【令和6年度法改正対応】訪問介護の人員基準|訪問介護員の資格要件と人数、常勤加算法、管理者の兼務|訪問介護の開業講座①
タスクマン合同法務事務所がお送りする福祉起業塾です。近い将来、訪問介護の立ち上げを考えておられる方に向けて「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」をお届けします。第1回のテーマは「訪問介護の人員基準」です。訪問介護の指定、訪問介護員の資格要件と必要人数、常勤換算法、管理者の兼務までを詳しく解説します。
このコラム推奨対象者
・訪問介護事業所の指定を理解したい方
・訪問介護事業所の人員基準、常勤換算方法を理解したい方
・訪問介護事業所の管理者の人員基準を理解したい方
コラムの信頼性
タスクマン合同法務事務所は社労士・行政書士・司法書士・税理士が合同し、介護保険事業・障害福祉事業に専門特化してご対応しています。このコラムの執筆日時点、職員数68名、累積顧客数は北海道から沖縄まで756社、本社を含め8つの営業拠点で運営しています。コラムでは訪問介護の指定、訪問介護員の資格要件と必要人数、常勤換算法、管理者の兼務までを詳しく解説します。
同じ内容を動画でも解説しています。
訪問介護事業所の指定
初めに訪問介護の「指定」について解説します。「指定」とは「ある行為をするために、行政庁から資格を得ること」を言います。訪問介護事業の場合、「ある行為」とは「保険給付の対象となる訪問介護サービスを利用者に提供し、市町村などの保険者に対して保険請求を行う」ことを指します。
「指定」は原則として事業所の拠点単位で行いますが、本体となる指定事業所に付属する出張所、いわゆるサテライトを設けることもできます。ただし条件として、利用者との契約手続き、職員の労務管理や応援体制、運営規程の適用が統一できる場合等に限ります。
訪問介護事業所の開設予定地が政令指定都市、中核市、東京23区の場合、それらの市または区が指定権限を持ちます。指定申請書類もそれらの市または区へ提出します。
開設予定地がそれら以外の一般市町村の場合、都道府県が指定権限を持ちます。指定申請書類も都道府県へ提出します。
また各市町村が定める介護保険事業計画において、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所」、「小規模多機能型居宅介護事業所」の運営を後押しする観点から、新たな訪問介護事業所の指定により、サービスが過剰供給になる場合、訪問介護事業所の指定を行わない、または指定は行うが一定の条件を付ける場合がある点に注意しましょう。
指定基準に違反した場合、勧告、事業者名の公表、改善命令の各段階を経て指定取消に繋がりますが、それらの段階を経ずに、直ちに指定取消となる場合があります。具体的には次のいずれかに該当する場合です。
直ちに指定取消となる場合
・利用者負担額を受け取らない場合
・ケアマネジャー等へ紹介料を支払った場合
・利用者の生命身体に危害を及ぼす場合等
常勤とは?
ここから先は、このコラムの本題である、訪問介護の人員基準について解説していきます。訪問介護の人員基準には「常勤」という言葉が度々登場します。一般用語で用いられる「常勤」とは異なり、特別の定義があるため確認しておきましょう。
人員基準で言う「常勤」とは「その事業所の所定労働時間を勤務すること」を指します。所定労働時間とは、法定労働時間の上限である週40時間の範囲内で、事業所が独自に定める勤務時間のことです。
多くの訪問介護事業所では、所定労働時間を法定労働時間と同じく1日8時間勤務の週5日で40時間と定めることが多いですが、1日7.5時間勤務の週5日で37.5時間、1日7時間勤務の週5日で35時間などと定める事業所も存在します。
要するに「常勤」とは「その事業所の所定労働時間を勤務すること」を指すのが原則であるわけですが、4つの例外があるため確認しましょう。
例外1 所定労働時間
事業所が独自に定める「所定労働時間」が短ければ短いほど、常勤要件が緩やかになります。例えば所定労働時間40時間の事業所Aと37.5時間の事業所Bを比較すると、Bの方が短い労働時間で常勤要件を満たすことができます。
所定労働時間を短く設定することは、労働法の側面では問題ありませんが、訪問介護事業所のサービスを一定品質以上に保つ側面からは問題が生じます。そこで、人員基準では常勤扱いの下限を週32時間と定めています。所定労働時間に下限を定めることで、極端に短い勤務による常勤認定を排除しているわけです。
例外2 32時間基準の特例
産後・育児・介護・治療のために、一時的に時短勤務となっている職員については、週30時間勤務をもって「常勤」扱いにすることが認められています。多様な働き方を推進するための特例であると言えます。
例外3 常勤職員の交代要員
産前産後休業中等の常勤職員の代わりを、複数の非常勤職員が務め、その労働時間の合計が常勤職員と同等に達することで「常勤職員」を置いたものとみなす特例です。産前産後休業以外にも育児休業、介護休業の場合にも同様の特例が当てはまります。
例外4 併設事業所間での兼務
仮に併設事業所それぞれの所定労働時間が35時間の場合、事業所Aの20時間、事業所Bの15時間勤務を合計して35時間とすることで「常勤」として取り扱うことが認められます。ここで言う「併設」とは同一敷地内または道路を隔てて隣接することを指します。
兼務職種については「同時並行的に行われる職種」との制限があるため、例としては併設する訪問介護事業所と居宅介護支援事業所、それぞれの「管理者」を兼務するケースなどが該当します。管理者は2つの事業所の管理について、同時に目を光らせることができるという趣旨です。
