業立ち上げ時期の就業規則作成のポイント 意見書とは何か?

このコラムを読むと分かること(3分で読めます)

・就業規則の作成要件が理解できる
・就業規則作成や更新時に必要となる「意見書」について理解できる
・介護事業・障害福祉事業立ち上げ時期の就業規則作成のポイントが理解できる

介護事業・障害福祉事業立ち上げに伴って、一定の条件を満たすと就業規則の作成、届出が必要になる。このコラムでは、就業規則作成のポイントや必要になる意見書について、わかりやすく解説する。

コラムの目次

①就業規則とは
②意見書とは
③介護事業・障害福祉事業の就業規則で注意するポイントは
④まとめ

①就業規則とは

職場のルールを定め、労使双方がそれをしっかり守っていくことは、労働者が安心して働くためにとても重要なことである。就業規則は、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などの職場のルールを定める規則集のことである。

就業規則の作成が必要になる要件は?

常時10人以上の労働者(パート、アルバイト含む)を使用している事業所は、就業規則を作成し、過半数労働組合または労働者の過半数代表者からの意見書を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出る必要がある。就業規則の変更をする場合も同様の手続き。

介護事業・障害福祉事業立ち上げ時は10人未満であったものの、後日10人以上となった場合には、その時点で作成が必要になる。また時として10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用していれば当てはまる。

就業規則の周知義務

就業規則は作成届出だけでなく、各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付等による労働者への周知も義務付けられている。あるいは、会社PC等でいつでも閲覧できる状態であればよいとされている。

過去の裁判では、就業規則に記載されていた項目が、従業員へ周知が図られていなかったことを理由に無効扱いになった例もあるので、注意しておきたい。

絶対的必要記載事項

以下の項目は就業規則に必ず記載しなければならない。

・始業就業時間、休憩時間、休日、休暇、交替勤務がある場合はその内容
・賃金の決定方法、支払いの方法、賃金の締切り及び支払い時期、昇給に関する事項
・退職に関する事項

相対的必要記載事項

事業所で定めがある場合には、次の事項も記載が必要になる。

・退職手当・賞与、最低賃金額に関する事項
・食費、作業用品などの負担に関する事項
・安全衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害情報、業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰、制裁に関する事項
・その他労働者に適用される事項

②意見書とは?

意見書の法的位置づけ

意見書は、就業規則の作成または変更の内容に対し、労働者側の意見を記載する書面。使用者は、就業規則の作成または変更について、過半数労働組合がある場合においてはその労働組合、過半数労働組合がない場合においては過半数代表者の意見を聴き、その意見書を記した書面を添付して届出なくてはならない。

法の趣旨としては、就業規則の作成または変更について、一定範囲で労働者側に発言の機会を与え、その内容をチェックさせるというもの。意見聴取義務違反に対しては、30万円以下の罰金が科せられる。

意見書の必要記入事項

意見書へ記入する事項は、「就業規則に対する意見」、「労働組合の名称又は労働者の過半数を代表する者の職名、氏名」、「労働者の過半数を代表する者の選出方法」。

異議がない場合には、「異議がありません」と記入してもらう。代表者の選出方法は「投票による選挙」などと記入。

意見書の作成単位と提出方法

就業規則は常時10人以上の労働者を使用する「事業所ごと」に作成するが、それに対応し、意見書も「事業所ごと」に作成する。就業規則はHTML形式で作成したうえで、CDなどの電子媒体で届け出ることが可能だが、意見書は「書面」で提出する必要があるので注意が必要。

過半数代表者の選出方法

介護事業・障害福祉事業立ち上げ時には、労働組合がない場合も多いかと思われるが、その場合は過半数代表者を選出する。

過半数代表者は、投票、挙手、労働者の話合い、持回り決議等、労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きで選出する必要がある。

当然、労基法41条にいう「管理監督者」は代表者にはなれない。選出方法は事前に決めておく方がよい。

③介護事業・障害福祉事業の就業規則で注意するポイントは

介護事業・障害福祉事業はパート等の非正規スタッフが多く、その傾向は今後も続くと思われる。そのため、介護事業・障害福祉事業においては、同一労働同一賃金の観点はどうしても避けては通れない。

以下で詳しく紹介するが、同一労働同一賃金の観点を踏まえると、非正規スタッフに対しては正社員とは別に就業規則を定めておく方がよい。

同一労働同一賃金の観点

2020年4月より、非正規労働者の待遇改善を目的とし、いわゆる「同一労働同一賃金」に対する法的強制力が強化される。正社員と同一視できる者はもとより、業務の内容や責任の程度が異なる場合であっても、その違い以上の不合理な待遇差は明確に禁止される。

例えば、パートだからという理由で、ボーナスや通勤手当がゼロというのは認められず、罰則規定はないものの法違反とされる。

非正規スタッフの就業規則策定にあたっては、正社員との区別を明確にし、賃金等の格差が不合理とされないよう十分注意することが必要になる。

基本給やボーナス、昇給に差があるのであれば、職種変更・配転命令、時間外・休日労働命令、労働条件変更等について、正社員と明確に異なる条件を定めておくことが必要になってくる。

④まとめ

このコラムで解説した就業規則のポイントは次のようになる。

・介護事業・障害福祉事業立ち上げに伴い、常時10人以上の労働者(パート、アルバイト含む)がいる場合には就業規則の作成が必要。

・就業規則の作成、変更にあたっては、事業所の過半数代表者または過半数労働組合の意見書が必要。

・介護事業・障害福祉事業立ち上げ時は労働組合がない場合が多いと思われ、事前に過半数代表者の選出方法を決めておく方がよい。

・「同一労働同一賃金」の法改正を踏まえ、非正規スタッフに対しては、正社員とは別に就業規則を定める方がよい。

介護事業・障害福祉事業の発展を支えるのは、なによりそこで働くスタッフ一人一人。スタッフが安心して働ける職場環境を作るためにも、就業規則で職場のルールを明確に定め、みんなで共有しておくことはとても重要なことである。このコラムが、就業規則の内容をあらためて見直すきっかけとなり、介護事業・障害福祉事業の労務環境向上につながればうれしい。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
     06-7739-2538