集合住宅で要介護高齢者を囲い込み 過剰なケアプランを策定する居宅介護事業所へ実地指導を強化

集合住宅で要介護高齢者を囲い込む介護保険事業所を徹底マーク

有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅に併設する介護保険事業所で、入居者のニーズをはるかに越えた過剰サービスを提供する介護保険事業所が存在する。超高齢化社会を迎える我が国において、介護保険制度の根幹を揺るがしかねない大問題である。現状を問題視した厚生労働省は、いよいよ本格的に問題解決に乗り出した。このコラムでは令和3年介護報酬改定で示されたケアプランセンター等への実地指導方針について、介護保険法専門の社会保険労務士・行政書士が詳しく解説する。

有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅の違い

本題に入る前に、このコラムで解説する有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅(以下サ高住という)の違いについて、一覧表で相違点を理解しよう。

 

有料老人ホーム

サ高住

契約方式

終身利用権契約

賃貸借契約

介護サービス

施設スタッフ

外部事業者

見守り生活支援

あり

あり

法律

老人福祉法

高齢者住まい法

終身利用権契約と賃貸借契約

有料老人ホーム、サ高住、それぞれ所管法が異なる別制度である。有料老人ホームに入居する際の契約は一般的に「終身利用権購入契約」が取られ、入居一時金として比較的高額の費用を支払うことで、終身利用する権利を得る。

それに対してサ高住の入居の場合は「賃貸借契約」となり、入居時の敷金等は有料老人ホームに比べて安く抑えることができるのが特徴だ。

介護サービスの提供

有料老人ホームとサ高住の最大の違いは、介護サービスの提供主体である。有料老人ホームの場合、施設内の介護スタッフが介護サービスを提供するのに対して、サ高住の場合は原則的に外部の事業者から介護サービスを受けることになる。

なお、有料老人ホームサ高住ともに、見守りなどの生活支援は原則として施設内スタッフを行う。

一般賃貸住宅を使った、いわゆる「隠れ老人ホーム」

前段で説明した有料老人ホーム、サ高住とは別に、一般賃貸住宅を利用した、いわゆる「隠れ老人ホーム」が存在している。これは不動産業者が入居者募集の際に、「要介護者歓迎」などの広告でアプローチし、結果的にそのマンションが要介護高齢者で埋まる、という方式だ。この方式では宅建業許可を得ている不動産仲介業者と介護保険事業所が共同で運営に当たる。

令和3年介護報酬改定では、この「隠れ老人ホーム」に対しても対策のメスが入った。

厚生労働省が要介護高齢者囲い込みと対峙する背景

令和3年度の介護報酬改定で、厚生労働省が実地指導対策を強化するのは、先に述べた有料老人ホーム、サ高住および、いわゆる「隠れ老人ホーム」である。

ここではなぜ厚生労働省がこれらの施設に対する実地指導対策を強化する判断を下したのかを考察する。

介護保険の仕組み

2000年にスタートした介護保険。40歳以上の介護保険被保険者が支払う介護保険料により、要介護状態になった場合の介護サービス提供を担保する公的保険だ。

利用者が訪問介護やデイサービス、訪問看護などに代表される介護保険サービスを受けるためには、各市町村における要介護認定を受ける必要がある。ここで要介護度1~5のうちいずれかに認定されて、初めて介護保険サービスを受けることができるのである。ちなみに要介護度1が最も介護度が低く、5が最も高いことを表している。

介護保険サービスを受ける際、本人の所得状況に応じて、サービス費の1割、2割、3割のいずれかを自己負担する必要がある。逆に言うと、7割、8割、9割が公費によって賄われている、というのが介護保険の仕組みだ。

ケアプラン策定の仕組み

介護保険事業者側から見た場合、自社の売上の7割、8割、9割が公費により賄われる。これはその他の民間事業から見ると、極めて特徴的な条件であると言えるだろう。例えば本人1割負担の要介護高齢者の場合、10万円の介護サービスを提供した場合でも本人の負担は1万円で済む。

本人負担が廉価で済むため、介護保険事業者側には、「可能な限り多くのサービスを提供したい」との意識が働くわけだ。

一方で、介護保険事業者の「可能な限り多くのサービスを提供したい」という意識を牽制するために、居宅介護支援事業所(ケアプランセンター)の制度が設けられている。要介護高齢者が介護保険サービスを受けるためには、居宅介護支援事業所に所属するケアマネージャーが作成するケアプランが必要とされているわけだ。

つまり、実際の介護保険サービスを提供する訪問介護事業所、デイサービス事業所、訪問看護事業所がどれだけ要介護高齢者自身に営業アプローチをかけたとしても、ケアマネージャーが必要と判断するサービス以上には、介護保険サービスを提供することが出来ないのである。

