感染症版BCP(業務継続計画)の作成方法を分かりやすく解説_令和6年4月作成義務化

感染症版BCP(業務継続計画)の作成方法を分かりやすく解説_令和6年4月作成義務化
井ノ上剛(社労士・行政書士)

厚生労働省のBCPガイドラインやひな型を見ても「一体どうやって自社のBCP(業務継続計画)を作成すれば良いのか分からない・・・」とお困りではないでしょうか?令和6年4月から作成が義務化されるBCPは感染症版と災害版の2種類を作成する必要があります。このコラムではまず感染症版BCP業務継続計画について、その作成方法を詳しく解説します。

このコラムの推奨対象者

・令和6年4月義務化のBCP業務継続計画の作成方法が知りたい
・厚生労働省のガイドラインやひな型を見ても、BCPの作成方法が分からない
・感染症版と災害版、統合できるところは統合して効率化したい

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年5月)現在、介護障害福祉事業の累積支援実績562社。当社顧問先の事業所様からも令和6年4月に義務化されるBCP(業務継続計画)について多数お問い合わせ頂き、日々ご対応しています。

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感染症版BCPの作成の前に

感染症版BCPの作成に当たって、BCPの作成方針から検討を始めます。運営基準第30条の2(業務継続計画の策定等)の解釈通知では、感染症版BCPの作成について次の記載義務が示されています。

運営基準第30条の2(解釈通知)

①平時の備え(体制の構築と整備、感染症防止に向けた取組みの実施、備蓄品の確保)

②初動対応(感染症が発生した時にまずどのような行動を取るか)

③感染症拡大防止体制の(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有)

またBCP作成にあたってはガイドラインを参照するよう説明があります。厚生労働省のホームページに掲載されるひな型とガイドラインを参照すれば、BCPの専門知識がない方でも感染症版BCPの作成は可能ですが、BCPをより実効性あるものにするために、以降の説明ではガイドラインのうち最も重要となる5つの項目について解説して参ります。

連絡先の整理

厚生労働省のひな型や様式集では「社内体制の構築」から検討する形式になっていますが、当社では「連絡先の整理」から始めることをご推奨します。「連絡先の整理」を行う過程で、事業所がどのような環境で事業を運営しているのかが明確になり、その結果を参照しながら社内体制を検討する方法が効率的だからです。

またこの「連絡先の整理」作業は、感染症版BCP、災害版BCP共通のものとすることができ効率的です。まずは事業所を取り巻く関係先を可能な限りリストアップしましょう。

以下、厚生労働省が示す例に対して当社が独自に追記したものをご紹介します。

公的機関 協力(最寄り)医療機関
自治体の相談センター
管轄の保健所
市町村役場
指定権者
保険給付費請求先
税務署
都道府県税事務所
労働基準監督署
ハローワーク
日本年金機構
地域自治会
避難先(小中学校等)
一般取引先 居宅介護支援事業所、相談支援事業所
地域の同一サービス提供事業者
取引金融機関
士業契約先(行政書士・社労士・税理士など)
システム・ソフトウェア会社
クレジットカード会社
会社契約の損害保険会社
会社契約の生命保険会社
インフラ 不動産管理(仲介)会社
建物所有者
エアコン等什器備品メンテナンス会社
パソコン・ネットワーク保守会社
エレベーター保守会社
電力会社
管轄水道局
ガス会社
電話通信会社
インターネットプロバイダー
自動車購入先(修理先)
ガソリンスタンド
社内 従業員(親族などの緊急時連絡先を含む)
役員
株主(出資者)

いざ感染症や災害が発生した際に、

Aさん「〇〇の連絡先は?」
Bさん「Cさんが知っていると思いますが、連絡がとれません・・・」

とならないよう、可能な限り事業所に関係する組織・団体の連絡先を整理しましょう。

備蓄品リスト

次に取り組むのが備蓄品リストです。備蓄品リストも感染症版BCP、災害版BCPで共通のものとすれば効率的です。厚生労働省が例示している備蓄品リストは以下からダウンロードできます。

