運営指導の基本知識【前編】運営指導(実地指導)の基礎を学ぼう!介護障害福祉事業の運営指導ってそもそも何?

運営指導の基本知識【前編】運営指導(実地指導)の基礎を学ぼう!介護障害福祉事業の運営指導ってそもそも何?
井ノ上剛(社労士・行政書士)

介護保険制度における指導監督は、運営指導と監査に分かれます。運営指導は事業所の協力に基づき実施され、実施状況指導、運営体制指導、報酬請求指導の3種類に分かれます。監査は不正行為等の確認と、その後の不利益処分の決定の根拠整理のために行われます。運営指導の基本知識前編では、運営指導の基礎知識について詳しく解説します。

このコラムの推奨対象者

・運営指導の実施時期や実施形態について関心のある方
・運営指導と監査の関係性に関する知識を整理したい方
・運営指導における3種類の指導事項について知りたい方

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、社労士、税理士、行政書士、司法書士が合同し、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和6年1月)現在、職員数56名、介護障害福祉事業の累積支援実績663社(北海道~沖縄)、本社を含め7つの営業拠点で運営しています。コラムでは運営指導の基礎知識について詳しく解説します。

同じ内容を動画でも解説しています。

指導監督の全体像

介護保険制度における指導監督は、介護保険法第23条、24条の「運営指導」、および不正等の疑いがある場合の第76条「監査」により行われます。運営指導はこれまで実地指導と呼ばれてきましたが、運営指導マニュアルの変更により、今後はオンライン等で行う場合もあることから、運営指導に名称を改められました。運営指導は、介護事業所の協力の下で行われるため、通常、運営指導の実施は事前の実施通知を送付することが必要となります。

収集した結果に基づき必要な行政指導を行いますが、何をどのように報告するのかについては介護事業所の側に委ねられることから、介護事業所に保存されている帳簿書類等を実際に確認する必要があります。

一方、監査は、人員・運営基準違反や介護報酬請求における不正行為、高齢者虐待等の人格尊重義務違反等を想定し、事実関係を確認するものです。介護保険法第23条、24条には立入検査の権限はないため、自主的な改善を促す勧告や、指定取消等の行政処分を行う場合は、証拠の保全の観点から、第76条等に規定する立入検査を行い、事実関係の確認を行います。

運営指導の実施頻度

運営指導は、少なくとも指定有効期間である6年間に1回以上は実施されますが、施設系サービスについては、利用者の生活の場であること等を考慮し、3年に1回の頻度で運営指導を行うことが望ましいと考えられています。また新規指定を行った介護事業所については、指定後速やかに運営指導を行う等、実情に応じた効果的な運営指導を行うための工夫がとられています。

運営指導は行政指導

運営指導は、行政手続法第32条に基づく行政指導ですが、あくまで介護事業所側の協力によってのみ実現されるものであることから、強制力はありません。介護事業所側に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合や、そのおそれがある場合は、監査によって違反等の事実関係を明確にした上で、勧告又は指定取消等の行政処分が行われます。

なお、行政手続法第32条第2項の規定により、行政指導に従わなかったことのみを理由に不利益処分を行うことはできません。介護事業所が行政指導に従わなかった場合は、監査を行い、違反の事実関係を明確にした上で、勧告又は指定取消等の行政処分を行う必要があります。

また、介護保険法第24条の書類提出権限や質問権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています。行政機関は、指導の場においては、介護事業所の支援につながる指導を行うことが求められています。

運営指導の形態

運営指導には、自治体単独で行う一般指導と、国、都道府県、市町村による合同指導があります。市町村同士の合同による運営指導も実施可能です。例えば、区域外指定を行っている地域密着型サービス事業所に対して区域内で指定している市町村と合同で運営指導を実施すること等も考えられます。

居宅介護支援事業所については、サービスの根本ともいうべきケアプランの作成や給付管理等の重要な業務を担っていることから、市町村が運営指導を行うに当たっては都道府県からアドバイスを受ける場合があります。

