介護・障害福祉事業を新たに設立するお手伝いをしているとよく耳にするのが、
「営業先はどこを回ればよいか?」
という問題だ。このブログでは数多くの開業を支援してきた場として、この問題について考えてみたいと思う。
■違いがよく分からない介護・障害福祉事業者
今日も日本全国で何十、何百という数の介護・障害福祉系の会社が設立されている。そして殆どの創業者が営業先として、ケアマネージャー、病院、社会福祉協議会へ挨拶回りをする。このブログを読んでいるあなたも例外ではないはずだ。
しかし、ここで立ち止まって考えてみてほしい。挨拶を受ける側の立場を。地域のケアマネージャー、医師、医療事務員、社会福祉協議会職員は毎月、毎週あなたのような介護・障害福祉事業者の挨拶を受けている。私は何度かケアマネージャーに質問をしたことがある。
井ノ上「足繁く通ってくる事業者には、利用者の紹介をしますか?」
そうすると、口を揃えて返ってくる答えがこうだ。
ケアマネ「違いがよく分からないので、利用者がいても紹介しにくいから、付き合いのある事業者へ紹介しています」
ここに問題の本質がある。
■営業活動をする前にもつべきマーケティング志向とは?
介護・障害福祉事業の分野では、そこで働く人たちの労働条件の改善が一向に進まず、離職し自ら創業する人が多い。まさに小規模乱立状態である。サービス利用者の数も増加傾向にあるとはいえ、利用者の争奪戦である。ここであなたに持ってもらいたいのが、
マーケティング志向
あなたの事業は後発である。小規模である。地域密着型である。だからこそ、差別化戦略を主軸としたマーケティング志向を持たねばならない。マーケティング志向を持たずに創業することは、大手事業者や既存事業者に対して、丸腰で戦いを挑むのと同じなのだ。
■あなたの介護・障害福祉事業の定義を考えよう
マーケティングを考える上で参考となるのが、4つのPに基づくフレームワークだ。
製品(Product)
価格(Price)
流通(Place)
販促(Promotion)
つまり、何を(Product)、いくらで(Price)、どのような手法・場所で(Place)売るか。そしてその販促方法(Promotion)をどう考えるか、である。
ここで前提とすべき課題がある。そもそも「自社の事業とは何か?」つまり事業の定義づけである。
ある化粧品会社が、「当社が売っているのは化粧品ではなく、希望である」と宣伝したように、あなたも自社の事業の定義を考えなくてはならない。
あなたの事業が売るのは、表面的には例えば「居宅介護サービス」かもしれないが、その真実は「利用者の家族の人生設計の手伝い」かもしれないのだ。
■どのようなサービスを、どうやって売っていくか?
次に4つのPを考えてみる。介護・障害福祉事業においては、価格(Price)は国が決めているため、残り3つのPになるだろう。またサービス業であるため、流通(Place)の問題は検討の幅が狭い。
そこで、
(製品)どのようなサービスを売るのか
(営業)どうやって利用者を獲得するのか
の2つに絞って考えてみる。キーワードは他社が真似できない差別化だ。
■あなたの会社では何を売るのか?
まず考えるべきは製品(どのようなサービスを売るのか)だ。業種は違うが参考までに、当事務所の場合は、
「行政書士・社会保険労務士・税理士・司法書士の合同事務所による、介護・障害福祉事業専門の設立サポート」だ。
この条件を満たすことのできる同業他社は、おそらく日本中を探しても僅少だろう。つまり当事務所は圧倒的な差別化が実現できている。
あなたの場合、現時点では会社としての差別化要因が見つからないかもしれない。しかし起業当初は創業者の属人的能力を活かす戦略でよい。とにかく差別化を図ろう。
例)
元々接客業で働いていた経験が長いので、****に強い
学生時代****をしていたので、****に強い
それらを思い切って、会社のPRパンフレットや名刺に書く。当事務所場合は、「介護・障害福祉事業の設立専門」だ。このようにして製品(Product)を決めていく。
■良い噂(口コミ)の拡大を目指そう
次に(営業)だ。つまりどうやって利用者を獲得するかだ。先に述べたが、あなたの事業は小規模かつエリア限定、地域密着のはずだ。その場合に欠かせない差別化戦略は、他でもない「口コミ」だ。
無防備にチラシをポスティングしたり、紹介をお願いしたりする前に、あなたの会社のよい噂が広まる工夫が必要なのだ。口コミは自然に広まるのを待っていては遅い。自らの工夫で、口コミが広がるようにする。
私はこれを「戦略的口コミ」と呼ぶ。そして人が口コミで良い噂を広めるポイントは一つ。
事前期待 < 実際のサービス
の時だけだ。だからあなたはいつも、利用者またはその家族がどのような事前期待を持っているのかについて、アンテナを張らなければならない。
そして、その事前期待を一つ上回るサービスの工夫をすべきなのだ。
例)
サービス提供後、庭先で1分間掃き掃除をして帰る
月に1度、管理者が巡回し、利用者からアンケートを取る
■最後に
このブログでは「介護・障害福祉事業の営業先はどこを回ればよいか?」との問いに端を発して、マーケティング戦略・差別化戦略について述べた。
これらの考え方のフレームを軸に、ぜひ思考の整理をして頂きたい。
あなたの事業が成功裏にスタートを切ることを切に願っている。
【この記事の執筆・監修者】

- (いのうえ ごう)
-
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
◆タスクマン合同法務事務所 代表
〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
(電話)06-7739-2538
最新の投稿
介護職員の雇用・労働問題編2019.12.01介護事業所が助成金申請のために日頃から気を付けたいこと 介護職員の雇用・労働問題編2019.11.24どんな行為がパワハラになるの? 介護・障害福祉事業におけるパワハラ防止に向けた法整備 報道編2019.11.14ABCラジオ祭りに出店します 介護職員の雇用・労働問題編2019.11.04介護事業経営者必見!うつ病、精神疾患による労災認定の基準は?