>>BCP備蓄品リストダウンロード(エクセル)

備蓄品についてはそれぞれ消費・使用期限を管理し、定期的に資材を新しいものと入れ替える必要があります。消費・使用期限が迫っている資材は、例えば希望する職員に安値で払い下げるなどすると、福利厚生施策にもつながり効果的です。

BCP社内体制の構築

ここで初めて社内体制の構築に着手します。社内体制も感染症版BCP、災害版BCP共通のものとすれば効率的です。

大企業の場合は既存の部署、例えば総務部や危機管理部などの本来業務としてBCP体制に組み込むことが可能ですが、中小企業の場合はそのような専門部署を設ける余力がないため、日常業務をこなしつつBCP体制を兼務することになります。

このように日常業務の指揮命令系統とは別に特別の体制を設けることを、プロジェクト制度、委員会制度等と呼ぶ場合があります。呼び方に決まりはないため、各社でその体制名称を決定して下さい。ここでは「BCP特別チーム」と呼ぶことにします。

ここまで作成した連絡先整理と備蓄品リストの作成に基づき、次のようなBCP特別チーム表の作成を行います。

役職 担当者
チームリーダー 代表:〇〇〇〇
サブリーダー 管理者:〇〇〇〇
サービス提供担当 サ責:〇〇〇〇
公的機関連携担当 〇〇〇〇
一般取引先連携担当 〇〇〇〇
インフラ連携担当 〇〇〇〇
従業員連携担当 〇〇〇〇
感染対策衛生備品担当 〇〇〇〇
ライフライン冷暖房備品担当 〇〇〇〇
水害避難備品担当 〇〇〇〇
飲食料担当 〇〇〇〇
その他生活備品担当 〇〇〇〇

BCP特別チームに参加できる人数が少ない場合は、1人当たりの担当範囲を広げる工夫しましょう。

感染者発生時の初動対応

続いて感染者または感染疑い者発生時の初動対応について検討します。ここまで「連絡先の整理」に始まり、「備蓄品リスト」の作成、「社内体制の構築」へと進んできました。初動対応については、厚生労働省のひな型をそのまま使っても問題ないと思います。

以下に厚生労働省が示す対応図をご紹介します。

bcp初動対応情報連携

この図に「社内体制の構築」で決定した各担当者の氏名を記入して初動図を完成させましょう。

業務分類と優先業務の選定

次に業務分類と優先業務の選定について検討します。BCPの日本語訳が業務継続計画であることから、感染者または感染疑い者が発生しても、サービスを止めることのないよう、予め業務に優先順位を付けておくことが重要となります。

以下の例では職員の出勤率に応じて、「〇通常通り継続する業務」、「△頻度を削減する業務」、「×いったんストップする業務」に分類してみました。出勤率に応じて業務の順位付けを行うことから、業務分類表も感染症版BCP、災害版BCP共通のものとすることが可能です。

  出勤率
30% 50% 70% 90%
食事
排せつ
医療的ケア
清拭
入浴 × ×
褥瘡・拘縮予防
機能訓練 × × ×
口腔ケア ×
洗顔 ×
洗濯 × ×
掃除 × × ×

食事・排せつ・医療的ケアなど、利用者の生命・健康維持のために必要不可欠となるサービスを継続するために、思い切って停止または頻度を削減するサービスを明確にしておきましょう。

なお、通所介護や生活介護のような日中利用サービスの場合は、一定期間休業せざるを得ないケースがあります。どのような場合に休業し、またはどのような条件が整えば再開するのかも予め検討しておく必要があります。

まとめ

以上、感染症版BCPの作成に最も重要となる「連絡先の整理」、「備蓄品リスト」、「社内体制の構築」、「初動対応」、「業務分類」について解説しました。ここまで作成できたらBCPの8割は完成したと言えます。残り2割は厚生労働省のひな型を参考に、完成させていきましょう。

次回以降のコラムも併せてご覧頂けると幸いです。

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BCP業務継続計画を策定支援

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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