④基礎から学ぶ任意後見制度
■任意後見とは?
成年後見制度には、判断能力の状況によって利用できる2つの制度があります。
判断能力が低下する前・・・任意後見
判断能力が低下した後・・・法定後見
法定後見が、本人の判断力が低下後(以下痴呆発症等と言います)に裁判所が中心となって本人保護の内容を決めるのに対して、任意後見は痴呆等発症前に本人の意思で保護の内容を決めることができます。
つまり、法定後見とは異なり本人の意思・尊厳が最大限尊重される制度であると言えます。
1.任意後見契約の方法
痴呆等発症前に、本人の意思を明確に示すためにはお手製の書類では認められません。
公証人役場で、任意後見に関する意思を公正証書で作成する必要があります。
ちなみに誰を後見人にするかについては、一切本人の自由です。
2.後見人の監督方法
本人の意思・尊厳を最大限尊重する制度である任意後見ですが、痴呆等発症後に後見人を監視する仕組みが必要です。
そこで、任意後見では裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力がスタートします。いわゆる門番の門番。二重の監視体制ですね。
3.任意後見のサポート内容
任意後見契約で最もニーズが高いと思われるのが、介護福祉施設への入居契約の代理です。
その他にも任意後見契約では介護の契約、預貯金引出、不動産の処分などを委任できます。
人間誰しも避けては通れない「老い」
そして家族が直面する「痴呆等」
社会全体でこの課題を克服すべき時代に突入しています。
4.任意後見制度を利用する際の費用
任意後見制度の契約締結と利用開始には、一般的に12万円程度の費用がかかります。
内訳は次の通りです。
・公証役場の手数料 11,000円
・法務局に納める印紙代 2,600円
・法務局への登記費用 1,400円
・郵送料 540円
・用紙代 1,000円
・戸籍謄本等 3,000円
・任意後見監督人選任 800円
・同登記費用 1,400円
・同郵送料 2,980円
・鑑定費用 100,000円(司法統計によると5~10万円)
5.任意後見制度を利用する際の報酬
任意後見制度を利用する場合は、本人と後見人の「任意後見契約」の中で報酬について決定します。
法定後見制度の利用と違う点は、任意後見人の他に「任意後見監督人」の報酬が必要であることです。
任意後見監督人は家庭裁判所が選任する「任意後見人の監視役」ですが、報酬についても家庭裁判所が決定します。
■任意後見制度利用の際の注意点
1.任意後見監督人とは?
任意後見契約の発動は、家庭裁判所による任意後見監督人の選任からです。
自分の判断能力が低下した場合に備えて、任意後見人との間で任意後見契約を締結。
実際に判断能力が低下したとき、任意後見監督人の選任を裁判所に申し立てるわけです。
2.任意後見監督人申立人権利者は?
任意後見監督人の申立てをすることができる人は以下の人々です。
ア)本人(任意後見契約の本人)
イ)配偶者
ウ)四親等内の親族
エ)任意後見受任者
3.受任者しか契約の存在を知らなかったら?
では、もし仮に任意後見契約の締結の事実を、
「本人と任意後見受任者」
しか知らなかったらどうなるでしょう?
遠方に住んでいる親族が知らないうちに、本人の判断能力がどんどん低下していく。
任意後見契約に基づいて、任意後見監督人の選任を申し立てるべき受任者が、申立をしない。
つまり、任意後見監督人が選任されず、監視が働かない状態がつづく。
そればかりか、仮に受任者が本人との間で財産管理を受任している場合、財産を不正に費消していく。
(実際、このような事件を起こす事件が起こっています)
任意後見契約の締結はオープンに。
家族だけではなく、入居している介護施設などにも、その締結の事実だけは伝えておきましょう。
■任意後見契約できること、できないこと
任意後見契約とは、自分に代わって「将来」自分の財産管理や契約などの法律行為を自分の信頼できる人にお願いし、引き受けてもらう契約です。
ここでの「将来」とは、自分の判断能力が低下した後という意味です。
任意後見契約は、自分の意志で自分の信頼する人にお願い(委任)するので、安心して任せられるという事です。
任意後見契約によりお願い(委任)できる事務は、法律行為に限られます。
1.委任できること(法律行為)
・介護施設との契約
・銀行との取引
・不動産や預貯金の管理
2.委任できないこと(家事・生活支援)
・コンビニでお弁当を買ってきてもらう
・夕食を作ってもらう
・自宅の掃除をしてもらう
■労務専門コラム 認知症・成年後見編
>>①基礎から学ぶ成年後見制度
>>②成年後見・保佐・補助の仕組み
>>③老いと死の不安を解消する6つの支援制度
>>④基礎から学ぶ任意後見制度
>>⑤財産管理契約・日常生活自立支援・死後事務契約
>>⑥悪質商法・詐欺商法から高齢者を守る
>>⑦認知症と不動産売却・遺産分割(相続)
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