内定、内々定の取り消しはできるか?試用期間中の解雇は?
このコラムを3分読めば理解できること
・内定と内々定の違い、試用期間の意味が理解できる
・内定、内々定の取り消し、試用期間中の解雇の留意点が理解できる
労働トラブルの発生頻度が高い、採用面接、内定から試用期間。このコラムでは内定と内々定の取り消し、試用期間中の解雇、応募者から内定辞退する場合の損害賠償について社会保険労務士が詳しく解説する。
このコラムの目次
①内定と内々定の違いは?
②試用期間とは?
③内定、内々定の取り消し、試用期間中の解雇の留意点
④内定、内々定の取り消し、試用期間中解雇についての最新判例
⑤応募者から内定辞退する場合の損害賠償は?
⑥このコラムのまとめ
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①内定と内々定の違いは?
内定の意味
採用の決定から就労開始まで一定の期間がある場合、わが国では内定という曖昧な表現で相互の関係性を規定している。
内定といっても、その内容は個別事情によって千差万別であり、一概に内定を定義づけることは困難だ。
例えば、
・労働契約は内定時に成立しており、単に就労時期が後日であるだけ説
・労働契約は内定時には成立しておらず、就労開始日に労働契約が成立する説
などが挙げられる。いずれにせよ、内定は労働契約の成立と密接な状態であることには変わりないだろう。
内々定の意味
内定でさえ、個別事情によりそのあり様は千差万別であるのに、わが国には内定の前段階であることを示す内々定なる状態が存在している。
内定、内々定とも法律用語ではないが、内定が労働契約の成立と密接な状態であるとすれば、内々定は少なくとも、労働契約成立の前段階であり、相互に労働契約の成立を期待する状態であると言うことができる。
・
②試用期間とは?
内定、内々定と異なり、試用期間は本採用の前段階ではあるが、実際の会社での就労が開始している。
この期間中、会社側は新たに採用した労働者の職務能力適正、勤務態度等を評価するとともに、採用過程では明らかにならなかった事実に基づき、引き続き本採用するに適当かどうかを判断する。
試用期間は本来このような目的を持っているため、試用期間中の解雇(本採用の取りやめ)については、試用期間を終えている労働者に比べて、その解雇理由を広く認めるとするのが、裁判所の一環した見解だ。
このような流れにより、我が国の司法界は試用期間のことを「解約権留保付き労働契約」と呼ぶ。言い換えれば、
労働契約を解約する権利が、会社側に認められている労働契約期間
となる。さらに内定期間については、「始期付き解約権留保付き労働契約」と呼ぶ場合がある。ここまでを整理しよう。
《試用期間》
解約権留保付き労働契約=労働契約を解約する権利が、会社側に認められている期間
《内定期間》
始期付き解約権留保付き労働契約=就労始期が到来するまで、労働契約を解約する権利が、会社側に認められている期間
この期間については、先に説明した通り、すでに入社し試用期間を終えている他の労働者に比べて、解雇基準が一定程度広く認められているのである。
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③内定、内々定の取り消し、試用期間中の解雇の留意点
内定の取り消し、試用期間中の解雇について
内定の取り消しと試用期間中の解雇については、いずれも会社の解約権がどのような場合に認められるのか、という共通点を理解する必要がある。
最高裁を含めた過去の判例ではいずれも、
客観的な合理性(理由)があり、社会通念上(常識で考えて)相当である場合に限り
解約権を認めることで一貫している。
〇最高裁昭和48年12月12日判決「三菱樹脂事件」
管理職要因として雇用した労働者が、過去の学生運動について虚偽(秘匿)の回答をしていたことが、試用期間中に判明し解雇。原審が解雇無効とした判決を最高裁が破棄差戻した事例
〇最高裁昭和54年7月20日判決「大日本印刷事件」
「暗い」との印象による試用期間中解雇を無効とした原審に対して、上告した会社の主張を最高裁が棄却した事例
内々定について
内定と異なり、労働契約成立の前段階である内々定については、先の内定取り消し、試用期間中解雇と異なり、いまだに労働契約が成立していないため、内々定取り消し権に対する制限は今のところ存在しない。
