実地指導(運営指導)の法律上の根拠|介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条と行政手続法第32条 

実地指導(運営指導)の法的根拠|介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条と行政手続法第32条
井ノ上剛(社労士・行政書士)

介護障害福祉事業の経営者の皆さん、実地指導(運営指導)の全体像について正確に理解されていますでしょうか?何となく「実地指導が入ったらどうしよう」と不安に感じてはいないでしょうか。今回は介護障害福祉事業の経営者のために実地指導の法律上の位置づけについて詳しく解説します。

このコラムの推奨対象者

・実地指導(運営指導)について漠然とした不安を感じている方
・実地指導(運営指導)についての法的根拠を正しく理解したい方
・専門家の力を借りて実地指導(運営指導)の対策を行いたい方

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、社労士、税理士、行政書士、司法書士が合同し、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年12月)現在、職員数53名、介護障害福祉事業の累積支援実績646社(北海道~沖縄)、本社を含め7つの営業拠点で運営しています。介護障害福祉事業の実地指導について日夜研究を重ねています。

同じ内容を動画でも解説しています。

介護保険施設等運営指導マニュアル

令和4年3月、厚生労働省により「介護保険施設等運営指導マニュアル」が策定されました。このマニュアルの策定によって、それまで有効であった「平成18年/介護保険施設等の指導監督について」と「令和元年/介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」の2つが同時に廃止となりました。

以下具体的に令和4年3月版の「介護保険施設等運営指導マニュアル」について詳しく解説していきます。なおこのコラムの内容は介護保険事業、障害福祉事業に概ね共通するものです。

>>厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアルについて」はこちら

実地指導の法的根拠

介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条に実地指導の法的根拠が記載されています。介護保険法第23条、24条を抄訳しつつご紹介します。

介護保険法 第23条

市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係るサービスを担当する者に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる。

介護保険法 第24条

1.厚生労働大臣又は都道府県知事は、介護給付等に関して必要があると認めるときは、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った居宅サービス等に関し、報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録、帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員に質問させることができる。

2.厚生労働大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、介護給付等を受けた被保険者又は被保険者であった者に対し、当該介護給付等に係る居宅サービス等の内容に関し、報告を命じ、又は当該職員に質問させることができる。

以上は介護保険法の条文ですが、障害者総合支援法第9条から11条にも同様の趣旨が記載されています。ここでは介護保険法の条文番号に沿って解説します。

第23条には事業所に対して書類の提出を求め、それに対する質問権が規定されています。第24条も実務的には第23条と差はありませんが、第24条には介護事業所側に「報告」を命ずることができる根拠が規定されています。具体的には文書だけでは判断できないことについて、口頭もしくは別の文書による説明を命ずる権限を指します。

行政手続法との関係

前項では実地指導の法的根拠について、介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条に基づき解説しました。

一方、介護保険法や障害者総合支援法に限らず、法律に基づく行政指導や指定取消等の不利益処分を行う際には、国が定める共通の手順を踏む必要があります。それらを規定するのが行政手続法です。

介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条は、行政手続法第32条で規定される行政指導に該当します。行政手続法第32条を詳しく見ていきましょう。

行政手続法 第32条

1.行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

2.行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

ポイントは2つ、つまり事業所側の協力によって初めて行政指導(実地指導)が成立するため強制力がないという点と、行政指導(実地指導)に従わなかったことのみを理由に、例えば指定取消などの不利益処分を下すことはできない点にあります。

実務上は実地指導の実施を拒否したり、指導された内容の改善を拒否した場合には、次のステップつまり監査を行い法令違反の事実関係を明確にした上で指定取消などの不利益処分へと進むことになります。

集団指導

事業所ごとに実施される実地指導とは別に集団指導という手法が存在します。集団指導は介護保険法にも障害者総合支援法にも明記されていない指導方法ですが、行政手続法第36条における「複数の者を対象とする行政指導」であると解されています。

行政手続法 第36条

同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。

集団指導は、正確な情報の伝達・共有による不正等の行為の未然防止を目標としており、いわば介護保険施設等に対し情報のインプットを図るものです。必要な情報の発信及び伝達について、漏れの無いように確実かつ一斉に行う必要があります。これに対して実地指導は集団指導でのインプット情報が日々のサービスで正しくアウトプットできているか確認する機会であると言えます。

まとめ

実地指導(運営指導)の法的根拠について、介護保険法第23条、24条と障害者総合支援法第9条から11条と行政手続法第32条を中心に解説しました。以降のコラムでは順を追って、実地指導(運営指導)の内容にも踏み込みんでいきます。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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