⑤財産管理契約・日常生活自立支援・死後事務契約
■任意後見契約の発動前の財産管理契約
1.任意後見契約を利用するには?
任意後見契約とは、将来自分の判断能力が低下した後の事について、自分自身で、信頼できる人に委任(お願い)し、引き受けてもらう契約です。
「契約」である以上、本人に判断能力が備わっている必要があります。本人の判断能力の低下後は原則として任意後見契約は締結できません。
2.判断能力が低下するまでは何も対応してくれない?
判断能力は備わっているが、身体的に日常生活が難しく、外出などできない場合はどうしたらよいのでしょう?
この場合、「任意後見契約」と同時に「財産管理契約」を締結する事をおすすめします。
任意後見契約はあくまで本人の判断能力が低下し、家庭裁判所により任意後見監督人が選任されてから開始するので、効力が開始するまで相当の年月を経る事も考えられます。
財産管理契約を同時に締結する事によって、直ちに財産管理や身上監護等に関する事務を行う事が可能です。そして、判断能力が低下した後には、財産管理契約は終了し、家庭裁判所の手続き等を経て、任意後見契約の事務処理がスタートします。
■財産管理人への報酬はいくら必要?
1.財産管理人には必ず報酬が必要か?
では、財産管理契約を結んだ場合、財産管理人に必ず報酬が必要なのでしょうか。
実は、特別な約束をしない限り、無償が原則なのです。
財産管理契約は、民法に規定されている委任契約の一種です。そして、委任契約は特別の約束を当事者で結ばない限りは無償とされています。(民法第684条1項)
ですから、財産管理契約を結ぶと必ず報酬が発生するわけではありません。
2.財産管理人への報酬の相場はいくら?
では、本人と受任者(財産管理契約を引き受けた人)との間で、報酬を定める場合、報酬の相場は一体どれくらいでしょうか。
絶対的な基準はありません。委任する事務の複雑さや本人の収入などの状況などによっても違ってきますが、大まかな相場は次の通りです。
【受任者が親族の場合】
一般的には無報酬(もちろん親族であっても、報酬を定めて構いません)【専門職(弁護士、司法書士、行政書士など)の場合】
月額報酬は1~5万円が実態のようです。
■日常生活自立支援事業で受けられるサービス
成年後見制度を利用するほどではないけれど、1人で日常生活を送るのが難しくなってきた・・・。
このような場合に利用できる、地域の社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」についてご説明します。
日常生活自立支援事業は生活支援が必要な方に対して、社会福祉協議会が「お手伝いする」サービスです。
サービス内容はあくまでも、「日常生活」に関するものに限られます。成年後見制度と異なり、高額な財産(不動産・宝石・貴金属)の処分などは対象外です。
一例として大阪市社会福祉協議会が実施している日常生活自立支援事業(呼称:あんしんさぽーと)が実施しているサービスを紹介しましょう。
1.福祉サービスの利用援助
様々な福祉サービスの利用相談です。このようなサービスを利用するためには、申請手続きが必要ですが、1人で書類へ記入したり、申請手続きのために役所へ訪問するのが困難な方を支援する仕組みです。
なおここで言う「福祉サービス」は一般に公共のサービスに留まるため、入院や施設入所などは対象外です。
2.日常金銭管理
日常生活に最低限必要な金銭の管理をサポートします。食費や家賃の預金からの引き出し、公共料金・福祉サービス・医療費などの支払いなどに限定されます。
先にご説明したとり、高額な預金取引はサポートの対象外です。
3.書類預かり
通帳、クレジットカード、有価証券、遺言などを預かるサービスです。
■「日常生活自立支援事業」の利用対象者は?
次の1、2の両方に該当する方が利用できます。
1.判断能力が不十分な方
認知症、知的障害者、精神障害者などで日常生活を単独で営むのが難しい方。
これらの方々の自立した生活を支援するのが日常生活自立支援事業の目的です。
2.日常生活自立支援事業の趣旨が理解できる方
制度の利用のためには「利用者の申込」、「社会福祉協議会等との契約」が必要です。そのためには本人がこの制度の趣旨を理解している必要があります。
本人が理解できなくても、後見人がついている場合なら利用できる場合があります。
3.日常生活自立支援事業と成年後見の関係は?
最後に成年後見制度との関係について考察してみます。
「本人の自立支援」という目的では、日常生活自立支援事業も成年後見制度も類似しています。
成年後見制度には「法定後見」、「任意後見」の2種類がありますので、日常生活自立支援事業を含めた3つを表で整理します。
日常生活自立支援 | 任意後見 | 法定後見 | |
求められる本人の判断能力 | 中 | 高 | 低 |
支援できるレベル | 日常生活のみ | 全 | 全 |
■成年後見人の死後事務
成年後見は本人の志望により終了します。
例外的に「応急措置」が必要な場合のみ、成年後見人の判断で仕事が継続する場合があります。
「応急措置」とは、死亡した被後見人の財産が消滅時効にかかる場合などに、適切な手続きをとることなどです。
よって、単なる「死亡後の関係者への通知」や「葬儀の手配」などは応急措置には含まれません。
これら、「死亡後の関係者への通知」や「葬儀の手配」は「死後事務」と呼びます。
死後事務は原則として法定相続人が行いますが、本人の希望により遺言で「死後事務の受任者」を指定するか、契約書で「死後事務委任契約」を締結することができます。
これらの方法を駆使することで、法定相続の陰に隠れがちな死後の手続きを円滑に依頼することができるわけです。
■労務専門コラム 認知症・成年後見編
>>①基礎から学ぶ成年後見制度
>>②成年後見・保佐・補助の仕組み
>>③老いと死の不安を解消する6つの支援制度
>>④基礎から学ぶ任意後見制度
>>⑤財産管理契約・日常生活自立支援・死後事務契約
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>>⑦認知症と不動産売却・遺産分割(相続)
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◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
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