内々定を取り消されたことに対して、期待を裏切られ、一定の経済的損失または精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償や慰謝料が認められるにすぎないのである。
〇福岡高裁平成23年3月10日判決「コーセーアールイー事件」
内々定による労働契約成立を認めないものの、内々定を期待して他社への就職活動を終了した応募者に対する、会社側の損害賠償義務を命じた事例
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④内定、内々定の取り消し、試用期間中解雇についての最新判例
ここでは内定、内々定の取り消し、試用期間中解雇についての最新判例を取り上げる。
〇東京地裁平成29年4月21日判決 平成27年(ワ)24306号
内定(労働契約)の成立を認めないものの、大学新学部設置認可にかかる就任承諾書の提出などの過程を通じて、採用されることを期待した労働者の権利を侵害したことに対して、大学側の不法行為の成立を認めた事例
〇東京地裁平成30年4月12日判決 平成28年(ワ)29947号
内定の期待を抱かせていた応募者に対して、姪との婚約破談だけを理由に選考対象から外した行為が、応募者の期待権を侵害する行為だとして、信義則違反を理由に損害賠償を命じた事例
〇東京地裁平成29年3月29日判決 平成28年(ワ)11658号
「コミュニケーション能力不足」、「人の意見を聞かない」といった客観性に乏しい理由により、また具体的な損害を明らかにせず、本人への注意もしていない状態での試用期間中解雇が、客観的合理性を欠き、社会通念上相当とは言えないとして、解雇無効であるとされた事例
〇東京地裁判決平成30年6月20日 平成28年(ワ)38657号
経営の最高責任者として年収1850万円を上回る好待遇で雇用した労働者に対して、業務不適格を理由とした試用期間中解雇が認められた事例。なお判決ではこのような好待遇の経営責任者に対しては、試用期間中の懇切丁寧な改善指導はそもそも必須とは言えないとも論じている。
〇東京地裁令和元年9月5日判決 平成31年(ワ)3947号
好待遇の即戦力管理職として採用された労働者が、事業部間の意思疎通能力を欠き、かつ履歴書に記載された内容が事実と異なることを原因に、試用期間中解雇したことが認められた事例
〇東京地裁令和元年9月18日 平成29年(ワ)42659号
管理職候補として採用された労働者が、部下への対応過程で部下に適応障害を生じさせ、かつ取引先への対応が理由で関係修復困難な状態を生じさせたことを原因に、試用期間中解雇したことが認められた事例。なお当該労働者は上司の改善指導に従う姿勢が欠けていた
〇東京地裁令和元年12月20日判決 平成30年(ワ)39037号
再三の業務指導に従わず、また内定時期、会社所有車両を運転中物損事故を生じさせたにもかかわらず、適切な報告連絡相談を行った労働者に対する、試用期間中解雇を認めた事例。
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⑤応募者から内定辞退する場合の損害賠償は?
就職活動を行う応募者が、複数の内定を得た中から1社を選択して就職するという国内の慣行を前提に考えると、採用する側が「当社に必ず入社する」と無条件に期待することは、必ずしも適切であるとは言えない。
採用する側(会社)の期待権が認定し得ない以上、内定辞退者に対する損害賠償請求が認められる事例は少なく、採用する側が、入社手続き上、代替性のない備品を購入したような事情がない限り、実際の損害賠償請求は困難であると言える。
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⑥このコラムのまとめ
以上が内定、内々定の取り消し、試用期間中の解雇の検討ポイントである。中小企業において解雇事例が最も多く発生するのは、採用決定から入社直後、つまり内々定時期、内定時期、試用期間である。
労働契約の締結、試用期間の設定についてお困りの際はぜひ当事務所までお問い合わせを。
【この記事の執筆・監修者】
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※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
(電話)0120-60-60-60
06-7739-2538
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