訪問看護のリハ職報酬減額 令和3年度介護報酬改定
令和3年度介護報酬改定では、全体として0.7%の増額が行われた。訪問看護においても単位数が微増する中、リハ職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)の単位が減額。このコラムでは介護保険・障害福祉サービスの専門社労士・行政書士がリハ職単位減額の背景を検証する。
訪問看護でリハ職サービス単位が減額
令和3年介護報酬改定で訪問看護は時間区分別のサービス報酬が概ね1~2単位の微増に留まった。
|
改定前 |
改定後 |
20分未満 |
312 |
313 |
30分未満 |
469 |
470 |
30分以上1時間未満 |
819 |
821 |
1時間以上1時間半未満 |
1122 |
1125 |
リハ職による実施 |
297 |
293 |
その一方、リハ職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)によるサービス提供が4単位減額。今回の介護報酬、障害福祉サービス報酬改定の中で、極めて特徴的な減額となった。このコラムではこの減額が行われた背景を考察したい。
リハ職とは何か?
このコラムで言う「リハ職」とは次の3職種を指す。
理学療法士(PT):運動機能回復のためのリハビリテーションの専門資格
作業療法士(OT):日常生活動作に関するリハビリテーションの専門資格
言語聴覚士(ST):咀嚼、言語機能に関するリハビリテーションの専門資格
いわゆるリハ職は「入院から在宅医療へ」との、わが国における医療の大きな流れの中、術後のリハビリのために必要不可欠の存在となっている。介護保険法で指定を受ける訪問看護事業所においても、過去10年間でリハビリサービスが約3.5倍となっていることからも、リハ職のニーズの高まりが理解できるだろう。
令和2年10月 社会保障審議会での議論
このように在宅医療に欠かせない存在となっているリハ職に対して、冷や水を浴びせるような議論が行われた。令和2年10月実施、厚労省の社会保障審議会のなか、
「リハ職による訪問が多い訪問看護事業所を認めない」
「訪問看護の人員基準に、看護師6割以上の基準を設ける」
との方針が議論された(結果的にこの規制導入は見送られた)。この議論の背景には何があるのか?
訪問看護指定における人員基準
介護保険法の訪問看護の指定(営業許可)には、看護師の人員基準が設けられている。具体的には常勤換算で2.5名の看護師が必要である。訪問看護事業所でリハビリサービスを提供することも可能だが、リハ職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)については人員基準はない。
このことから、訪問看護事業所でありながら、リハ職の比率が看護師よりも高い事業所が存在し得るのである。結果的に、リハ職が多い事業所では
看取りの実績が少ない
軽度者の割合が高い
という運営になる傾向が高く、「訪問看護」本来の役割を十分に果たせない、との懸念が生じるわけである。
訪問リハビリテーションの存在
読者諸氏の中には疑問に思われる方もおられるだろう。
「リハ職が主体となって訪問リハを実施できる制度はないのか?」
実際には存在する。介護保険法の「訪問リハビリテーション」である。
介護保険法の訪問リハビリテーションの指定を受ければ、リハ職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)が主体となって、利用者に訪問リハを提供することは可能なのである。
訪問リハビリテーションの設立が困難である理由
しかし、この「訪問リハビリテーション」と「訪問看護」には指定基準で大きな違いがある。訪問リハは医療機関・介護老人保健施設による設立しかできない点だ。
つまり、看護師には「訪問看護」による独立の道があるのに対して、リハ職には自らが主体となって独立する道が閉ざされている。ゆえにリハ職が勤務先からの独立を志願する場合、現行制度下では訪問看護事業所に所属するしか方策がないのである。
リハ職比率が高い訪問看護事業所の問題点
筆者には「リハ職比率が高い訪問看護事業所」の何が問題なのか甚だ疑問である。介護保険法による訪問看護事業所の指定(営業許可)には需給調整が働かない。つまり、ある地域における事業所数と利用者数がどのようなバランスであっても、新規指定がなされ、営業を開始することができる。
ということは厚生労働省は「訪問看護事業所が独自の特色を出し、自由競争のもと、利用者に選択されるべき」という建前を取っているのである。
厚労省の社会保障審議会で議論された「リハ職が多い事業所は訪問看護本来の役割を果たしていない」のであれば、利用者は「本来の役割を果たしている」訪問看護事業所を選択すればよいはずだ。同時に利用計画(ケアプラン)を策定するケアマネージャーも、「本来の役割を果たしている」訪問看護事業所をケアプランに入れれば済むだけの話である。
これらの議論をすっ飛ばして、リハ職が多い訪問看護事業所を締め出す議論には到底賛同できない。
加えて、昨今のリハビリニーズの高まりに応じて、リハ職だけで訪問リハビリテーションを設立できるように、訪問リハビリテーションの指定基準を見直す議論も必要であることを指摘しておく。
まとめ
ひとまず、社会保障審議会による「リハ職が多い訪問看護事業所の締め出し議論」は先送りされた。その痕跡として残っているのが、今回の報酬改悪である。再掲しておく。
①リハ職が行う訪問看護の単位を4減額
②リハ職が行う訪問看護については、その実施した内容を訪問看護報告書に添付する。
③リハ対象者の範囲に「通所リハのみでは家庭内ADLの自立が困難であること」を追加。
3年後の介護報酬改定議論に注目したい。
【この記事の執筆・監修者】
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※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
(電話)0120-60-60-60
06-7739-2538
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