従って、たとえ併設事業所であっても訪問介護員とケアマネジャーの場合には「同時並行的に」業務を行うことはできないため、それぞれの労働時間を合計して常勤として取り扱うことはできません。
なお、管理者の兼務範囲については、令和6年指定基準改正により、必ずしも併設事業所に限らないことが明記されました。詳しくは後半の管理者の項目で解説します。
以上、常勤の原則的な定義とともに、4つの例外規定を理解しておきましょう。
訪問介護員の人員基準と常勤換算方法
訪問介護員の人員基準は、常勤加算方法で2.5人以上です。常勤換算方法とは訪問介護員の週平均労働時間を合計し、所定労働時間で割ることで、常勤職員の数に置き換えることを言います。これが2.5人以上必要となるわけです。具体例を見ていきましょう。
仮に事業所Sの所定労働時間が週35時間であるとします。AとBが常勤で35時間、非常勤職員Cが週22.5時間、Dが17時間、Eが13時間勤務する場合、労働時間の合計は122.5時間となります。
この122.5時間を、事業所の所定労働時間である35時間で割ると3.5人となり、人員基準2.5人をクリアする訪問介護員が確保できている、ということになります。これが常勤換算方法です。
逆算すると、所定労働時間が週35時間の事業所では、35時間×2.5人、つまり訪問介護員合計で87.5時間となれば、人員基準をクリアすることになります。
ここで合計労働時間に算入できる範囲について、3点に分けて解説を加えたいと思います。
労働時間の算入上限
1点目は1人あたりの労働時間の算入上限です。常勤換算方法で計算する1人当たりの労働時間は、事業所の所定労働時間が上限となります。例えば常勤職員Aが「自分は頑張って週40時間勤務する!」と言っても、事業所Sの場合、所定労働時間が週35時間であるため、常勤換算に算入できるAの勤務時間数は35時間が上限となります。
登録ヘルパーの労働時間の算入範囲
2点目は非常勤職員のうち、勤務日や勤務時間が不定期な登録訪問介護員、いわゆる登録ヘルパーの取り扱いです。登録ヘルパーについては、利用者に対するサービス提供予定に応じて、不定期に勤務日時が決定されるため、指定申請の段階では勤務日時が決定されません。そこで合計労働時間に算入できるのは「確実に勤務する時間のみ」とされています。実際の労働時間がこれを下回る場合、指導の対象となるため注意しましょう。
出張または休暇の場合の取り扱い
3点目は訪問介護員が出張する場合、または休暇を取る場合の取り扱いです。常勤職員については、1カ月以内の出張または休暇に限り、常勤扱いとし、合計労働時間に算入することが認められています。一方、非常勤職員の出張または休暇の期間については、合計労働時間に算入することが認められていません。
厚生労働省が人員基準で定める訪問介護員の資格要件は、介護福祉士と初任者研修過程修了者ですが、各自治体では条例により、実務者研修過程修了者、看護師、准看護師、および旧制度下におけるヘルパー資格者も訪問介護員として認めています。
訪問介護事業所の管理者の人員基準
本編の最後に、訪問介護事業所の管理者の人員基準について解説します。訪問介護事業所の管理者は、事業所の従業員と業務を管理し、従業員に運営基準を遵守させる責任を負います。
管理者には資格要件がないため、無資格の人でも管理者に就くことができますが、自治体の条例、いわゆるローカルルールにより、実務経験年数を求める場合があります。
また訪問介護事業所の管理者は、原則として常勤かつ専従つまり兼務不可ですが、管理業務に支障が生じない場合には、2つの例外が認められる場合があるため確認しておきましょう。
管理者常勤・専従の例外1
管理者を務める事業所の訪問介護員と兼務する場合です。いわゆるプレイングマネジャーです。
管理者常勤・専従の例外2
他の事業所の管理者または従業員と兼務する場合です。ただし、これにはさらに例外があります。例外の例外であるため、原則通り兼務禁止です。解釈通知では3つの具体例が示されています。
管理者兼務禁止例1
管理者に就く事業所数が過剰である場合です。具体的な事業所数までは示されていませんが、当社の実務上の経験から2事業所の管理者兼務を上限とする自治体が多いように思います。
管理者兼務禁止例2
入所施設の看護・介護職員と兼務する場合です。この時間帯は「手が離せない」状態になるため兼務を認めない、という意味です。
管理者兼務禁止例3
距離的な問題から事故・緊急時に即座に駆けつけることができない場合です。具体的な距離や所要時間までは示されていませんが、当社の実務上の経験から15分程度で移動できる距離とする自治体が多いように思います。
以上、解釈通知で示されている3事例の場合には、管理者が他の事業所の管理者または従業員との兼務が認められない点を理解しておきましょう。
まとめ
「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」、第1回では「訪問介護の人員基準」について解説しました。訪問介護の指定、訪問介護員の資格要件と必要人数、常勤加算法、管理者の兼務についてご理解頂けたかと思います。
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【この記事の執筆・監修者】
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ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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