雇用契約と業務委託(請負契約)の違い-労働者性の判定

雇用契約と業務委託(請負)契約の違い、すなわち労働者性の判定ポイント

このコラムを3分読めば理解できること

・雇用契約と業務委託(請負)契約の違いが理解できる
・表面上は業務委託(請負)契約でも雇用契約と認定された判例が理解できる

雇用契約と業務委託(請負)契約の違いとは何だろうか?このコラムでは過去の判例に基づき、雇用契約と業務委託(請負)契約の判別ポイントについて社会保険労務士が詳しく解説する。

このコラムの目次

①なぜ雇用契約と業務委託(請負)の判別が問題となるのか
②雇用契約と業務委託(請負)契約の判定ポイント
③雇用契約と業務委託(請負)契約についての最新判例
④このコラムのまとめ

①なぜ雇用契約と業務委託(請負)の判別が問題となるのか

このコラムでは「雇用契約と業務委託(請負)契約の違い」をテーマとして取り上げているが、まず冒頭で、なぜ「雇用契約と業務委託(請負)契約の判別が問題となるのか」について説明しよう。雇用契約と業務委託(請負)契約の判別問題は、

「会社」 対 「個人A」

であり、ここで言う個人Aがすなわち、労働者(雇用契約)に当たるのか個人事業主(業務委託・請負契約)に当たるのかという問題である。

つまり会社の立場から考えると、個人Aが労働者(雇用契約)に当たる場合、労働基準法、最低賃金法、労働社会保険法令の適用を受け、労務管理コストが高まるため、なるべく個人事業主(業務委託・請負契約)として取り扱いたいとの意識が働くのである。

雇用契約と業務委託(請負)契約の判別問題は、どのような業種においても発生する問題である。以下雇用契約と業務委託(請負)契約の判定のポイントについて詳しく解説していく。

②雇用契約と業務委託(請負)契約の判定ポイント

会社と個人Aの契約関係が雇用契約なのか、業務委託(請負)契約なのか。この問題は言い換えれば、

個人Aが労働者か否か

という問題であると言える。労働法の世界ではこれを「労働者性」と呼ぶ。労働者の定義については労働基準法に次の規定がある。

<労働基準法第10条>
この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう

労働基準法における「労働者」の定義はこれだけにとどまるため、過去において特定の個人の労働者性については、様々な判例が積み重ねられてきた。現在主流になっている考え方(労働者性の有無の判定)は以下のとおりである。

<労働者性の有無判定ポイント>
〇の数が多く、程度が強いほど労働者性が強まる

1.業務の遂行に関し、会社から指揮監督を受ける
2.始業時刻、終業時刻について拘束を受ける
3.業務の遂行場所について拘束を受ける
4.報酬の全部または一部が固定額または時間を基礎として支払われる
5.会社が源泉所得税の徴収を行い、個人が事業所得を申告していない
6.業務を拒否する自由がない
7.1社専属で拘束され、他社で業務遂行することが認められない
8.道具・器具または業務遂行に関する費用を会社が負担している

判例においては、契約書面ではなく実態によって判断する傾向だが、上記1~ 8の内容が契約書においてどのように記載されているか、という点も当然に労働者性判定のポイントとなることは言うまでもない。

<参考判例>
最高裁平成8年11月28日判決「横浜南労基署長(旭紙業)事件」
最高裁平成17年6月3日判決「関西医科大学研修医事件」

③雇用契約と業務委託(請負)契約についての最新判例

以下、直近の判例の中から、雇用契約と業務委託(請負)契約の判定、いわゆる労働者性の判定に資する判例を紹介しておく。

大阪地裁平成29年3月7日判決(ワ)7616号
開業予定者(研修生)に対して、会社が業務の日常的な指導を行い、給与明細を交付しかつ源泉徴収も行い、個人事業所得の申告の必要性について一切の助言を行わなかった事例・・・雇用契約と認定(労働者性あり)

東京地裁平成30年7月19日判決(ワ)18516号
芸能マネージャー業務に従事するAに対して、会社が業務従事時間を指示し、外出先と行動内容を報告させ、直帰の場合の報告を求め、会社費用負担による机、デスク、携帯電話を支給し、専属従事を強いた事例・・・雇用契約と認定(労働者性あり)

大阪地裁令和元年10月24日判決 平成29年(ワ)3758号
エステサロンにおいて、会社がエステシャンに対して、業務従事時間を報告させ、施術の拒絶と中抜けを禁じ、業務従事時間に応じた最低保証額を支給し、店舗経費のすべてを会社が負担していた事例・・・雇用契約と認定(労働者性あり)

④このコラムのまとめ

以上が雇用契約と業務委託(請負)契約の違い、すなわち労働者性の判定ポイントである。

契約の際にはお互いの合意により、「業務委託(請負)契約」が適法に成立したように思えても、以後の関係性悪化により、契約相手方である個人から「労働者性」の主張を受けるケースが散見される。

個別労働契約の成立、会社内の労務管理でお困りの際はぜひ当事務所までお問い合わせを。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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