遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給資格者

遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給資格者

■日本の年金制度の概要

みなさん、「年金」の制度を詳しく説明できますでしょうか?

非常に難しいですね。

私たち社会保険労務士は、試験科目にも「年金」があるため、相当時間をかけて「年金」を勉強します。そんな私たちでも、日本の年金制度の全体像を解説するのは至難の業です。

それは次の理由によるためです。

①年金加入から年金受給までの時間が長い
②各種救済制度の存在
③他制度との絡み

一つずつ紐解いていきましょう。

1.年金加入から年金受給までの時間が長い

年金制度を複雑にしている最大の理由は、「制度完結までの期間の長さ」です。 国民年金の場合、20歳で加入して80歳で亡くなるとして、60年間のお付き合いです。厚生年金の場合は、20歳前でも企業勤めを開始すると加入するため、それ以上の期間になります。

60年。

この間に社会情勢の変化が色々あります。例えば20世紀の日本の場合、

「戦争」→「高度成長」→「平成不況」→「少子高齢化」

という、とてつもなく大きな社会情勢の変化を経験しました。 これらの社会情勢の変化に対応して、年金制度も改正が重ねられてきたわけです。

2.各種救済制度の存在

次いで年金制度を複雑にしているのが、「救済制度」です。 ①でご説明した「年金制度の改正」を行う時、メリットを受ける人もいればデメリットを受ける人もいます。 その「デメリットを受ける人」を救済する制度が一緒に作られるわけです。 年金のテキストでは、「年金の基本原則」の説明よりも、この「救済制度」の説明に多くの紙面が割かれています。

3.他制度との絡み

最後に、「他の制度との絡み」の問題があります。 「年金」は様々なシチュエーションでの生活保障ですが他制度の生活保障とバッティングするケースが多々あります。

主なところでは、雇用保険・労災保険・健康保険の各種給付です。 これらの制度から保険が給付されるとき、年金の給付と調整する仕組みがあります。 以上の点から、年金の複雑さがお分かりいただけると思います。

イメージで言うと、5社くらいの大企業が、それぞれ従業員を抱えながら合併し、給与制度・賞与制度・退職金制度を、不公平のないように調整していくようなものです。 複雑に感じるゆえんですね。

■年金制度の構造

将来の生活にとって無くてはならい年金。 複雑だからといって、理解することをあきらめてはいけません。 このブログカテゴリーを読み進める中で、少なくとも「遺族年金」については十分なご理解がいただけるように、解説を進めます。 次回以降で説明する「遺族年金」の位置づけを図にすると、次のようになります。

①老齢厚生年金③障害厚生年金⑤遺族厚生年金
②老齢基礎年金④障害基礎年金⑥遺族基礎年金

つまり一口に年金と言っても、

「老い」に対して生活を保障する①②

「障害」に対して生活を保障する③④

「死亡」に対して遺族の生活を保障する⑤⑥

の3つに区分できのです。そしてそれぞれの中に、

「全国民(外国籍含む)」が対象となる基礎年金

「勤め人」が対象となる厚生年金

の2つの制度があります。

■遺族基礎年金の受給権者

1.遺族基礎年受給権者の定義

今回は遺族基礎年金の受給権者をご説明します。

遺族基礎年金でいう、「遺族」とは次の2方を指します。

・死亡した人によって生計を維持されていた配偶者で、かつ子と生計が同じである者
・死亡した人によって生計を維持されていた子

この章では上の2点を中心に解説します。

分かりやすいように文節を分解してみます。

・「①死亡した人」によって「②生計を維持」されていた「④配偶者」で、かつ「③子」と生計が同じである者
・「①死亡した人」によって「②生計を維持」されていた「③子」

