介護障害福祉事業を開業する方向けの遺言講座⑨|遺された家族が困らないような遺言の書き方の工夫

遺言の書き方② 遺された家族が困らないような遺言の書き方の工夫

■自筆証書遺言の訂正の仕方

1.自筆証書遺言を書いてみる

自筆証書遺言を実際に書いてみましょう。

ポイントは3つです。

①全文自筆

②日付、署名、押印を忘れずに

③訂正は方式にのっとって

これに注意すれば、自筆証書遺言はすぐにでも作成着手が可能です。

2.自筆証書遺言を間違えたときの訂正方法

自筆証書遺言を書き損じた場合、原則的には書き直しをお勧めします。

しかし法律にのっとった方式であれば、訂正も可能です。

訂正法の方法は次の通りです。

「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、かつその変更の場所に印を押す」

実際の訂正を行う場合はこんな感じです。

3.自筆証書遺言サンプル

遺産相続手続き不動産_自筆証書遺言サンプル

■自筆証書遺言の訂正の種類

1.遺言の一部を削除する

書いた内容を消し、書き直しを行わない場合です。削除するときは、

「付記 この遺言書○行目削除 遺言者○○○○」と欄外に記入し、削除箇所に二重線と印鑑を押します。

2.遺言の一部を「訂正」する

書いた内容を訂正する場合です。訂正の場合は、

「付記 この遺言書○行目○字削除、○字加入 遺言者○○○○」と欄外に記入し、訂正箇所に二重線。正しい内容を添え、印鑑を押します。

3.遺言の一部に「加入」する

書き忘れを挿入する場合です。加入の場合は、

「付記 この遺言書○行目○字加入 遺言者○○○○」と欄外に記入し、加入箇所にカッコを入れ、加入内容を添え、印鑑を押します。

遺言は単なる法文書というよりも、一生の締めくくりの記念文書ですので、できれば訂正なく美しく残したいものです。

■相続トラブルを防ぐ遺言書作成のコツ

1.遺言で相続分を指定するときのコツ

妻と2人の子に遺言を遺す場合を考えます。法定相続分は妻2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつです。

これを、

妻 :4分の3
子A:8分の1
子B:8分の1

と相続分を指定したい場合、分母が揃っていないと表記が分かりにくくなりますが。そこで、

妻 :分の6
子A:分の1
子B:分の1

と分母を揃えることで、表記内容が分かりやすくなります。分子分母を通分する必要は特にありません。

2.妻と兄弟姉妹に遺言を遺すときのコツ

子がなく、両親もすでに死亡している場合、相続財産の4分の1は被相続人の兄弟姉妹に相続されます。

遺される妻にとっては、夫婦が長年蓄積してきた財産の4分の1が、全く別生計である夫の兄弟姉妹に相続されるのは、心情的にも納得しにくいでしょう。

子のない夫婦の場合、親族づきあいが疎遠になるのは、比較的多いことではないでしょうか。

そこで、遺言によって「全ての財産を妻に相続させる」と記します。

兄弟姉妹には遺留分がないため、兄弟姉妹の相続分・遺留分に関しては一切検討する必要がありません。

■先妻の子が相続人になる場合の遺言作成のコツ

1.先妻の子に多めに相続させるコツ

死亡した先妻との間に子Aがあり、後妻との間にも子Bがあるケースです。後妻は健在とします。

子Aが後妻と養子縁組をしていない場合、将来後妻が死亡して相続が発生した場合、子Aは法定相続人ではありません。

つまり、子Aと子Bは、将来後妻の相続まで視野に入れた場合、子Bの方が有利といえるのです
(被相続人の財産が、後妻を経由して、将来子Bに承継されるという意味です)

そこで、遺言によって先妻の子の相続分を多めに指定しておきます。

この場合、後妻と子Bの遺留分には十分な配慮が必要でしょう。

2.先妻から相続した財産を先妻の子に相続させるコツ

先の事例の発展版です。

単に先妻の子に多めに相続させるといっても、後妻と子Bの納得性が得られない場合があります。

そのような場合、先妻と結婚する前から先妻が独自に所有していた財産や、先妻が死亡したときに相続した財産を、先妻の子Aに相続させます。

遺言には次のように記載します。

「子Aには****を相続させる。これは先妻****から相続した財産である」

このように記載すれば、後妻と子Bの納得性も高まるでしょう。

■遺言作成にほんの少しのアイデアと愛情を

1.非嫡出子の相続分をあえて遺言で指定する

もともと民法では、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は2:1の差が設けられていました。

これは法律婚を「正式な婚姻」と扱っていたことが原因ですが、平成25年9月の最高裁判例により、違憲扱いされました。

結果民法が改正され、嫡出子・非嫡出子にかかわらず法定相続分は等しくなりました。

しかし、その法改正の理解が国民には不十分であり、嫡出子側の理解が得られない場合があります。

そこで、遺言に次のように記し、後日の憂いをなくします。

【遺言記載例】(子Cが非嫡出子の場合です)

各相続人の相続分を次の通り指定する。

妻  **** 6分の3
子A **** 6分の1
子B **** 6分の1
子C **** 6分の1

この内容の遺言は、単なる法定相続分の記載ですので、作成する意味がないかのように思えますが、あえて非嫡出子Cの法定相続分を他の嫡出子と同等であることを明示するところに意味があります。

