遺言が正しく実行されるためには「遺言執行者の指定」が効果的です。しかし、そのほかにも幾つかの方法で遺言内容を正しく実現し、遺族の権利を守る方法があります。ここでは遺言による遺族保護の工夫を解説します。

■遺言で負債の相続人も明確に指定する

1.負担付遺贈はこう記載する。

「長男Aは病気の母親***と同居し、生活の面倒をみること」・・・負担

「長男Aに私の全財産を相続させる」・・・遺贈

このような遺言を、「負担付遺贈」と呼びます。

長男Aがこの負担を拒否する場合、負担の提供相手である母親が全てを相続します。

長男Aが相続放棄をしないにもかかわらず、負担を実行しない場合は、他の相続人が負担の実行を求め、それでも実行しない場合は家庭裁判所で遺言の取消を求めることができます。

2.遺言で財産と直接紐づく負債を相続させる

不動産や車などを購入する場合、住宅ローンや自動車ローンを組む場合があります。

ローンがついている不動産や自動車を受け継ぐ者を遺言で指定する場合、ローンもセットで相続することを指定できます。こうすることで他の相続人は特定の財産を相続しない代わりに債務の相続も免れます。

債権者の立場からすると、複数ある法定相続人のうち、特に1名が指定されてしまうとうまく回収ができない恐れがあります。

一般的には、法定相続人のうち特定の1名を債務の相続人とする場合には債権者の承認が必要です。

■遺言で遺族の生活を保護する

1.財産を信託する

障害者である子が相続人となる場合、財産を全額譲り渡しても管理運用ができない場合があります。

そこで、相続財産を信託銀行に預けて管理・運用を委託し、利益を障害者である子に受け取らせる方法があります。

これを「信託」と呼びます。

遺言による信託では次の方法を明確に定めます。

・受託者(信託銀行のことです)
・受益者(例えば障害者である子のことです)
・信託財産
・収益金の支払い方法
・信託期間
・信託期間終了後、財産を受け取る者

2.未成年後見人を指定する

妻が既に亡く、未成年の子のみを持つ場合、遺言で未成年後見人を指定することができます。未成年後見人は、子の教育・監護・財産管理を行います。

信頼のできる親族に事前承諾を得た上で、遺言で指定するのがよいでしょう。同時に後見監督人を指定して、未成年後見人の不正を監視させることもできます。

■生前贈与の意味を遺言で整理しておく

1.生前贈与の恩恵を遺言でチャラにする

被相続人から生前に贈与を受けている場合、「特別受益の持ち戻し」という制度により、「相続財産を前渡しでもらっている」とみなして遺産分割します。

例えば、Aに対する生前贈与500万円、死亡時の財産3000万円のケースでは、相続財産を3500万円とみなし、Aは500万円をすでに相続したものとして相続分を計算します。

遺言では、このAの特別受益をなかったことにすることができます。「特別受益の持ち戻し免除」と呼びます。具体的な遺言の書き方は次の通りです。

「私がAに対して生前贈与した500万円については、特別受益の持ち戻しを免除する」

できれば、生前贈与した経緯まで記せば、他の相続人の理解が得られやすくなるでしょう。

2.遺言で特別受益を明確に示す

前段の「特別受益の持ち戻し免除」とは逆に「これが特別受益に該当しますよ」ということを、遺言で明確に示すこともできます。生前贈与については、例えば子が複数ある場合には、それぞれの子はお互いが受けた生前贈与額を相手に知られたくないものでしょう。

遺言なく相続が発生した場合、「A兄さんは**円贈与してもらっているだろう!?」という衝突が生じやすいものです。

そこで、遺言で生前贈与を明確にします。具体的な遺言の書き方は次の通りです。

「私がAに対して生前贈与した500万円については、特別受益に該当するするため持ち戻すこと」

この場合も生前贈与した経緯まで記せば、相続人の同意が得られやすいでしょう。

■遺言で寄与分の指定、分割禁止の指定

1.多めに相続させる相続人の寄与分を遺言で明記する。

遺言で相続人の相続分を指定する場合、理由を添える必要はありません。他の相続人の遺留分を侵害する場合も同様です。しかし、多めに相続させる人にその理由を添えて遺言を作成すれば、他の相続人の理解はより得られやすくなるでしょう。

ここで、「寄与分」を使います。

寄与分を記載しても遺言の効力は何ら変わることはありませんが、相続人の理解を得るという目的では効果的です。具体的な遺言の書き方は次の通りです。
私の財産は次の通り相続させる。

妻A 8分の6
子B 8分の1
子C 8分の1

妻の相続分が法定相続分よりも多いのは、寄与分を認めたからである。
妻は私の事業において、通常の従業員よりも低い給与で20年間勤めた。そのことで私の相続財産の増加に寄与したからである。

