施設通所型の介護・障害福祉事業を立ち上げ・開業する際に確認すべき施設建物の要件と事前協議|賃貸借契約はいつ締結?

施設通所型の介護・障害福祉事業を設立・開業する際に確認すべき建物の要件

井ノ上剛(社労士・行政書士)

介護・障害福祉事業のうち、利用者が通所する施設型の事業では、都市計画法、建築基準法、消防法への適応が求められます。これらの法令要件を確認後、指定権限をもつ行政庁との間で事前協議を行う必要があります。このコラムでは施設通所型、介護保険法・障害者総合支援法以外の諸法令について詳しく解説します。

☑このコラムの信頼性について

介護・障害福祉事業の開業を専門的に支援しているタスクマン合同法務事務所では、令和3年4月に、累積の開業支援実績が400社を越えました。うち、約3割に該当する約120社がこのコラムで解説する、施設通所型の介護・障害福祉事業です。コラムの内容は介護・障害福祉分野の建物・施設基準についての最新情報です。

☑このコラムの推奨対象者

〇施設通所型の介護・障害福祉事業での建物の要件を知りたい人
〇施設通所型の介護・障害福祉事業での事前協議の仕組みを知りたい人
〇都市計画法、建築基準法、消防法の規制内容を知りたい人
〇建物の事前調査と賃貸(売買)契約のタイミングを知りたい人

施設通所型の介護・障害福祉事業とは?

このコラムで解説するのは、施設通所型の介護・障害福祉事業における、建物と施設の要件です。施設通所型の例を挙げると次のようになります。

☑介護保険事業
 〇通所介護(デイサービス)
 〇通所リハビリテーション
 〇短期入所生活介護 など

☑障害福祉事業
 〇就労移行支援
 〇就労継続支援A型、B型
 〇児童発達支援
 〇放課後等デイサービス
 〇生活介護 など

これらの事業では利用者が自宅に住みながら、施設に通所することになるため、その施設について法令上の安全要件が定められています。具体的には次の6法令です。

☑業種ごとの適用を受ける法令
介護保険法/障害者総合支援法/児童福祉法

☑業種を問わず適用を受ける法令
都市計画法/建築基準法/消防法

介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法上の建物基準については、当サイトの各事業種別のページに詳細を記載しているのでご参照ください。

このコラムでは介護保険法以外の3法令(都市計画法、建築基準法、消防法)について解説します。尚、賃貸物件、中古物件購入、新築のいずれの場合であっても規制条件は同様ですが、便宜上賃貸物件を想定して説明します。

建物の立地が都市計画法上の規制区域でないか

介護・障害福祉事業の設立・開業を検討中のあなたが、候補物件を選定中であるとします。まず大前提となるのが、都市計画法上の営業規制区域でないかどうかです。私たちの住んでいる町は大きく次の通り区分けされています。

全域 都市計画区域 〇市街化区域(すでに市街地または10年内に市街化)
×市街化調整区域(市街化を抑制する)
×都市計画区域外(都市計画がなされていない)

まず原則として、都市計画区域外、市街化調整区域では事業を営むことができないことを理解しましょう。例外的に市街化調整区域では、自治体の許可を受ければ事業実施もできなくはありませんが、可能性は0に近いでしょう。

市街化区域はすでに市街地になっている、または10年以内に市街化を計画している区域のことです。市街化区域は13の用途地域に分類され、それぞれの地域で建物の用途制限がなされます。

第一種低層住居専用地域
第二種低層住居専用地域
第一種中高層住居専用地域
第二種中高層住居専用地域
第一種住居地域
第二種住居地域
準住居地域
田園住居地域
近隣商業地域
商業地域
準工業地域
工業地域
工業専用地域

閑静な低層住宅街( 低層住居専用地域) でカラオケボックスやパチンコ店が営業できない、等がその一例です。一言で介護・障害福祉事業といっても多くの事業種別が存在ため、個別に規制区域の確認が必要となります。下記に例示しておきますので、ご参照ください。

➡訪問介護、訪問看護
 住居専用地域では営業できない

➡通所介護(デイサービス)、児童発達支援、放課後等デイサービス
 低層住居専用地域では営業できない

➡共同生活援助(グループホーム)
 工業専用地域では営業できない

※障害者就労支援事業(A型、B型、移行支援)については、その具体的な作業内容により業種区分が異なるため、個別に確認を取りましょう。

以上を基礎知識として、あなたが開業予定の介護・障害福祉事業が都市計画法上、営業規制にかかっていないかどうかを、市町村の担当部署(都市計画課)で確認する必要があります。

相談結果を、実際に営業許可(指定)を受ける行政窓口(介護保険課や障害福祉課など)に、事前協議資料として提出する必要があるので、必ず相談先の部署と担当官の氏名を記録するようにしよう。事前協議についてはこのコラムの後半で説明します。

