障害者(障害児)のための任意後見 家族信託 遺言相続

障害者(障害児)のための任意後見 家族信託 遺言相続

 

障害のある子を持つ親御さんからの相談で多いのが、「親である自分が老い、判断力が衰え(認知症など)、やがて死を迎えた時の子の行く末」である。このコラムではそのような家族にスポットをあて、任意後見制度、家族信託、遺言相続について解説する。

 

【目次】

①任意後見制度を中心とした諸制度の特徴と欠点
②見守り契約と移行型任意後見契約
③家族信託を使った相続対策
④公正証書遺言を使った相続対策
⑤まとめ

①任意後見制度を中心とした諸制度の特徴と欠点

親たる自分の老いと死。障がいある子の行く末をどのように考えるか。この仕事をしていると多くの方から相談を寄せられる。まず冒頭で任意後見制度を中心とした諸制度の特徴と欠点をご紹介する。(障害のある子を持つ親の事例を前提に解説)

ア)任意後見制度

親が健常である時期に、特定の人物との間で任意後見契約を締結する。契約は公正証書で行う。自分が認知症等を発症し判断力が低下した際、任意後見受任者、親族または本人自らが裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることにより、任意後見が開始する。

制度の欠点としては、本人の意図に反して、任意後見監督人の選任申し立てがなされない場合、任意後見が開始しないという点、また任意後見が開始しない間は自分が希望しても法的な代理サポートが受けられない点などが挙げられる。

イ)財産管理(委任)契約

前述の任意後見契約発効前の法的な代理を、特定の人物に委任する契約を財産管理(委任)契約と呼ぶ(以下委任契約)。民法の委任契約に基づく契約である。この契約では本人の健常時期から、一定の項目について代理権を発生させることができる。

公正証書などで代理人の権限の存在をさらに明確にすることができるが、金融機関によってはさらに本人の同意を確認する必要性を求められるなど、十分に機能しているとは言えない実情がある。また委任契約は本人の後見開始により効力が終了するという欠点もある。

ウ)公正証書遺言

親たる自分の財産について、死後の相続方法を指定する方法として最も有効性の高いのが公正証書遺言である。遺言の作成過程の正当性に一定の担保がなされるとともに、遺言書が公証役場に保管されるため、偽造の憂慮がなくなるという特徴がある。

公正証書遺言で障がいある子に対して、または障がいある子を将来サポートしてくれる他の相続人などに対して法定相続分を超える財産を相続させることができる。

一方で公正証書遺言の欠点としては遺留分の存在が挙げられる。遺留分とは法定相続人に最低限認められる相続分である(法定相続分の1/2が遺留分として保証させる等)。従って法定相続人が複数存在する場合などには、親たる自分が希望する相続指定が制限されてしまうのが公正証書遺言の欠点である。

以上の3制度の欠点を補うものとして、当事務所が推奨したい諸制度を以下に解説する。

②見守り契約と移行型任意後見契約

移行型任意後見契約とは、健常時期の委任契約と任意後見契約を併せた契約である。公正証書により定める。契約内容は日常生活における法律行為の代理に限定して定めることを推奨する(金銭財産の取り扱いについては、次項③家族信託を使った相続対策で述べる)。

移行型任意後見契約により、親たる自分の健常時期から日常生活における法律行為(介護サービスの利用や入院手続き等)の代理を、信頼できる人物に委任する。当該人物を任意後見受任者とすることで、判断能力が衰えた後も継続して法的な代理サポートを受け続けることができる。

先に述べた任意後見契約の欠点、つまり任意後見監督人の選任時期が遅れないように、移行型任意後見契約に見守り契約を併せることを推奨する。見守り契約とは、定期的な来訪面談により、自分の健康状態や生活環境の変化を確認してもらう契約である。見守り契約により任意後見監督人申し立て時期を見誤らないようにすることができる。

③家族信託を使った相続対策

障害ある子に対する遺産相続について不安のある方にお勧めしたいのが家族信託制度の活用である。家族信託とは、親(委託者)が信頼する人物(受託者)に一定の財産を託し、障がいある子(受益者)のために生活資金などの提供を行う仕組みである。

公正証書で契約を明確化するとともに、受託者の行為を監督する意味で法律の専門家に信託監督人を依頼することをお勧めする。家族信託の最大の特徴は2点ある

1)親たる本人の相続財産から信託財産を切り離し、遺留分減殺請求の対象外とする
2)受益権の承継先を、二次相続、三次相続で指定することができる

④公正証書遺言を使った相続対策

前述の家族信託では、金銭財産および投資財産など流動性の高い財産を信託するのが通例である。一方で流動性(換金性)の低い財産および信託財産に組み入れなかった財産についての最終帰属先は公正証書遺言により定めることをお勧めする。公正証書遺言の特徴については前述の通りである。

⑤まとめ

以上のとおり、家族信託制度の創設と研究、社会的な認知度の拡大により、これまで限界があった成年後見制度・遺言制度の限界を補うことができるようになった。

障がいある子を持つ親御さんには、是非これら諸制度の理解促進とともに、自分の健常時期にこそ、将来に備えた一手を打つことを検討して頂きたい。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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