介護事業におけるパート労働者、登録スタッフの労務管理上の注意点

就労移行支援、就労継続支援A型B型、就労定着支援の報酬・加算減算の一覧表

このコラムを読むと分かること(3分で読めます)

・労働者の契約形態ごとの違いが理解できる
・介護事業におけるパート労働者の労務管理で注意すべきポイントが理解できる
・介護事業における登録スタッフの労務管理で注意すべきポイントが理解できる

パート労働者や登録スタッフについては、健康診断の実施や年休付与方法など、労務管理上見落としがちな項目がいくつかある。このコラムでは、特に介護事業に焦点をあて、それらの注意点をわかりやすく解説する。

コラムの目次

①多様な雇用形態の現状
②パート労働者、登録スタッフの労務管理で注意したいポイントは?
③介護事業における登録スタッフ特有のポイントは?
④まとめ

①多様な雇用形態の現状

人件費の流動化・低額化を図るため、介護事業をはじめ多くの事業所では、パート労働者、アルバイト、契約社員、登録スタッフ、派遣社員など多様な非正規雇用労働者を雇用してきた。

H30年度の厚労省のデータによると、非正規雇用労働者は全労働者の約40%におよぶ。その内訳としては、

パート労働者 48.8%(1035万人)
アルバイト 21.5%(455万人)
契約社員 13.9%(294万人)
派遣社員 6.4%(136万人)
嘱託 5.7%(120万人)
その他 3.8%(80万人)

※1厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」より

派遣社員を除き、全形態が前年より増加している。

介護事業においても、このような多様な雇用形態の労働者がともに働くことが一般的であり、今後もこの傾向は続くと思われる。

そのため、各雇用形態に応じた適切な労務管理がますます重要となる。

②パート労働者、登録スタッフの労務管理で注意したいポイントは?

介護事業で特に多いパート労働者、登録スタッフの労務管理について、とくに見落としがちなポイントを解説しよう。

年休5日取得の義務化

2019年4月より、介護事業を含むすべての事業所に対し、労働者に年5日の年休取得をさせることが義務づけられた。

ポイントは、10日以上の年休が付与される労働者であれば、パート労働者、登録スタッフであっても対象になる点である。

週4日以下または年間の所定労働日数が216日以下のパート労働者、登録スタッフは年休の付与日数が正社員よりも少なく、10日未満の人も多いかと思う。

ただし、週4日のパート労働者の場合、勤続3年6ヵ月までは付与日数が9日なので対象外だが、勤続3年6ヵ月以降は10日の付与になるため対象となる。

週所定労働日数と勤続年数に応じて、個々に対応する手間が生じる。さらに年休の付与日が個々にばらばらにしていると、これらの管理がさらに大変になるだろう。

育児休業制度(育児・介護休業法)

パート労働者、登録スタッフ(日々雇用者は除く)であっても、次の条件を満たしていれば、育児休業をとる権利があり、事業主は育児休業の申出を拒むことはできない。

・当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上の者
・子が1歳6か月(*)に達するまでに、当該労働契約(更新される場合には、更新後の契約期間)が満了することが明らかでないこと。 
(*)最大で2歳に達するまで延長可。

なお、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定を結べば適用を除外できる。

介護休業制度(育児・介護休業法)

パート労働者、登録スタッフ(日々雇用者は除く)であっても、次の条件を満たしていれば、介護休業をとる権利があり、事業主は、この申出を拒むことはできない。(介護休業の申出を2度連続で撤回した場合の3度目の申し出は拒める)

・当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者
・介護休業開始予定日から93日を経過する日から6か月後以内に、当該労働契約(更新される場合には、更新後の契約期間)が満了することが明らかでない者

なお、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、同様に労使協定を結べば適用を除外できる。

定期健康診断の実施(労働安全衛生法)

パート労働者、登録スタッフであっても、無期雇用または契約期間が1年以上の場合には、条件によって定期健康診断の実施が必要となる。

なお、契約更新により通算して1年以上になる場合も対象に含む。

実施義務があるケース

無期雇用または契約期間が1年以上のパート労働者、登録スタッフのうち、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上の労働者については、健康診断の実施義務がある。

実施が望ましいとされているケース

無期雇用または契約期間が1年以上のパート労働者、登録スタッフのうち、週の所定労働時間が正社員の2分の1以上、4分の3未満の労働者については、実施が望ましいとされている。

介護事業における登録スタッフの場合、週所定労働時間が明確に定められていないケースが通例である。その場合の取扱いについては、勤務実態に基づいて判断していくことになる。

③介護事業における登録スタッフ特有のポイントは?

介護事業で働く登録スタッフの賃金は、完全歩合制である場合が多い。その場合は次の2点に注意が必要だ。

最低賃金の確保

歩合給の総額を、労働時間数で割った時間当たりの金額が、最低賃金(時給)以上である必要がある(H30 の最低賃金は、東京985円、愛知県898円、大阪府936円)

また国会では、時給1000円を目指す動きもあるようなので、今後もチェックしていく必要があるだろう。

出来高払い制の保障給

最低賃金とともに、出来高払い制の最低保障額が規定されている。趣旨としては、利用者様のキャンセルなど、労働者の責任とは言えない理由による賃金の急減を防止するものである。

保障額の目安としては、過去3か月を平均した賃金の60%程度とされている。

④まとめ

このコラムで解説した介護事業におけるパート労働者、登録スタッフの雇用管理上の注意点のポイントは次のようになる。

・パート労働者、登録スタッフについても、年5日の年休取得は義務とされている

・パート労働者、登録スタッフにも、希望があれば育児休業、介護休業を取得させなければならない

・パート労働者、登録スタッフに対しても、一定の条件を満たすと年1回の定期健康診断を受けさせる義務がある

・介護事業における登録スタッフの賃金においては、最低賃金だけでなく、最低保障給の確保も必要である

これらの他には、同一労働同一賃金への対応も必要だ。

中小企業に対しては2021年4月から施行されるため、まだ対応されていない事業主にはお早めの対応をお勧めする

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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