2.遺言で遺産の分割を5年間禁止する

明治時代の民法で、「長子相続」が指定されていたのは、財産が分散することによる家名・財力の衰えを防ぐためです。

これは封建時代の名残とも言えるでしょう。戦後の改正民法で、現在の法定相続分が指定されたましたが、場合によっては「相続人による分割」がデメリットに働く場合も少なくありません。

例えば、会社経営や農業経営をしている場合が想定されます。このような場合に備えて、いずれは法定相続分による分割を行うけれども、相続発生後5年間は未分割のまま置く、という仕組みを取ることができます。

遺言による遺産分割の禁止です。最大禁止期間は5年間です。具体的な遺言の書き方は次の通りです。

「本遺言書で指定した遺産分割は、私の死後5年間その分割を禁止する。」

しかし相続人全員の合意があった場合には、遺言内容に関わらず分割することができます。

■遺言で相続人を廃除する。認知する。

1.遺言で相続人を廃除する。

法定相続人が遺言者に対して、暴行・虐待・悪口雑言を繰り返す場合、遺言で相続人廃除をすることができます。

遺言者の死後、遺言執行者が家庭裁判所に遺言にもとづいて相続人廃除の申し立てを行います。

「Aの相続分をなしとする」

との遺言は、相続人廃除ではなく、「相続分の指定」に留まるためAの遺留分の問題が残ります。

Aに遺留分減殺請求をさせないためには、相続人廃除が効果的です。

遺言で相続人を廃除する場合の書き方は次の通りです。

「Aを相続人から廃除する。その理由は・・・・。」

理由も添えておかないと、家庭裁判所が相続人廃除の申し立てを認めない場合があるため、注意が必要です。

2.遺言で生命保険の受取人を変更する

保険法の規定に基づき、遺言で生命保険の受取人を変更することができます。

生前の変更が仮に変更前の受取人に知れてしまうと、不当な圧力・言動が予測される場合、遺言で生命保険の受取人変更をしておくと効果的です。

遺言で生命保険の受取人を変更する場合の書き方は次の通りです。
「私が契約者および被保険者となっている次の生命保険契約の受取人をAからBに変更する。

 **生命保険 証券番号****** 死亡保険金****円」

Bについては、住民票どおりの住所・氏名・生年月日を記載し人物を特定します。

3.遺言で認知する

婚姻関係にない男女の間に子が生まれた場合、母親は出産の事実により親子関係が明確ですが、父親が親子関係を認めるには手続きが必要です。

これを認知と呼びます。認知は子が成年の場合、子本人の承諾が必要です。

生前に認知をすることで、少しバツが悪い場合、遺言認知でその環境をかわす事ができます。

つまり、遺言認知をすることで婚姻関係にある妻や子のひんしゅくを買ったとしても、当の本人はこの世にいないわけです。

遺言認知をする場合の書き方は次の通りです。

私とA田B子の間に生まれた次の子を自分の子であると認知する。

母親の表示

A田B子
本籍*****
住所*****
生年月日*****


A田C太郎
本籍*****
住所*****
生年月日*****

遺言認知により、A田C太郎さんは非嫡出子となります。非嫡出子は嫡出子と同様の法定相続分を得ることになります。

非嫡出子と嫡出子の法定相続分についての詳細はこちらをご参照ください。

遺言認知では単に法定相続分の権利発生だけに留まらず、具体的な相続財産の指定(不動産・預貯金額)を行うほうがトラブル回避のためには良いでしょう。

■遺言で成年後見、葬儀の方法を指定する

1.遺言で成年後見人を指定する

遺す遺族の中に、認知症・障害などが原因で十分な判断能力がない人がいる場合、遺言で成年後見人の選任を依頼するのが効果的です。

なお、成年後見人の選任自体は本人または親族が行うため、遺言で記しても直接的な強制力は生じませんが、遺族への強いメッセージとはなり得ます。

遺言で成年後見人の選任を依頼する場合の書き方は次の通りです。

「子Aは母Bの成年後見人の選任手続きを速やかに、家庭裁判所に対して行うこと。」

遺す妻に対する最後の愛情とも言えるでしょう。

2.遺言で葬儀の方法を指定する

一時エンディングノートで葬儀の方法に対する希望を書き残しておく、という方法が流行しました。

遺族にとっての「最初の懸念事項である葬儀」についての道しるべが記されていることにより、様々な負担が軽減することでしょう。

遺言で葬儀について書き記す場合、特に注意が必要なのが、「死後すぐに遺族に発見されること」です。

そのような意味では、葬儀に関する遺言を封入し、家族に渡しておくのが最も効果的です。

葬儀に関する遺言は、民法の遺言項目とは異なるため、遺族への強制力はありません。

しかし、本人の死後、遺族が行う最初の共同作業が葬儀です。

特に強い理由と共に、葬儀に関する遺言を遺すことで、遺族がどれほど助けられるか計り知れません。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538