どんな行為がパワハラになるの? 介護・障害福祉事業におけるパワハラ防止に向けた法整備

就労移行支援、就労継続支援A型B型、就労定着支援の比較

このコラムを読むと分かること(3分で読めます)

・パワハラ法制化の概要がわかる
・パワハラの定義が理解できる
・介護事業を含む事業主に求められる措置の内容がわかる

パワハラ自殺の事件が大きな話題となっている。法制化により、一層パワハラへの関心が高まると思われ、介護事業においても細心の注意が必要となる。このコラムでは、パワハラ法制化の内容ついてわかりやすく解説する。

コラムの目次

①パワハラ法制化の概要
②パワハラの定義とは
③介護事業を含む事業主が講ずべき措置とは
④まとめ

①パワハラの法制化の概要

パワーハラスメント防止対策を事業主に義務付ける規定が、法整備された。施行は令和2年6月1日。中小企業は令和4年4月1日。介護事業を含むすべての業種が対象となる。

主な内容は以下の4点である。

(1) 事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を義務づけ。

適切な措置を講じていない場合には是正指導の対象となる。

(2)パワーハラスメントに関する紛争が生じた場合、調停など個別紛争解決援助の申出を行うことができるようになる。

(3)労働者が事業主にパワーハラスメントの相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いを禁止

(4)パワハラ等の防止に関する国・事業主・労働者の責務を明確化

 パワハラ等は行ってはならないものであり、事業主・労働者の責務として、他の労働者に対する言動に注意を払うよう努めるものとされた。

なお、「労働者」には、パートなどのいわゆる非正規労働者、派遣社員も含まれる。介護事業における登録スタッフも当然対象になる。

②パワハラの定義とは?

介護事業を含む、各職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義される。

(1)優越的な関係を背景とした
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
(3)就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たらない

「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

さらに、裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、具体的には次の6類型が典型例として示された。

1)身体的な攻撃 ・・暴行・傷害
2)精神的な攻撃 ・・脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し ・・隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求 ・・業務上不要(不可能)なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求 ・・過度に程度の低い仕事の命令、疎外
6)個の侵害 ・・私的なことに過度に立ち入ること

精神的な攻撃の例としては、指針案では以下の内容が挙げられている。

・人格を否定するような言動、発言を行うこと
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること

介護事業を含む実際の職場でも、部下に対する指導に熱が入ってくると、上記の例に該当してしまう可能性もありえるので、あらためて注意いただきたい。

③介護事業を含む事業主が講ずべきとされる措置とは?

令和2年6月1日の改正法施行に向けて、政府はパワハラの具体例や事業主が講ずべき措置をまとめた指針の作成を進めている。指針案では、介護事業を含む事業主が講ずべき措置を以下のように示している。

・事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発をはかること

・相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること

・職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応を行うこと

・相談者・行為者等の プライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること

・パワーハラスメントの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

・事業主は、例えば、セクハラ等の相談窓口と一体的に、職場におけるパワーハラスメントの相談窓口を設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましい

・コミュニケーションの活性化や円滑化のために研修等の必要な取組を行うこと

・適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組を行うこと

・必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めること

・他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい

④まとめ

このコラムで解説したパワハラ法制化のポイントは次のようになる。

・パワハラ防止対策が法律に明記される。施行は令和2年6月1日。中小企業は令和4年4月1日。介護事業も当然対象。

・パワハラのパターンは、大きく6分類に分けられている

・相談者の不利益取扱いの禁止など、介護事業を含む事業主が行うべき措置が規定される

特に介護事業を開業直後の場合、代表者が現場のケアに入り、一般スタッフと行動を共にすることもある。自分の方針通りに物事が進まないことが続くと、知らず知らずのうちに厳しい態度をとってしまうこともがあるかと思うが、パワハラと指摘をうけないよう、あらためてご注意いただけたら幸いである。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
     06-7739-2538