年金事務所の調査とは?介護事業所が日頃から留意しておきたい労務管理のツボ

年金事務所の調査とは?介護事業所が日頃から留意しておきたい労務管理のツボ

このコラムを読むと分かること(3分で読めます)

・年金事務所の調査の対象、内容、頻度等が理解できる
・年金事務所の調査に備え、介護事業所が日頃から気を付けたい労務管理のポイントが理解できる

年金事務所は定期的に、各事業所に対し社会保険に関する実態調査を行っている。このコラムでは年金事務所の調査がどのようなものなのか、備えはどうすればいいのか、介護事業に焦点を絞ってわかりやすく解説する。

コラムの目次

①社会保険の加入状況
②年金事務所の調査とは? 
③介護事業で特に気を付けたい点は?
④まとめ

①社会保険の加入状況

はじめに社会保険の加入要件を確認しておきたい。

加入義務がある事業所の要件

法人または常時5人以上の従業員を使用する個人事業主(適用除外事業は除く)は、強制的に適用事業所となり、社会保険への加入が義務付けられている。

介護事業は適用事業であり、営業開始には法人格が必須となるため、必ず適用事業所となる。

従業員の加入要件

適用事業所に使用される70歳未満の従業員(健康保険は75歳未満)は、適用除外に該当する場合を除き、当然被保険者となる。 社長も報酬が支払われているなら当然加入義務がある。

パート等の加入要件

「1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上(一般的には30時間以上)」の場合は、パートであっても加入義務がある。

「1週間の所定労働時間または1ヵ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3未満(一般的には30時間未満)」の場合は、次のすべての条件を満たすと加入が必要になる。

・501人以上の事業所に使用されている※
・1週間の所定労働時間は20時間以上
・雇用期間が1年以上見込まれる
・月額賃金が8.8万円以上
・学生でない

介護事業における「登録スタッフ」はこの要件で加入要否を判断することになる。 なお、介護事業においては501人以上の要件に当てはまるケースは多くはないと思われる。

ただし、現在政府内ではこの「501人」をさらに緩和する議論がされており、今は該当しない介護事業所も今後は対象になる可能性がある。その場合は、保険料負担がかなり重くなるため、この議論は注意してみておく方がよい。

社会保険の加入状況

厚労省が実施したH29社会保険加入状況調査によると、なんと調査対象の約84%の事業所が未加入であることが判明した。

未加入事業所の大半は5人未満の小規模事業所で、業種としては不動産、建設、料理・飲食料品小売、理容・美容、クリーニング等が上位を占めていた。

加入手続きを行っていない理由としては、保険料の負担が困難、加入要件を知らなかった、加入にメリットを感じない、といったものであった。

②年金事務所の調査とは?

社会保険未加入が多い実態を受け、厚労省、日本年金機構(年金事務所)では、社会保険の加入促進対策に力をいれている。

新規設立事業所向け

年金事務所は、関係行政機関への各種届出情報を入手し、本来社会保険に加入すべきなのに加入していない事業所を特定して加入指導を行っている。あらゆる公的情報を入手しており、事業所に関する情報はほとんど筒抜けである。

既存の未加入事業所および加入事業所における未加入従業員向け

調査方法としては、「総合調査」と「定時決定時調査」の2種類があったが、現在は「総合調査」に一本化されている。「総合調査」は、従業員の加入手続や標準報酬の届出等に漏れや誤りがないかの詳細な確認等を総合的に行う調査。以下の条件を満たす事業所が特にターゲットとされやすい。

・厚生年金の被保険者数と雇用保険の被保険者数の乖離が大きい
・過去の事業所調査で指摘を受けた
・あらたに従業員が501人以上になった事業所
・受付届書の返戻が多い事業所
・過去に自主手続きにより新規加入した事業所のうち、事業所調査を受けていない

従来は「調査実施件数」に重点が置かれていたが、平成30年度からは、届出漏れ、誤り等の「指摘率」も目標とし、より中身のある調査(つまり厳しい調査)へシフトしてきている。

なお、これまでの加入指導によって、適用事業所数は、日本年金機構設立当初の約21倍に増加。また、未適用の可能性がある事業所数は平成27年3月末時点で約97万件が、平成30年3月末時点で42万件まで減少とのこと。かなり強力に加入指導が続けられている。

調査頻度については、事業所ごとにばらばらであるが、一般的には3~5年ごと調査を受けると言われている。

ちなみに、重点的な加入指導を行っても加入手続きを行わない事業所に対しては、年金事務所の職員が立入検査を行い、被保険者の資格の有無の事実を確認し、必要に応じて、職員の認定による加入手続きを実施するとされている。

事業主には立入検査に対し受忍義務があり、検査を拒んだり、質問に対し答弁をしないことなどは許されない。事業主が、これらに違反すると、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される場合もある。

③介護事業で特に気を付けたい点は?

調査時には、全従業員の賃金台帳、勤怠実績、労働者名簿等(従業員数、内訳がわかるもの)などを提示するよう求められ、対象者が社会保険にもれなく加入しているかチェックを受けることになる。

特にチェックされる可能性が高いと思われる観点として、

・パート等の短時間労働者、登録スタッフ、非常勤役員、外国人労働者などの加入漏れがないか
・介護事業以外の他の会社からも報酬を得ている役員について、保険料が正しく支払われているか
・月変がもれなく実施されているか 

などが想定される。調査を受けてから慌てないよう、この機会にあらためて自社の状況をチェックされることをおすすめする。

④まとめ

このコラムで解説した「年金事務所の調査」のポイントは次のようになる。

・多くの事業所が、依然として社会保険の加入をしていない
・年金事務所は。社会保険未加入が多い現状を踏まえ、定期的に社会保険への加入促進のための調査を実施している
・調査に備え、パート等の加入漏れがないか、2か所以上から報酬を受けている役員の保険料は正しく納付しているか、月変は漏れなく行っているか等を確認しておく方がよい

パート等の短時間労働者への社会保険適用拡大が議論されている。介護事業を含め、パート等を多く使用する事業所にとって影響が大きいので、引き続き注意が必要である。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
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