介護障害福祉事業を開業する方向けの法定相続人講座⑳|相続財産が自宅不動産しかない場合

不動産,代償分割,換価分割,現物分割,共有

■「相続」が「争族」に 事例紹介

1.「争族」に発展した相続関係

老いた父と長男夫婦は同居中です。母は3年前に他界しています。
父の財産は、ほぼ同居中の土地と建物のみ。
価格は3000万円程度です。

長男夫婦には、子どもが2人います。大学生の長男と高校3年生の長女です。次男も結婚し、遠く離れた場所で独立しています。

こちらも、子どもが2人。中学3年生の長女と中学1年生の次女です。どちらの家庭も教育費にお金がかかるときです。

互いに仲が悪いということはないですが、兄弟間でさほど連絡がない状態が続いています。

2.父の死亡、そして「争続」へ

父が死亡し、相続が発生しました。やはり、残された財産は長男夫婦が父と同居していた不動産のみです。幸いなことに、父に借金はありませんでした。

長男夫婦は当然今の自宅に住み続けたいと思っています。老いた父親の介護をしてきたのは、長男の妻なのです。

長男の妻からすれば、義理の父の介護をしてきたのは自分ですから、この家は、自分たちが受け継いで当然と思っています。

一方、次男からすれば、自分は暦とした父の子ですから、当然法定相続分の2分の1はもらえるものと思っています。

そして、次男の言い分はこうです。

「自分は家賃を払っているのに、長男夫婦は父の家に住んで、家賃を浮かせている。だから、長男夫婦が父の介護をしても当然だ。」

父の遺産は、自宅(土地と建物)のみです。現金なら、2分の1ずつ平等に分けることができます。

しかし、不動産はお金のように簡単に分けることはできません。

法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。そして、泥沼の「争続」へ。

■分割方法とメリット・デメリット

1.4つの分割方法

相続財産を遺産協議によって分割するには以下の4つの種類があります。

①現物分割

現物分割とは、個々の遺産ごとに受け継ぐ人を決める方法です。

例えば、相続人Aには預貯金を、相続人Bには株式を、相続人Cには不動産を受け継ぐというやり方です。

②換価分割

換価分割とは、相続財産の全部または一部を売却して現金化してから分割する方法です。

③代償分割

代償分割とは、自宅などを特定の相続人が相続し、その代わりに他の相続人にお金を払って公平化を図る方法です。

④共有

自宅などの遺産を相続人で共有する方法です。

2.メリット・デメリット

以下に4つの方法のメリット・デメリットをまとめました。

分割方法メリットデメリット
現物分割・簡単にできる  ・相続財産がひとりひとりの所有になるため、権利関係がはっきりしている・相続財産によって価値が違うため、不公平が生じるおそれがある
換価分割・相続人が現金で遺産分けをしたい場合に有効な方法 ・公平な分割ができる・不動産などはすぐに現金化できない可能性がある ・相続人のひとりが実際にその不動産に住んでいる場合はそもそも売却に反対する可能性がある
代償分割・不動産を所有しつづけたいときに、有効な方法・不動産を受け継いだ相続人は他の相続人に渡す現金の準備が必要
共有・公平な結果が実現する・処分するときに共有者全員の合意が必要で、後日トラブルが発生しやすい

■おすすめは代償分割

1.事例の検証

それでは、上記の事例に当てはめてみます。

相続財産は、ほぼ自宅だけなので、①現物分割は困難です。

次に、長男夫婦は実際にこの不動産を自宅として生活してきたのですから、急に自宅を売却することも現実的には困難でしょう。

したがって、②換価分割もこのケースでは厳しいです。

残るのは③代償分割と④共有ですが、共有はおすすめできません。なぜなら、後々トラブルが発生しやすいからです。

2.共有は後日にトラブル生みやすい!

もし、長男と次男が1つの不動産を2分の1ずつで相続したとします。

一見、望ましい解決のように思えます。

しかし、この不動産を後日売却したいと長男、次男のどちらかが考えても、もう一方の同意が得られない以上売却できません。

また、長男と次男にはそれぞれ妻と子どもがいます。

もし、長男や次男が死亡すれば、死亡した方の妻や子どもが新たに共有者として加わってきます。

権利関係が複雑化してしまい、結局その不動産を有効に活用することはできなくなっていく可能性があるのです。

3.生命保険などをうまく活用し、現金の準備を!

結果的に上記の事例では、代償分割を選ばざるを得ない可能性が高いです。

ただ、問題は、お金の準備です。

自宅を長男が相続する場合、次男に対しては法定相続分で言えば、1500万円の現金が必要です。

もちろん、分割協議を行い、両者が合意すれば必ずしも法定相続分の現金を支払う必要はありません。

ただ、やはり次男を納得させるためには、それなりのまとまった現金が必要となるかもしれません。

とくに兄弟間の対立が激しければ、法定相続分を要求してくることも考えられます。

そこで、相続財産がほぼ自宅のみの方は、残された相続人がスムーズに分割できるように生前から対策をしておくのがベストです。

このようなニーズに対応するために、生命保険各社が相続対策用の生命保険商品を販売しています。

こういった商品をうまく活用し、スムーズな相続ができるようにしたいですね。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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