労働組合法上の労働者と使用者
・
■労働組合法と労働基準法で定める労働者の定義
1.プロ演奏家に団体交渉権があるか?
プロ演奏家が労働組合を結成し、会社に団体交渉を申し入れました。
会社は「雇用関係がない」として、交渉を拒否。労働委員会もその判断を支持しましたが、最高裁では労働組合法上の労働者性を認めました。
2.プロ演奏家と言えども、労働者性を認める場合がある
CBC管弦楽団労組事件
最高裁 昭和51年5月6日第一小法廷判決
最高裁の判決要旨は次の通りです。
たとえプロ演奏家と言えども、有名芸術家とは異なり、演奏の芸術的価値を評価されているというよりも、演奏という労務の提供それ自体の対価を受けているに過ぎない。
そのような場合は、支払われる契約金は生活保障給である(つまり給料)として、労働組合法上の労働者性を認める。
3.労働者の定義を再確認しよう
労働組合法と労働基準法にそれぞれ労働者の定義があります。
【労働組合法 第3条】
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。【労働基準法 第9条】
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
ポイントは使用従属関係。判例では、使用従属関係には触れず、支払われている金員がどのような意味を持つか(給与か否か)を判断根拠としました。判例では、「労働者」の概念が絶対的なものではなく、労働基準法・労働組合法で異なることを示している点がポイントです。
・
■労働者(雇用契約)と業務委託者(請負・委託契約)の判定基準
1.業務委託員の労働者性
業務委託として会社と契約を締結している委託員。
会社に団体交渉を申し入れ、認められた事件です。
2.労働者と業務委託の定義を再確認しよう
INAXメンテナンス事件
最高裁 平成23年4月12日第三小法廷判決
先のCBC管弦楽団労組事件に示されるように、労働基準法と労働組合法ではその立法の目的が異なるため、労働者の定義も異なります。
両法の労働者の範囲を示すと、次のようになります。
労働基準法(狭) < 労働組合法(広)
労働組合法は、労働者救済の目的が強いため、その対象範囲も広いと言うわけです。
INAXメンテナンス事件では、上記の関係図を
労働基準法 = 労働組合法
と、労働組合法上の労働者を狭く定義しつつも、当該業務受託者(以下A)を労働組合法上の労働者であると認定しました。
3.業務委託ではないとする判断基準
認定基準を示します。
①業務受託者が不可欠な労働力として、組織に組み込まれていた
②Aと会社の契約条件は、会社が一方的に決定し、Aに変更余地はなかった
③報酬が等級ごとの歩合制であり、時間外手当の概念があった
④Aは業務を直ちに遂行する義務があり、平均拒否割合は1%弱だった
⑤業務委託契約は会社に異議があれば、更新されなかった
⑥担当地域は会社が決めていた
⑦Aは業務日の8時から19時までは発注指示を受ける義務があった
⑧Aは会社の制服を着用し、名刺を持つ義務があった
⑨業務終了後に会社所定の報告書を提出する必要があった
⑩Aのサービス提供は会社のマニュアルで規定されていた
以上の項目から、業務受託者Aが労働組合法上の労働者に当たるとし、会社に団体交渉を受ける必要性を認めました。
上記①~⑩は通常、労働基準法上の労働者性を判定する際の基準であり、改めてこれを労働組合法上の労働者性判断に用いた点がポイントです。
・
■下請会社の社員が元請会社に団体交渉
1.他社就労している労働者の団体交渉に応じる義務はあるか?
会社(使用者)が直接雇用していない労働者の属する労働組合からの団体交渉に応じる必要があるかが争われた裁判です。
最高裁は、事例の会社の労働組合法上の「使用者性」を認め、団体交渉に応じる必要があると認めました。
2.実質的支配関係により、団交受諾義務の要否を判断
朝日放送事件
最高裁 平成7年2月28日第三小法廷判決
放送業界では、放送会社からの発注で下請け会社が番組制作を行うのが一般的です。当該事例の労働者(A)は下請け会社に属していましたが、労働の態様は放送会社の実質的な支配下にありました。
結果的に最高裁は放送会社を、労働組合法上の使用者と認定したのですが、その根拠を下記に示します。
①放送会社がAの作業日時、作業時間、作業場所、作業内容を決定していた
②Aは放送会社が貸与する機材を使用していた
③Aは放送会社の作業秩序に組み込まれ、同社社員とともに仕事していた
④Aは同社ディレクターの指揮監督下に置かれていた
以上から、放送会社は下請け会社と同視できる程度の支配関係を持つとして、労働組合法上の使用者性を認めたのです。
3.二つの判例の比較
INAXメンテナンス事件が、会社と業務受託者の労組法上の関係を争点にしていたのに対し、朝日放送事件は会社と他社従業員の関係を争点にした判例であると言えます。
【この記事の執筆・監修者】
-
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
(電話)0120-60-60-60
06-7739-2538
【最近の投稿】
介護・障害者福祉 設立編2024-12-23【令和6年度法改正対応】訪問介護の特定事業所加算(体制要件編)|特定事業所加算ⅠからⅤごとに解説|訪問介護の開業講座⑮ 介護・障害者福祉 設立編2024-12-16【令和6年度法改正対応】2人の訪問介護員による報酬加算|夜間・早朝・深夜加算|訪問介護の開業講座⑭ 介護・障害者福祉 設立編2024-12-10【令和6年度法改正対応】生活援助の単位数|通院等乗降介助と身体介護の適用関係、院内介助の位置付け|訪問介護の開業講座⑬ 介護・障害福祉事業を開業されたお客様の声2024-12-03放課後等デイサービスを開業されたお客様の声《放課後等デイサービスうららか 様》