■法定相続人に遺言を遺す

1.子供がいない場合の遺言

例えば子のいない60代の夫婦のケースです。「ア)妻の最低限の法定相続分」と「イ)他の相続人の遺留分を除く最大相続分」は次の通りです。

・夫の両親が健在の場合ア)6分の4、イ)6分の5

・夫の兄弟が健在の場合ア)8分の6、イ)8分の8 ※兄弟姉妹には遺留分がありません。

つまり、法定相続分に従うとア)の相続分ですが、遺言を遺すことでイ)にまで配偶者の権利を増加させることができるのです。

2.相続関係が複雑な場合

前妻との間に子が存在するなど、相続関係が複雑な場合、それぞれの相続分を遺言によって指定すると効果的です。

例えば、現在の妻との婚姻期間が、前妻との婚姻期間に比べて圧倒的に長い場合などです。

■法定相続人以外に遺言を遺す

1.息子の妻に遺言を残す

例えば息子が早く亡くなり、息子の妻がその後も献身的に家や自分のために尽くしてくれた場合などです。

息子の妻は法定相続人ではないため、遺言を遺さないと一切の財産権利がありません。

2.内縁関係の妻に遺言を残す

現在の日本の法制度では、内縁関係の妻に相続権はありません。仮に何十年も苦楽をともにした相手であっても、一切の財産を相続することができません。

そのような場合に備えて、内縁相手を指定して遺言を遺すと効果的です。

■遺言と認知の関係

1.非嫡出子と嫡出子に差を設ける

平成25年民法改正より、非嫡出子と嫡出子の相続分は同一とされました。しかし、実際に家族として共に過ごした時間・年数などを考えると、非嫡出子と嫡出子の相続に差を設けたくなる場合があるかもしれません。

そのような場合、遺言を遺すことによってそれぞれの相続分に差を設けることができます。

2.非嫡出子を認知する

遺言により非嫡出子を認知することができます。非嫡出子と嫡出子に法定相続分の差がない以上、実質的な利益は以前ほどありませんが、戸籍を回復できるという意味があります。
この他にも、それぞれが置かれている環境によって様々な効果が見込まれるはずです。

■相続に関すること

1.「Aの相続分は3分の1とする」~相続分の指定

遺言では法定相続分とは異なる相続分の指定を行うことができます。つまり「誰がどの割合で」相続するかということです。

2.「Aには○○の財産を相続させる」~遺産分割方法の指定

遺言では相続財産の分割方法を指定することができます。つまり「誰に何を」相続させるかということです。

法律では、「原則としてこのような方針で分割してくださいね」という基本ルールが記載されています。

ただし、単なる基本ルールなので拘束力はありません。

3.「○年以内は遺産分割しないこと」~遺産分割の禁止

最長5年以内で、遺産分割の禁止を定めることができます。「私が死んでもすぐには財産に手をつけてくれるな」という趣旨です。

死亡直前に法定相続人の間にしこりがあり、円滑な遺産分割が期待できない場合に、クールダウン期間として有効です。

4.「Aに生前贈与した○についてはAの相続分とは別枠」~特別受益の持ち戻し免除

相続税計算上は、相続発生前3年間の贈与(生前贈与)は相続税の対象となりますが、各相続人の法定相続分を計算する上では、生前贈与は期間制限なく遡ります。

従って、一部の相続人が何十年も前に贈与された分も、「法定相続分の前渡し」とされ、法定相続分から差し引いて計算します。これを特別受益の持ち戻しと呼びます。

「過去の生前贈与を法定相続人の相続分から分離して、別枠で考えてやってくれ」という指定ができるのです。

5.「Bを遺言執行者とする」~遺言執行者の指定

遺言内容が正しく実現できるように、遺言執行者を指定します。法定相続人を指定してもかまいませんが、遺言の存在を知る第三者を指定することで、公正な遺言執行が期待できます。

(※相続に関する遺言には、この他にも数点ありますが、説明を省略します。)

■身分に関すること

1.「Aは私の子であることを認知する」~遺言認知

法律上の結婚をしていない相手との間に子がある場合、その子に対する認知を行うことができます。遺言認知を行うと、認知された子に法定相続分が発効し、身分・財産が安定します。

反面法律上の配偶者やその子らにとっては、驚愕の出来事です。しかしその時点で当の本人はこの世にいない・・・。一見無責任に見えますが、ケースによっては効果があるかもしれません。

