介護障害福祉事業で開業する前に高齢者数と障害者数の推移を正しく理解しよう【介護障害福祉事業での開業が不安な方へ-前編】
現在、介護障害福祉事業で従事しているあなたへ。「いつかは独立開業したい」という思いをお持ちではありませんか?まずはあなたの事業のお客様(利用者)となる高齢者数と障害者数の推移を正しく理解することから始めましょう。今回のコラムでは、当社の累計552社のサポート経験と業界データを織り交ぜて、あなたの独立開業に対する不安を払しょくします。
後編も併せてお読みください。
このコラムの推奨対象者
・介護障害福祉事業に従事していて、将来の独立開業を夢見る方
・介護障害福祉事業を開業して間もない方
・現場経験は豊富だけれど、会社の運営面に不安のある方方
コラムの信頼性
タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年4月)現在、介護障害福祉事業の累積支援実績552社。日々多くの方からの介護障害福祉事業の開業相談に対応しています。このコラムでは介護障害福祉事業の開業時の不安を払拭すべく、専門家が詳しく解説します。
同じ内容を動画でもご覧いただけます。
高齢者人口と高齢化率の推移
初めに介護保険事業のメインの利用者となる65歳以上人口と高齢化率の推移について確認しましょう。65歳以上の方のことを高齢者と呼ぶため、ここでも高齢者という表現を使います。
1980年に1065万人だった高齢者人口は、1990年に1489万人、2000年に2201万人、2010年に2925万人、2020年に3619万人と増加の一途を辿っています。この急増が原因で、2015年国は特別養護老人ホームの入所条件を、要介護3以上に限定する措置を取りました。特別養護老人ホームへの入所待機者が増加したためです。
国の統計予測では高齢者人口は2040年ごろに3921万でピークを迎えます。
全人口に占める高齢者割合(高齢化率と言います)の推移も見ていきましょう。1980年の高齢化率は9.1%です。日本国民の11人に1人が高齢者だった時代です。現役の働き手と子供が大半を占める、活気溢れる時代です。
一方2020年の高齢化率は28.9%です。日本国民の約10人に3人が高齢者という社会です。高齢者人口は2040年ごろにピークを迎えますが、出生率の低下が原因で若者世代の人口が徐々に減っていくため、高齢化率のピークはその後も継続し、2060年にはなんと38.1%となりその後も増加が見込まれます。要するに10人に4人が高齢者という超高齢社会です。
介護保険事業を大きな視野で見ると、今後概ね40年間の事業環境について次の2点が言えます。
2023年~2040年 | サービス利用者が増え続けるため、需給バランスは 需要>供給 の状態。利用者確保にはあまり困らない環境。 |
2040年~2060年 | サービス利用者が高止まりから減少に転じるが、働き手の人口が激減するため、職員を安定確保できる事業者が優位となる環境。 |
以上、人口動態から見た介護保険事業の行く末です。
市場ターゲット・マーケティング(地域包括ケアシステム)
次に市場ターゲットとマーケティングについて解説します。難しい横文字を使いますが、非常にシンプルな結論になりますのでご安心ください。
高齢者人口の急増に伴い、特別養護老人ホームへの入所待機者が増加したことで、2015年に国は特別養護老人ホームの入所条件を、要介護3以上に限定する措置を取りました。これに先立って、国は「地域包括ケアシステム」という考え方を打ち出しました。この理解が介護保険事業を考える上で非常に重要となるため、是非理解して下さい。
地域包括ケアシステム
重度の要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組み
「地域包括ケアシステム」という概念の打ち出しと、2015年の特別養護老人ホームの入所条件の制限を合わせて考えると次のことが言えます。つまり、
「これ以上施設での受け入れが困難なので、可能な限り在宅医療・在宅介護を中心に」
医療介護財政がひっ迫する中、これ以上施設を作って運営することは不可能なのです。だから「高齢者の皆さん、お家でお過ごしください」となる訳ですね。「地域包括ケアシステム」によって訪問介護・訪問看護・通所介護の重要性が高まりました。
地域包括ケアシステムは、自宅を中心に半径30分圏内で医療・介護をカバーしようという試みです。例として用いられるのが「公立中学校区を単位に一まとまりのユニットを作っていこうという」考え方です。
という事で、あなたが介護保険事業を考えるとき絶対に外してはいけないのが、「事業所からの半径30分圏内に、高齢者が多く居住する住宅地を含める」という点になります。
以上が地域包括ケアシステムから見た、介護保険事業の市場ターゲットとマーケティングの考え方です。ね、全然難しくないでしょう?