しかし介護保険サービス提供事業者がケアマネージャーを抱き込んだ場合、大きな問題が生じる。

高齢者入居施設を使った不適切な手法

厚生労働省が実地指導対策に乗り出す、いわゆる「不適切な手法」は次の通りだ。

過剰サービスの不適切な手法

①入居施設を管理する事業者が、相場より安い料金で入居者を募集する
②同事業者がケアマネージャーを抱き込む
③ケアマネージャーが要介護高齢者の「ニーズを越えた過剰なプラン」を作る
④併設する介護保険事業者が過剰なプランに基づいてサービス提供を行う

この図式によって、低廉な家賃設定であっても全体としての収益を確保することが出来るわけである。先の①~④のうち②③④に関しては違法性が存在する。つまり②ケアマネージャーは公正公平な立場が求められるため、介護保険法により金品の授受やサービス提供事業者と不当な関係性を構築することが禁じられている。③④に違法性がある点については説明不要だろう。

厚生労働省が行う実地指導について

ここでは「要介護高齢者のニーズを越えた過剰なケアプラン、過剰な介護保険サービスの提供」に対して厚生労働省が考える対策について解説する。

実地指導の方針

過剰なケアプランを発見した自治体による実地指導の強化
国保連システムの改修による過剰プランの抽出
特別指導チーム創設による実地指導

順を追って説明しよう。

過剰なケアプランを発見した自治体による実地指導の強化

この取り組みは従来の制度の延長線上にあると言える。つまり有料老人ホームとサ高住の管轄主体である都道府県の点検により、低廉な家賃設定を行っているケースまたは要介護度別に家賃設定を行っているケースを把握する。(そもそも要介護度の違いで賃料に差を設けること自体が、過剰サービス提供の温床になると考えられる)

そのようなケースを発見した場合に、ケアプランセンター(居宅介護支援事業所)の管轄主体である市町村に情報を提供し、実地指導に臨む。同時に実際のサービスを提供する介護保険事業所への実地指導も強化する。

国保連システムの改修による過剰プランの抽出

過剰なケアプランの発見のためには、介護保険の利用限度(区分支給限度基準額)の利用割合が高いケアプランを抽出することが効果的である。要するに要介護者が利用できる上限近くまでケアプランが策定されているということは、過剰なサービス提供になっている可能性が高い、と言えるためだ。

この場合に人海戦術で抽出作業を行うことが困難であるため、国保連システムの改修を行い、AIを活用した抽出作業を行う。(令和3年9月実施)

特別指導チーム創設による実地指導

国の補助により、都道府県と市町村に特別指導チームを創設し実地指導を強化する。

特別指導チームの構成

・介護保険部局
・集合住宅部局
・介護支援専門員、指導監査職員OB

これらの合同により、ケアプランセンター、訪問介護事業所、デイサービス事業所に対する実地指導を包括的に実施するという仕組みだ。

対象となるのはもちろん、有料老人ホーム、サ高住、一般賃貸住宅に入居する要介護高齢者への介護保険サービス提供だ。

同一敷地内建物減算

訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)には、事業所と近接する建物に入居する利用者へのサービス提供、または事業所とは別の建物であっても同一の建物に住む複数の利用者にサービス提供を行う場合に、報酬単価の減算措置が取られている。

この場合の減算割合は10~15%である。

 

介護事業所と同一・隣接敷地

その他

人数

~49人

50人~

20人~

算定率

90%

85%

90%

減算率

10%

15%

10%

>>同一敷地内建物減算についての詳細はこちら

これらの減算措置が取られるにもかかわらず、有料老人ホーム、サ高住、または一般賃貸住宅における過剰なケアプラン、過剰な介護保険サービスが後を絶たないのも、厚生労働省が実地指導を強化する理由である。

事業者側は、同一敷地内建物減算(10~15%)を甘受しながらも、囲い込みによる利益確保を優先する傾向があるものと予測される。

まとめ

以上が集合住宅における、要介護高齢者の囲い込み問題の概要である。繰り返すが、有料老人ホーム、サ高住、一般賃貸住宅への要介護高齢者の入居そのものが問題となるわけではない。

問題は、これら施設への勧誘が低廉な一時金、低廉な家賃設定をもってなされ、その穴埋めのために、要介護高齢者が本来必要としない過剰なケアプラン、過剰な介護保険サービスの提供がなされる、という点である。

超高齢化社会を迎える我が国において、介護保険制度の維持存続のためにも、不当な取り組みを行う事業者が一掃されることを心より願う。

>>厚生労働省解説ページ

介護・障害福祉事業の会社設立オールインワンパッケージ