つまり、

①死亡した人の条件
②「生計を維持」の意味
③子の条件
④配偶者の条件

の理解が必要なわけです。

①死亡した人の条件については、別記事で詳しくご説明します。

ここでは残りの3つについて解説します。

2.「②生計を維持」の意味・・・遺族基礎年金

「生計を維持」されていたとは、死亡の当時、死亡した人と生計が同じで、かつ「現在も将来も年収850万円以上にならない人」を指します。

850万円もの年収があれば遺族基礎年金なしでも生活できるでしょう?というのが法の趣旨です。

仮に死亡当時別居していても、「生計を維持されていた」場合は支給対象になる可能性があります。

3.子の条件・・・遺族基礎年金

遺族基礎年金の受給権者の条件である「子」とは次のいずれかに該当する子を指します。

・18歳になった後の最初の3月31日までにある子
・障害等級1級または2級にある20歳未満の子

さらにここで言う「子」は法律上の子でなければなりません。

つまり、嫡出子(実子)でなくても養子や認知した子は法律上の子ですが、再婚相手の子であるだけでは要件を満たしません。

なお、胎児であっても生誕することで資格を得ます。

4.配偶者の条件・・・遺族基礎年金

最後に配偶者の条件です。

配偶者は「③子」があることが大前提ですが、内縁関係でも構いません。この辺りは「③子」よりも条件が緩やかになっています。

■まとめ~遺族基礎年金の受給権者

遺族基礎年金の受給権者を整理して表現すると次のようになります。 

死亡した人に扶養され、年収850万円以下である18歳(障害認定のある場合20歳)未満の子、またはその子の親 

親と子が同時に条件を満たしている場合、子の権利は一時停止され、親に遺族基礎年金が支給されます。

■遺族厚生年金 受給権者の概要

1.図表で見る遺族厚生年金の受給権者

遺族基礎年金とは異なり、遺族厚生年金で言う「遺族」の範囲はもう少し広がります。

つまり、子のない配偶者に支給される場合もあれば、父母や孫、祖父母に支給される場合もあります。

詳細を図にすると、次のようになります。

順位
遺族 子の
ある妻
子のある
55歳以上
の夫
子の
ない妻
子のない
55歳以上
の夫
55歳以上
の父母
55歳以上
の祖父母
年金種類 遺族厚生年金
遺族基礎年金 中高齢
寡婦加算
       

(遺族の共通条件として、死亡した方により生計を維持されていることが必要)

2.遺族厚生年金は受給優先順位の考え方に注意

ここでポイントになるのは、「優先順位」の考え方です。

表では1~4の優先順位を記しています。

民法(相続)の場合と考え方が少し異なります。

さらに労災保険の「遺族給付」と異なり、転給の制度がありません。

つまり、先順位の人が遺族厚生年金を受給していたが、何らかの理由(死亡など)で受給権を失ったとしても、遺族厚生年金は後順位の人に引き継がれることはありません。

以下で順位ごとに詳細を解説してきます。

3.第1順位(配偶者・子)

遺族基礎年金の受給権者と同じ、「配偶者と子」が第1順位にきます。当然ですね。

ここでいう「配偶者」と「子」の定義は、遺族基礎年金と同じです。

遺族基礎年金と遺族厚生年金。

それぞれで言う「子」は双方で意味は同じです。

しかし表によると、「配偶者」はさらに細分化されているのが分かりますね。

つまり、遺族基礎年金では単に「配偶者」で一括りにされていたのが、遺族厚生年金では「夫」と「妻」で受給内容が変わるのです。

妻には年齢による区別はありませんが、夫は妻の死亡当時、55歳以上でなければ、受給資格を得ることができません。

言い換えると、

「55歳以下の男は自分の収入で何とかなりますよね?」

という事です。

さらに妻の場合でも、

・夫死亡時に30歳未満の妻(子のない場合)に支給される遺族厚生年金は5年まで
・夫死亡時に30歳未満の妻(このある場合)でも、30歳までに遺族基礎年金の受給権を失った(子の死亡など)場合、そこから5年で遺族厚生年金が消滅します。

いずれも、

「妻(女性)であっても、若い場合は自分の収入で何とかなりますよね?」

という制度になっています。

4.その他の順位

その他順位として、55歳以上の父母・孫・55歳以上の祖父母と続きます。

兄弟姉妹が含まれていないことにご注意ください。

いずれも、

「先順位の人がいったん受給開始」すると、自分に遺族厚生年金が支給されることはありません。

ここまでで、遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに、

「子があるかないか」

が一つのポイントになることがお分かり頂けたと思います。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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