その賃金減額処分に妥当性はあるか?

その賃金減額処分に妥当性はあるか?

■就業規則変更で賃金を減額することは可能か?

使用者と労働者

1.就業規則変更による労働条件の不利益変更

就業規則の変更に同意していない労働者A。

裁判所は、就業規則変更による不利益性を認めつつも、合理性ありとして労働者Aの訴えを退けました。

2.能力主義制度導入に当たっての高度な必要性と合理性

ハクスイテック事件
大阪地裁 平成13年8月30日判決

大阪地裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者Aが所属する部門は当時収益状況が悪かった
②そのため会社は能力主義人事制度導入の必要があった
③会社は従業員説明、労働組合交渉を十分に重ねており、
④制度の導入にあたり、一定期間の経過措置をとっている
⑤よって能力主義制度導入には高度な必要性と合理性がある

3.就業規則変更の必要性と合理性

現在の労働契約法第10条の成立根拠ともなる考え方が示されています。

【労働契約法 第10条】
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

つまり、就業規則変更による、労働条件の不利益変更が合理的であると認められるためには、

・就業規則変更の必要性
・社会通念上、不利益の許容範囲
・従業員や労働組合への説明とその交渉過程
・一定期間の不利益緩和措置(経過措置)

上記の総合的な判断で合理性の認定を行うというわけです。

■年棒を会社が一方的に減額できるか?

使用者と労働者

1.合意に至らない場合の年俸制措置

労働者Aは年俸制で20年間N社に勤務。業績が悪化したN社は、年俸制の評価項目と手法を変更し、労働者に従来より低い年俸額を提示しました。

Aが合意しなかったため、N社が一方的に年俸制を決定。AはN社を相手取り提訴。東京高裁はN社の決定が違法であると認定しました。

2.使用者の一方的年俸額決定権

日本システム開発研究所事件
東京高裁 平成20年4月9日判決

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①年俸制において労使の合意が成立しない場合、
②次の場合に限り、使用者側に評価決定権がある

・業績評価基準が明確
・年俸額決定手続きが明確
・減額の限界の有無
・不服申し立て手続きの制度化
・上記内容の就業規則への記載
・および上記内容の公正性

③N社には上記の措置がない
④よってN社はAに前年どおりの年俸を支払わねばならない

3.使用者の年俸提示額にも一定の根拠が必要

年1回の年俸交渉で、使用者が提示する年俸額。それが前年よりもダウンしており、労働者が合意しない。

このようなケースに適用できる判例であると言えます。年俸制度とはいえ、使用者の定時額や救済のための仕組みが必要であると言うことです。

■ライバル会社への転職で退職金を減額

使用者と労働者

1.ライバル会社への転職で退職金を2分の1に

ライバル会社への転職を隠して転職した労働者A。元々の勤務先であるS社の就業規則には、ライバル会社への転職の場合退職金を2分の1とする旨の記載がありました。

また退職金受領時の約定にも同様の記載がありました。S社は支給済みの退職金の2分の1の返還を求めてAを提訴。最高裁でその請求が認められました。

2.退職金の減額は、功労評価の減殺

三晃社事件
最高裁 昭和52年8月9日

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①ライバル会社への転職制限は社員の就労の自由を奪うとは言えず、
②退職金の功労報奨的性格からも、半額化には合理性がある
③退職金の減額は、損害賠償の予定ではなく、
④勤務中の功労に対する評価の減殺による、退職金自体の減額である。
⑤よって損害賠償予約の禁止や、賃金全額払いの原則にも抵触しない

3.合理的な退職金規定に基づく退職金減殺

本件で会社側の主張が認められたのは、就業規則、特に退職金規定で、ライバル会社への転職の場合の評価基準が明確だった点です。

これがなく、単に事後的に損害額を争うとS社の主張は認められなかったでしょう。合理的な基準に基づく退職金規定(減額)が功を奏した判決であると言えます。