認知症の症状が現れてからの贈与は有効?

訪問介護を開業されたお客様の声合同会社楽喜様

厚生労働省によると65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は推計で15%。2012年時点で約462万人に上るとのことです。

上記のデータが正しいとすれば、認知症の前段階である軽度の認知障害を含めるとなんと65歳以上の4人に1人が認知症か、あるいは予備軍になります。

誰にでも将来起きる可能性のある認知症。認知症の症状が現れてから、子や孫に贈与することはできるのでしょうか。

■認知症と贈与

1.認知症とは?

認知症とは、種々の原因で脳の細胞が死んだり、働きが鈍化したことにより種々の障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。

※厚生労働省の定義です。

厚生労働省によると、全国で認知症の患者数が2025年には700万人を超えるとのことです。

65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症にかかってしまうことになります。

今後約10年で1.5倍に増える見通しです。

2.認知症の症状が現れてからの贈与は有効?

結論から言いますと、重度の認知症になってしまった方が贈与を行うことは基本的にできません。

贈与は、民法上定められた契約の一種です。

契約を有効に成立させるためには、契約当事者が正常な判断力を有していることが大前提です。

受贈者側(もらう側)に正常な判断能力が存在したとしても、贈与者側(あげる側)にその能力がないならばそもそも契約そのものが成立しないのです。

しかし、皆様の中には成年後見制度を利用すれば、本人に代わって贈与を行うことができるのでは?と思われる方もいるはずです。

以下では、成年後見制度の簡単な概要と、この制度の利用によって贈与は可能かを解説します。

■成年後見制度と贈与

1.成年後見制度とは?

成年後見制度とは、判断能力が低下した人が不利益を被らないように、不十分になった判断能力部分を他者に補ってもらう制度です。

法定後見制度と任意後見制度があります。

簡単に上記2つの制度の違いを解説します。

法定後見制度とは、すでに判断能力が低下してしまっている段階で、その人をサポートするための制度です。

本人の判断能力の低下のレベルの大きさによって、後見、補佐、補助という3つのカテゴリーに分類されています。

この制度を利用するためには、家庭裁判所に申立てを行わなければなりません。

その後、家庭裁判所の審判により、本人をサポートする人(後見人、保佐人、補助人)が選任され、サポートが開始されます。

一方、任意後見制度とは、判断能力が低下する前に、本人自身が自分のサポート約をしてくれる人と契約を結ぶことです。

将来の判断能力の低下に備えて、本人自身が「この人なら信頼できる!」という人(法人も可)と将来の自分を助けてくれる契約を結んでおくのです。

ただし、重要な契約ですので、公証役場で公証人の立会いのもと、公正証書により締結する必要があります。

2.成年後見制度を利用しての贈与は可能か?

これも結論から述べますが、重度の認知症の方の成年後見人として子や孫に贈与することは原則として認められません。

制度の趣旨に反する行為だからです。

そもそも成年後見制度は、判断能力が低下した人の、主として財産を保護することが目的の制度です。

贈与は、無償で財産を他人にあげるという法律行為であり、本人の財産を一方的に減少させる行為です。

上記行為は、法律の世界では、本人にとって不利益行為と評価されます。

本人の財産的保護を図るための制度上、本人の財産的に不利になる行為は原則として認められないのです。

※任意後見制度を利用し、その契約の中で、贈与をしてもらう契約を結ぶことは可能です。ただし、本記事では、何の対策もしていない方が認知症になってしまう多数派のケースを想定しています。

3.まとめ

自分の親が認知症になってしまい財産管理ができない状態になってからでは、基本的に贈与は困難と考えてください。

ポイントは、ただ一つです。

ご自身の判断能力がしっかりしている「今」のうちに、対策をとるべきだということです。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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