障害者人口の推移
視点を変えて障害者人口の推移について解説します。
高齢者人口と異なり、障害者数の将来予測をすることが困難なため、国の方でも将来予測値を公表していません。ここではデータが公表されている2006年から4年刻みで2018年までの推移を見ていきましょう。
グラフの通り、精神障害・知的障害・身体障害、いずれも増加していることが分かります。この間、高齢者人口が急増しているため、何らかの障害状態となる高齢者が、障害者数全体を底上げしていることが予測できます。
この中で精神障害・知的障害者数が近年増加しているのが気になりませんか?この点が非常に気になったので、2023年3月議会で、議場で市に対して質問を投げかけました。(私は奈良県橿原市で市議会議員をしています)
その結果、奈良県橿原市でもやはり精神障害・知的障害者数がご覧の通り増加していました。10年前比較で精神障害者数は3倍近く急増しています。この背景を市に問いかけたところ、以下の回答でした。(市議会のやり取りは議事録や動画でも公開されていますので関心のある方はご参照下さい)
精神障害・知的障害者数の増加に関する奈良県橿原市の見解
精神障害者保健福祉手帳の所持者数が増加している要因としては、利用可能な障がい福祉サービス・医療給付等が増加したことや、手帳制度についての周知が図られてきていること、生活不安などのストレスからうつ病などの気分障害や高齢化に関連して認知症の増加などがあるのではないかと考える。
療育手帳の所持者数の増加の要因としては、様々あると思うが、知的障がいに対する社会全体の認知の高まりや、障がいのある児童に関する相談、診察、検査等の初期療育支援体制が充実してきたことにより、早期発見、早期支援につながってきたこと等が考えられる。
対象となる福祉サービスとしては、精神特化の訪問看護、就労支援、放課後等デイサービス、児童発達支援などが考えられます。議会では、
「これらの背景には不適切な手法を用いて事業を拡大する業者があるので警鐘を鳴らします」と主張しました。
市からも「制度を理解されずに経営を優先し、利用者確保の発想だけで運営するといった、利潤追求のみを目的として取り組まれる企業は排除されるべきであると考える」との答弁を得ました。
いずれにせよ、支援を必要とする方の数は増加傾向にあります。中でも特に精神障害者、知的障害者(児)向けのサービスの拡充が求められていることがわかります。
まとめ
以上が「介護障害福祉事業での開業が不安な方へ-前編」の内容です。結論を整理しますね。
高齢者向け介護保険事業
2023年~2040年はサービス利用者が増え続けるため、需給バランスは 需要>供給 の状態。利用者確保にはあまり困らない環境。
2040年~2060年はサービス利用者が高止まりから減少に転じるが、働き手の人口が激減するので、職員を安定確保できる事業者が優位な環境。
【事業種類】訪問介護、訪問看護、通所介護
障害福祉事業
支援を必要とする方の数は増加傾向。中でも特に精神障害者、知的障害者(児)向けのサービスの拡充が求められる環境。
【事業種類】精神特化の訪問看護、就労支援、放課後等デイサービス、児童発達支援
タスクマン合同法務事務所では、介護保険事業・障害福祉事業に専門特化した社労士、行政書士、司法書士、税理士がお客様を強力にバックアップしています。開業相談は随時受け付けております。一人で悩まずに、まずはお気軽にお問い合わせ下さい。
最後までお読み頂き誠にありがとうございました。
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【この記事の執筆・監修者】
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◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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