2.「Bを私の子の後見人にする」~後見指定

相続人に親権者がいない場合です。例えば妻を早く亡くし、未成年の子がいる場合です。特定の人を指定して、自分の子の未成年後見人に指定することができます。

■財産処分に関すること

1.「○○を世話になったAに遺贈する」~財産の遺贈

法定相続人以外の人に、遺言によって財産を渡すことを「遺贈(いぞう)」と呼びます。

2.「○○を××市に寄付する」~寄付

財産を寄付したり、自ら財団法人を設立することを指定できます。

3.「○○を△△信託銀行に信託する」~信託

財産を特定の信託銀行に預けて、管理してもらうことができます。

以上のように遺言には「相続」・「身分」・「財産処分」の3つの効果があります。

これらのルールを知っておき、うまく組み合わせ、場合によっては内容を関係者に知らせることによって、今までとは異なる人生環境を歩むことになるかもしれませんね。

■遺贈の基礎知識

1.遺贈とは何か

遺言で贈与することを略して遺贈(いぞう)と呼びます。

遺贈で財産を譲り受ける人を受遺者(じゅいしゃ)と呼びます。

遺贈は誰に対してもできます。法定相続権を持つ人にも、法定相続権を持たない人にも。法人に対しても遺贈できます。

遺贈の方法は大きく分けて2種類です。特定遺贈と包括遺贈。それぞれを検討してみます。

2.特定財産の遺贈 「特定遺贈」

○○市××町1-2-3の土地をAに遺贈する。

現金500万円をBに遺贈する。

このように特定の財産を遺贈する方法を特定遺贈と呼びます。

3.割合で遺贈 「包括遺贈」

私の財産の2分の1はCに遺贈する。

全財産を株式会社ABCに遺贈する。

このように遺産全て、または一定割合を示して遺贈することを包括遺贈と呼びます。

4.負債も含めて遺贈される包括遺贈には注意

包括遺贈を受けるということは、受遺者は結果的に、法定相続人と同様に遺産の一定部分を受け継ぐことになります。

この場合、受遺者はプラスの財産だけでなくマイナスの財産も包括的に遺贈を受けるため注意が必要です。

仮にマイナスの財産のほうが多い場合、受遺者も法定相続人と同様に相続放棄を行います。

■知って納得!遺贈活用のポイント

1.受遺者が遺言者よりも先に死亡していたら?

法定相続人が被相続人よりも先に死亡している場合、代襲相続の問題が生じます。

では、遺贈によって財産を譲り受けるべき受遺者が遺言者よりも先に死亡していた場合どうなるでしょう?

この場合、代襲の問題は発生しません。つまり受遺者の相続人がその権利を相続することはありません。

受遺者の権利は、一身専属的なものと考えられるからです。

2.一定の義務が生じる、負担付遺贈

遺贈で財産を与える代わりに、一定の負担を負わせる仕組みが負担付遺贈です。

例えば、妻に不動産を、息子に現金を遺贈するとき、

「息子は母親の面倒をみること」

などと記載します。

3.遺贈と法定相続分

法定相続人が遺贈を受けた場合、本来の法定相続分とは別枠で遺贈分を受け取れるのでしょうか?

法定相続人への遺贈は、実はそのような特権はありません。

遺贈は、「遺言による贈与」と同じであるため、特別受益を受けたものとみなされます。

つまり、遺贈分を含めて法定相続分しか受け取れないわけです。

■遺留分を理解しよう

1.遺留分は法定相続人に認められる最低限の権利

遺言で本人の遺志が100%実現できるとなると、遺される遺族にとっては最低限の生活基盤を失う恐れがあります。

そのような自体を防ぐために設けられているのが、「遺留分」という仕組みです。

原則として、法定相続分の2分の1が最低保証されています。

※直系尊属(父母・祖父母)だけが法定相続人である場合、3分の1です。

※兄弟姉妹相続人には遺留分はありません。

2.遺留分の具体的掲載

遺留分を実際の事例で計算してみます。

夫A、妻B、子CD。夫Aがなくなった場合、

B:2分の1(相続分)×2分の1(遺留分)=4分の1
C:4分の1(相続分)×2分の1(遺留分)=8分の1
D:4分の1(相続分)×2分の1(遺留分)=8分の1

以上の計算となります。

■遺留分を犯す遺言は有効?

1.遺言でみる遺留分侵害

では上の事例でAが遺言を遺していたとします。例えばDが障害を負っているケースです。

【遺言例】

私の財産はすべてDに相続させる。

このケースでは、BCの遺留分をそれぞれ侵害しています。

しかし、遺留分を侵害しているとは言え、すぐに遺言が無効になるわけではありません。

BCは自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年以内に、遺留分の回復を申し出ます。

これを「遺留分減殺請求」と呼びます。記録の残る内容証明などで通知するのが一般的です。

2.遺留分を押さえ込む方法

では、遺言者Aとしては、死後に遺留分減殺請求が起こらないようにする方法はないのでしょうか?

方法は2つです。

ア)BCがAの生前に家庭裁判所で遺留分放棄の許可を得る
イ)遺言にメッセージを残す

ア)の方法が望めない場合、イ)で対応します。

遺言には法的に効力のある項目が限定されています。

それ以外の内容を遺言に記しても効力は生じません。

しかし、次のような強力なメッセージが遺言に記されている場合どうでしょう?

【遺言例】

私の財産はすべてDに相続させる。

付記

生まれつき障害を持つDを遺してこの世を去るのは無念の思いである。
せめて財産面でDを助けたいと考え、全財産をDに相続させることに決めた。
BCは私の気持ちを汲み、遺留分の請求を行わないで欲しい。

法律でどのように規定されていようが、このような遺言内容を見たBCが遺留分減殺請求を実行することは考えにくいでしょう。

■遺言で遺留分を放棄させることができるか?

1.遺留分の放棄の方法

遺留分の放棄の方法は2つです。

①相続発生後に遺留分の権利者が自由に遺留分を放棄する。

②相続発生前に遺留分の権利者が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄する。

つまり、遺言で「Aには遺留分を放棄させる」と記載しても法的は効力がありません。

2.附言事項で遺留分放棄のメッセージを遺す

しかし、遺言では法律で定められている項目以外に、「附言事項」として自由に遺言者の意思を記すことができます。(この場合も法的な効力はありません。あくまでもメッセージに留まります)

そこで、特定の法定相続人の遺留分を侵害する相続分を遺言で指定したい場合、次のように附言事項を記します。

例1(附言事項)

本遺言ではAとBの遺留分を侵害しているのは承知しているが、これは私が生前世話になったCに多くの財産を残したいとの願いからである。AとBは私の遺志を汲んで、遺留分減殺請求をしないで欲しい。

例2(附言事項)

法定相続人であるAとBには一切の相続をさせないが、これは障害を持つCの行く末を懸念してのことである。AとBがCのために遺留分を放棄することを切に望む。

このような遺言を遺し、遺留分放棄をAとBの良心に委ねることで遺言の実現を図るのです。遺言執行者を指定して、その想いをAとBに告げてもらうのも良いかもしれません。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
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