所要時間の短縮

運営指導マニュアルでは、標準化・効率化の観点から、「確認項目及び確認文書」を定めています。介護事業所は「確認項目及び確認文書」の範囲について、法令遵守責任者の指揮の下で、自己点検を行う必要があります。

「確認項目及び確認文書」以外の項目は特別の事情がない限り確認しないものと定められていますが、内容に不備があるなど、十分な確認ができない場合は、他の文書等の提出を求められます。運営指導時の確認事項や見るべき文書を絞ったことにより、一介護事業所あたりの所要時間の短縮を進めることが期待されています。

また、同一所在地や近隣に所在する介護事業所に対する運営指導については、介護事業所の側の都合を十分に考慮し、できるだけ同日又は連続した日程で行うなど、効率的な実施が求められます。特に有料老人ホーム等に併設した訪問介護等の事業所がある場合や、事業グループ内の近隣事業所がある場合は、人員の兼任状況等、相互に確認すべき事項があるため、いくつかの事業所を併せて実施されることになります。

3種類の指導

運営指導は3種類の指導形態があり、原則として一体的に行われます。3種類の指導とは、施設設備を確認する「介護サービスの実施状況指導」、人員及び運営の基準に規定する運営体制を確認する「最低基準等運営体制指導」、加算等の介護報酬請求の適正実施の確保のために行う「報酬請求指導」です。

介護サービスの実施状況指導では、ケアマネジメントに基づくサービス実施確認の他、サービスの適正性の確認や高齢者虐待及び不適切な身体的拘束等の発見や防止について、事業所で実態を目視し、関係者から状況を聴取することにより確認されます。施設や設備について規定のあるサービス種別の場合は、併せて現地確認が行われます。

最低基準等運営体制指導では、個別サービスの質を確保するための体制に関する事項について確認し必要な指導を行うものです。この指導でも、運営体制の確認を事業所で行うことを想定していますが、事業所に行かなくても確認可能と判断できる場合は、オンライン会議システム等を活用することが可能です。

報酬請求指導では、各種加算に関する算定要件や請求状況について確認します。算定要件が満たされていても、取扱いが不十分である場合は、正しい理解に基づく取扱いをするよう改善指導が行われます。この指導でも、オンライン会議システム等を活用することが可能です。

書類等の取扱い

運営指導においては、前年度から直近1カ月程度前までの実績を対象に確認することとしています。運営指導の過程で不明な点が見つかった場合は、それよりも過去の状況を確認することになりますが、そのような場合には法令違反や不正な行為が行われている可能性があることから、事実関係を確認するため監査へ移行する可能性が高いと言えます。

対象は原則として3名以内、居宅介護支援事業所については、介護支援専門員1人あたり1名~2名の利用者についてその記録等を確認されます。当然、その範囲の確認で不明な点が多く発見されるようであれば、監査への移行が考えられます。

介護事業所における事務負担軽減の観点から、提出を求める資料については、1部のみとすることを徹底するとともに、自治体が既に保有している文書については、改めて提出を求めない方針が定められています。

また、介護事業所において作成、保存等が行われている各種書面について、書面に代えてシステム上の記録で管理されている場合は、ディスプレイ上で内容を確認することとし、別途、印刷した書類等の準備や提出は求めない方針も定められています。

まとめ

今回のコラムでは介護保険制度における指導監督について解説しました。このコラムの内容を端的にまとめると、以下の通りとなります。

論点

・指導監督は、介護保険法に基づく運営指導と監査の二つの形態で行われます。運営指導は事業所の協力の下、自主的な改善を促し、監査は不正行為や違反の事実関係を確認するものです。

・運営指導は少なくとも6年に1回行われ、特に施設系サービスでは3年に1回が望ましいとされています。新規指定事業所には指定後速やかに行われます。

・運営指導には介護サービスの実施状況指導、最低基準等運営体制指導、報酬請求指導の3種類があり、それぞれの指導が一体的に行われます。

最後までお読み頂き、まことにありがとうございます。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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