☑ここがポイント

あなたが開業しようと思っている介護・障害福祉事業の種類と住所地を、都市計画課等に伝えたうえで、営業可能地域かどうかを確認しましょう。

建築基準法上の建物要件の確認

建築基準法上の建物要件については、次の2点を確認する必要があります。

使用部分の床面積が200㎡を超えないか

建築基準法では、建物の用途を変更して特殊建築物にする場合、用途変更確認申請が必要となります。施設通所型の介護・障害福祉事業においては、すべてが特殊建築物に該当します。

例えば事務所使用のテナントビルのワンフロアを賃借りし、その床面積が200㎡を超える場合、事務所→介護福祉施設での用途変更確認申請が必要となります。

ただし、変更対象部分が200㎡以下または類似用途間の変更の場合は、用途変更確認申請は不要です。床面積が200㎡以下になる物件を探すと、この点が緩和されるため便利であると言えるでしょう。

用途変更確認申請は建築士等の専門家に依頼する必要があるため、余分な費用が生じることを予め理解して物件探しを行いましょう

☑ここがポイント

床面積が200㎡を越える用途変更には、用途変更確認申請が必要。費用と期間がかかることを覚悟しましょう。

建築確認済証、検査済証が備わっているか

引き続き建築基準法上の規制を確認します。事業所として使用する建物の建築確認済証、検査済証が提出できるかどうかです。まずはそれぞれの書類の意味を理解しましょう。

➡建築確認済証
 建築基準法に基づく設計であることの証明

➡検査済証
 設計通りの建築であることの証明

所有者がそれぞれの書類の写しを提供してくれる場合は問題ありません、次の場合には一定の対処が必要となるため注意しましょう。

➡所有者が紛失している場合
自治体の建築指導課(名称は各々異なる)に、「建築計画概要書」を請求。建築確認番号、検査済証番号が確認できれば問題ありません。

➡そもそも無い、または建築後建築確認を受けずに増改築をしている場合
1、2級建築士に当該物件の耐震診断を依頼し、診断証明書を作成してもらう必要があります。そのための費用が生じます。

☑ここがポイント

建築確認済証、検査済証がない物件の場合、耐震診断費用がかかるため、お勧めしません。

消防法上の基準をクリアすることができるか

最後に消防法上の建物基準について理解しましょう。現状は当該建物の消防設備に不備がなくても、あなたの介護・障害福祉事業所がテナント入居することにより、建物全体で備えるべき消防設備が違法状態になる可能性があります。

その問題を未然に防ぐため、営業許可(指定)申請前に、管轄の消防署における事前相談が義務付けられています。

その際、設置すべき消防設備の説明、および防火対象物使用開始届の提出タイミングについての指示を受けましょう。

☑ここがポイント

消防署に赴き、設置すべき消防設備の確認を。予想外の費用が生じないか、予め理解しておきましょう。

指定を受ける行政庁との事前協議

ここまでの、都市計画法、建築基準法、消防法の建物要件確認の総仕上げとして、指定を受ける行政庁との事前協議について解説します。

指定申請自体の期限は、指定(営業開始)月の約1か月半前で設定している自治体が多いです。事前協議はさらにその1カ月程度前までに済ませることが推奨されています。

なぜ事前協議という手続きが設定されているかというと、仮に事前協議なしに本申請を行うと、様々な問題が理由で申請がなされず、賃貸契約や内装工事が無駄となる可能性があるためです。そのような無駄は、行政庁としても避けた方が良いと考えているわけです。

事前協議を申請者側から見ると、一種の「保証」であると言えます。

事前協議では、候補の建物が都市計画法、建築基準法、消防法の要件を満たしていることの証明に加えて、必要な有資格者の確保がなされているかどうかの確認を中心に行います。

☑ここがポイント

建物にお金をかける前に、必ず行政庁との事前協議を。事前協議の通過は一種の保証です。

どのタイミングで物件の賃貸(売買)契約をすべきか

以上の解説の通り、あなたの介護・障害福祉事業の建物についての賃貸(売買)契約は、少なくとも都市計画法、建築基準法、消防法の建物基準をクリアすることが確定した後に行うべきことがご理解いただけたと思います。

さらに万全を期すために、建物の賃貸(売買)契約は、できることなら事前協議終了後に行うようにしましょう。

事前に有資格者の候補者が決まっている場合でも、賃貸借契約までに次の手続きが必要となる点に注意しましょう。

〇候補物件発見
〇都市計画法調査
〇建築基準法調査
〇消防法調査
〇事前協議

☑ここがポイント

物件建物の賃貸借(売買)契約は、事前協議終了後に。

このコラムのまとめ

以上が施設通所型の介護・障害福祉事業における建物要件と事前協議日程です。立地や建物の外観、費用だけを見て即決することなく、本コラムで解説した項目を十分に理解した上で賃貸(売買)契約を行いましょう。

開業計画を進める中で、建物調査が大きなウエイトを占めることになるため、なるべく早めに当事務所へご相談されることをお勧めします。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
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