2.相続財産の分割方法の指定を第三者の委託する

相続財産の分割方法指定とは、例えば次のような遺言例です。

妻  **** 4分の2
子A **** 4分の1
子B **** 4分の1

では、実際の妻と子ABが何を相続するでしょうか?これは相続人3名の話し合い(遺産分割協議)によって行います。

しかし、相続人3名が円満に同意して話し合いが完結するという保証はどこにもありません。

遺産が金融資産(現預金)だけであれば、分割協議を行う必要はありませんが、不動産が混じると分割方法でもめることが多々あります。

そこで、遺産分割方法を第三者に委ねる遺言を遺します。記載例は次の通りです。

「相続財産の分割方法の指定は、****に委託する」

相続人の中でリーダーシップを発揮できる者でも、遺言執行者でも誰でも構いません

3.「相続」と「遺贈」の違いを明確にして、妻の不動産相続を助ける

相続とは、被相続人の死により法定相続分に応じて相続人が共同で財産を受け継ぐことです。(負債も含めて)

相続が発生した後、特定の人が登記上の不動産名義を獲得するためには、法定相続人全員の実印と印鑑証明書を添付した遺産分割協議書を、法務局に提出する必要があります。

しかし遺言で特定の財産を法定相続人に相続させる旨を指定した場合、法務局への遺産分割協議書の提出は必要なく、遺言書を添付することで済むため、手続きが相当簡便化します。

【遺言記載例】妻に特定の不動産を相続させる

妻****に次の不動産を相続させる(×遺贈する)

土地:大阪市北区**町*丁目*番*号 宅地 123㎡45

建物:同地上 家屋番号123 木造瓦葺2階建 1階50㎡12 2階45㎡34
妻は他の相続人の承諾なく、遺言書の提出のみで不動産の名義変更を行うことができます。

一方の遺贈とは、遺言により財産を譲り受けることを指します。譲り受ける人が法定相続人であるか否かを問わず、遺贈と呼びます。法定相続人への遺贈は相続と同じ登録免許税率(1000分の4)が適用できますが、他の相続人との共同申請のため、必要提出書類が多くなってしまいます。

■書き方次第で遺言の内容がより明確に

1.上場会社の株式相続は預託先を明確に

上場会社の株式相続。通常、株式は証券会社に預託されるのが一般的であるため、遺言で上場株式の相続を指定する場合次のように記載します。

「遺言者名義の株式会社***の株式1万株は長男***に相続させる。なお株式はタスク証券大阪支店に預託してある。」

2.遺言で農業を継がせるとき、借地権も忘れずに

農業の経営権が相続人の共有となり、権利が分散してしまうと経営自体が不安定になります。

安定的な農業経営の承継を希望するなら、農業経営権は1名に限定するのがよいでしょう。

農業経営権を遺言で指定する場合、具体的な農業経営財産は次のように記載します。

・土地(農地のことです)
・建物(農業経営に必要な建物のことです)
・農機具、道具類
借地権

借地権も相続財産に入ります。忘れずに記載しましょう。

■遺言では不明確な表現を避け、対象を特定しましょう

1.遺言で動産を譲るときは、物の特定を

貴金属、宝石類、絵画、着物など、金額に関わらず故人が生前所有していたものはすべて相続の対象になります。

これらを誰が相続するかを遺言で示す場合には、特に注意が必要です。

不動産や預金などのように、正式な名称による物の特定が難しいからです。

動産を一括して、遺言で相続させる場合は次のように記載します。

「自宅内にある全ての動産は妻***に相続させる。」

しかし個別に相続人を指定したい場合は、物が特定できるように記載する必要があります。

・***製腕時計、金属のベルトの中央に青のラインが入った物
・ダイヤモンドの指輪 内側に***の文字が刻印された物

似通った動産が複数存在し、物の特定ができない場合、せっかくの遺言が台無しです。分かりやすい表現を心がけましょう。

2.遺言で親族に財産を譲る 遺贈

法定相続人が妻と子である場合における母親。

法定相続人が孫のみである場合の息子の妻。

このような方々は、たとえ身近な親族であったとしても法定相続権がありません。

これらの方々に遺産を承継したい場合は、遺言を記す必要がありますが、その場合の表記は「遺贈(いぞう)」となります。

「預金者名義の**銀行**支店の普通預金の全額を、母親***に遺贈する(×相続させる)」

遺贈は、「遺言によって贈る」という意味です。法律用語である「遺贈」を使うと後々の憂いがなくなります。

3.内縁相手への遺贈は、住所・氏名・生年月日を明確に

いかに長年夫婦同然の生活を送っていたとしても、法律外の関係(内縁)であれば、相続権が生じません。

内縁の妻または夫に財産を残したい場合は、遺言で遺贈するほか方法がありません。

親族と異なり、

「長男太郎」

「次男二郎」

のような表記で人物を特定するのが難しい場合は、住所・氏名・生年月日を明記して特定させます。

「内縁の妻花子」という表記では、人物の特定が心もとないためです。