介護障害福祉事業を開業する方向けの法定相続人講座㉑|「寄与分」親の介護をした子としなかった子の遺産相続分の違い

「寄与分」親の介護をした子としなかった子の遺産の取り分

■寄与分を巡る相続トラブル事例紹介

1.相続トラブルの背景

父は重い認知症でした。

母は3年前に他界しています。

父の認知症がひどくなってからは、実家近くに嫁いだ長女(専業主婦)の家で同居し、長女が父の介護をしています。

父と母が住んでいた家は、今は空き家状態です。

一方、長男は独立し、実家から遠く離れた場所で暮らしています。

この長男は仕事がいそがしいようで、実家に帰るのは年に1回から2回。お盆と正月くらいです。

長女は、父の面倒を見るのは子どもの役割であることには、もちろん理解しています。

しかし、同じ兄弟でありながら、親の介護をまったくしない長男に対しては心穏やかではありません。

2.父の死亡、そして「争続」へ

父が死亡し、相続が発生しました。

遺言はありませんでした。

四十九日も終わり、長男と長女で遺産分割協議が行われました。

相続財産は、父が残した空き家状態の不動産だけです。

2人で話し合い、父が残した不動産は売却することにしました。

長女は不動産の売却には賛成です。しかし、長男はその売却代金は2分の1ずつで分割するのが当然だと主張しています。

ところが、長女としては、納得がいきません。

長年重度の認知症の父親を介護してきたのは自分です。長男は、ほとんど家に帰らず、介護はしていません。

いくら法定相続分だからといって、2分の1ずつが公平とは到底感情的に受け入れることができません。そして、泥沼の「争続」へ。

■長女の寄与分ははたして認められるか? 

親の介護をした子と、何もしなかった子の間で、相続財産がまったく等しいというのは介護をした子からすればなかなか受け入れがたいものがあります。

そこで、民法は、「寄与分」という制度を設けて、被相続人に生前特別の寄与(貢献)をした人により有利な相続ができるようにしています。

以下では、この寄与分のポイントを解説します。

1.寄与分とは

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な寄与をした相続人に対して、その特別の貢献を客観的に評価し、他の相続人よりも多くの財産の取得を認める制度です。

この制度は、相続人どうしの実質的公平を実現するためのルールです。民法の第904条の二が根拠条文です。

注意して頂きたいのは、この制度はあくまで法定相続人どうしの、公平さを図るための制度ですので、法定相続人以外の人には適用されません。

2.寄与分の条件と簡単な具体例

特別な寄与(貢献)といってもなかなかイメージが沸きづらいと思いますので、以下に簡単な例を紹介します。

ただ、実際にはさまざまな判例(主として最高裁の判決)の積み重ねにより練り上げられてきた考え方ですので、特別な寄与にあたるかどうかは難しい問題です。

民法第904条の二によると、被相続人に対する特別な寄与があったと認めるケースとして以下のパターンを挙げています。

①被相続人の事業に関する労務の提供をした場合。

具体的には、長男がほとんど無給で生前、親の事業を手伝ってきたような場合です。

②被相続人に財産上の給付をした場合。

具体的には、息子が生前に親の自宅の改築費用を提供したような場合です。

③被相続人の療養看護などをした場合です。

具体的には、娘がパート勤めをやめて、母親の入院の付き添いをしたような場合です。

2.寄与分はなかなか認められない!

上記の例を見てお感じになられた方もいらっしゃると思いますが、寄与分が認められるハードルは思ったよりも高いです。

例えば、親の介護のケースでも、同居しながら親の介護をした場合は、単なる子としての当然の扶養義務を果たしたにすぎず、「特別」の寄与にはあたらないと判断されることが多いです。

また、寄与があったかどうかは、被相続人の財産の増加または維持に貢献したかどうかがポイントです。

したがって、精神的な支えになったなどのような主観的な部分は原則として考慮されません。

精神的な苦労が反映されない寄与分という制度では、実際問題として親の介護をした子はなかなか報われないということになりそうです。

3.親は遺言で子の苦労に報いましょう!

では、親の介護を献身的に行った子が報われる方法はないのでしょうか。

さまざまな方法が考えられますが、比較的簡単にできる方法としては、やはり親が遺言を残してあげることです。

親にしてみれば、自分の子に差をつけるのはなかなか心理的に難しいかもしれません。

しかし、「公平」に扱うことで、かえって「不公平」を生みだすことになることもあります。

逆に、あえて「不公平」に扱うことによって、「公平」な結果を実現できることもあります。

遺言をうまく利用することで、防げるトラブルはできるだけ防いでいきたいですね。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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