遺族年金と他の年金が重複したら?税金は?時効は?

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■複数の年金資格の重複

1.1人1年金の原則

現行制度では、1人に対して1年金が原則です。

つまり、様々な状況が重複して発生した場合、受給年金が重複してしまうと、本来必要な生活保障を上回る年金が支給され、公平性を欠くためです。

しかし、一定の条件では重複して年金が受給できる場合があります。遺族年金を中心に解説していきます。

2.基礎年金と厚生年金の併給

  老齢厚生障害厚生遺族厚生
 老齢基礎 ○ ×65歳以上
 障害基礎 65歳以上 ○65歳以上
 遺族基礎 ×× ○

大原則は、1人1年金ですが例外を順追って見ていきましょう。

①同じ事由による基礎年金と厚生年金を併給

上の表で○の印がついている年金が該当します。
例えば、老齢基礎年金と老齢厚生年金などは、当然ながら併給されます。

②65歳以上に限り併給

上の表で「65歳以上」とついている年金が該当します。

3.遺族厚生年金に着目

二つの年金を同時に受ける(併給)パターンは数多くありますが、遺族年金に限って検討を進めていきます。

まず基礎年金が重複した場合は、いずれか一つの選択性になります。

例えば遺族基礎年金を受けながら自身の老齢基礎年金や障害基礎年金を併給することはできません。

65歳を過ぎると自身の老齢基礎年金を受けながら、遺族厚生年金を受けることができます。

この場合で自身の老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金分が支給停止になります。

表で表すと次の通りです。

老齢厚生年金   遺族厚生年金
 全額 支給停止
  65歳以上の老齢基礎 or 障害基礎年金

4.制度を超えた調整

その他にも、年金制度を超えた調整が為される場合がありますので解説に加えます。

労働基準法の遺族補償がある場合 → 6年間遺族厚生年金を停止

労災保険が支給される場合 → 労災保険側で支給額を調整

■故人に対する未支給の年金

 1.未支給年金とは

年金受給権者が死亡した場合、最後の年金は「死亡した月」まで支払われます。

年金は偶数月の支給になりますので、最後の年金は必ず「未支給」の状態になってしまいます。

そこで、一定の遺族にその「未支給の年金」の請求権が生じます。

これが未支給年金です。

2.未支給年金の請求権者

未支給年金の請求権者は、死亡した人と「生計を同じく」していた次の遺族です。

生計が同じであれば認められる権利であり、必ずしも生計維持を受けていた場合に限りません。

1.配偶者
2.子
3.父母
4.孫
5.祖父母
6.兄弟姉妹
7.その他3親等親族

これは遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに共通の制度です。

3.未支給年金は相続の対象か?

未支給年金は死亡した方に支給されるべきものであるため、一見して相続の対象になるように思えます。

しかし相続税法第3条1項6号によると、相続税の課税対象外とされています。

これは、未支給年金が「年金法により遺族に移った固有の権利」であるためです。

相続税の代わりに、受け取った遺族には一時所得として所得税が課税されます。

■年金と税金

1.受給権の保護

公的年金はリスクに対する生活保障であるため、原則として課税されることはありません。

また、一定の場合を除いて差押え・担保提供の対象にもなり得ません。

しかし例外がありますので、解説します。

2.所得税が課税される年金

唯一、所得税が課税される年金が

老齢基礎年金(および付加年金)

老齢厚生年金(および脱退一時金)

です。

年金制度の主役ともいうべき老齢年金。

納付したときには、「社会保険料控除」として、その全額が課税所得から控除される恩恵を受ける反面、受け取り時には所得税が課税されるのだという考え方に基づいていると思われます。

その他、遺族年金・障害年金は性質上、受け取り時に所得税が課税されることはありませんのでご安心ください。

■遺族年金請求と時効

1.年金受給の原則 請求と裁定

年金受給の大原則は、

「権利を有する者の請求に基づく、厚生労働大臣の裁定」

です。

つまり、一定の状態(老齢・障害・死亡)の場合に自動的に年金が支給されると言うわけではないということに注意が必要です。

2.年金受給権の消滅時効

年金が請求に基づくものである以上、長期間請求をせずに放置しておくと権利関係が分かりにくくなります。

そこで、

「国民年金・厚生年金共は請求できるときから5年」

が経過した場合、受給権は消滅時効により消滅します。

(国民年金の死亡一時金のみ2年で消滅)

しかし役所側のミスで過去の年金記録の訂正が行われた場合などついては、5年という消滅時効に限らず、過去に遡って請求できる場合があります。

■年金法改正

1.受給資格の要件を25年から10年に短縮

平成27年10月施行予定(ただし消費税10%引上時に限る)

他の先進国(おおむね10年程度)に比べ、日本の公的年金の受給資格は25年と長期です。

そのため資格期間が25年に満たない65歳以上の無年金者が42万に達しています。

これらの是正のため、受給資格期間を10年に短縮するという改正です。

対象は老齢基礎年金、老齢厚生年金、寡婦年金などです。

2.短時間労働者の厚生年金加入の拡大

平成28年10月施行予定

これまで一般社員の3/4の労働時間(≒週30時間)未満の方には厚生年金の加入義務がありませんでした。

しかし改正により次の全てを満たす方に加入義務が拡大します。

・週20時間以上の勤務
・従業員数501人以上の事業所
・月額賃金が88,800円以上

3.被用者年金の一元化

平成27年10月施行予定

被用者年金とは、一般企業の厚生年金と公務員の共済年金を指します。

公務員の共済年金制度を、一般企業の厚生年金にあわせるのが改正の要旨です。

以上が近々施行される、年金改正情報です。(平成27年3月現在)

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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