【令和6年度法改正対応】訪問介護の特定事業所加算(体制要件編)|特定事業所加算ⅠからⅤごとに解説|訪問介護の開業講座⑮

【令和6年度法改正対応】訪問介護の特定事業所加算(体制要件編)|特定事業所加算ⅠからⅤごとに解説|訪問介護の開業講座⑮コラムサムネイル
井ノ上剛(社労士・行政書士)

タスクマン合同法務事務所がお送りする福祉起業塾です。近い将来、訪問介護の立ち上げを考えておられる方に向けて「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」をお届けします。第15回のテーマは「訪問介護の特定事業所加算(体制要件編)」です。特定事業所加算ⅠからVの算定要件のうち、事業所の体制要件に着目して解説します。

このコラム推奨対象者

・訪問介護の特定事業所加算の全体像を知りたい方
・加算区分Ⅰ~Ⅴに共通する体制要件について知りたい方
・加算区分ⅠまたはⅢに共通する体制要件について知りたい方
・加算区分Ⅴだけに求められる体制要件について知りたい方

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は社労士・行政書士・司法書士・税理士が合同し、介護保険事業・障害福祉事業に専門特化してご対応しています。このコラムの執筆日時点、職員数74名、累積顧客数は北海道から沖縄まで816社、本社を含め8つの営業拠点で運営しています。コラムでは特定事業所加算ⅠからVの算定要件のうち、事業所の体制要件について詳しく解説します。

特定事業所加算の概要

初めに特定事業所加算の概要について解説します。特定事業所加算は利用者に対するサービス提供体制が充実している事業所を評価する加算制度です。

令和6年報酬改定により加算区分がそれまでの4段階から1つ増え5段階となりました。加算率は、区分Ⅰが20%、ⅡとⅢが10%、ⅣとⅤが3%となります。加算区分ⅠからⅣの間では、併算定ができませんが、加算区分Ⅴに限り併算定が可能となります。例えば加算ⅠとⅤを同時に算定することで、加算率は合計23%となります。

特定事業所加算の全体像

算定要件は全部で14項目あり、加算区分ごとに満たすべき要件が異なります。当然ながら最も加算率の高い特定事業所加算Ⅰを算定する場合には、要件のハードルは高まります。

14項目の算定要件を、体制要件、人材要件、重度者等対応要件の3つにカテゴリー分けし、コラムでは(1)から(8)の体制要件について解説します。

特定事業所加算ⅠからⅤの全てに求められる算定要件

ここでは、特定事業所加算ⅠからⅤの全てに求められる算定要件について解説します。

訪問介護員、サ責ごとに計画された研修の実施

算定要件(1)は、訪問介護員、サ責ごとに計画された研修の実施です。注意すべき点が5点あるため、具体的に解説します。

注意点

1点目は報酬基準に記載されている「訪問介護員、サ責ごとに」の「ごと」の表現です。「ごと」と言うと「一人ずつの個別研修計画を作成し、実行する必要がある」とも読めますが、対象者を職責、経験年数、所有資格などでグループ分けして実施することも認められています。

2点目は事業所に所属する訪問介護員、サ責の全員を研修対象にする点です。対象には、いわゆる登録ヘルパーも含まれます。

3点目は自社実施の内部研修以外に、外部研修を織り交ぜることも認められている点です。

4点目は、場当たり的な研修実施ではなく、目標・内容・実施時期を定めた研修計画の事前作成が必要となる点です。

5点目は、研修の実施頻度です。少なくとも1年に1回以上、全ての訪問介護員とサ責が研修を受講する必要があります。

以上5点が、研修の具体的要件となります。

利用者情報、サービス提供情報に関する定期会議の実施

算定要件(2)は、利用者情報、サービス提供情報に関する定期会議の実施です。こちらも注意すべき点が5点あるため、具体的に解説します。

注意点

1点目は定期会議の主宰者についてです。会議はサ責が主宰する必要があります。主宰の「宰」は「開催する」の「催」とは異なり、「上に立って会議を進める」という意味がある点に注意が必要です。

2点目は登録ヘルパーを含め、事業所でサービス提供に当たる全ての訪問介護員が参加する必要がある点です。なお全員が一堂に会する必要はなく、グループ開催も認められています。

3点目は会議の内容を記録すること、

4点目は概ね月1回以上会議を実施すること、

5点目はオンライン形式による会議の実施も認められている点です。

以上5点が、利用者情報、サービス提供情報に関する定期会議の具体的要件となります。

利用者情報の伝達と報告

算定要件(3)は、利用者情報の伝達と報告です。特にサ責から訪問介護員への伝達は、文書またはシステム等を使って確実な方法で行う必要があります。

伝達報告すべき事項として定められているのは、利用者のADL、要望、家族を含む環境、前回サービス提供時の状況です。これらは記録して保存する必要があります。

定期健康診断の実施

算定要件(4)は、定期健康診断の実施です。注意すべき点が4点あるため、具体的に解説します。

注意点

1点目は、労働安全衛生法で、定期健康診断の実施が義務付けられていない職員、具体的にはパート勤務の訪問介護員や、登録ヘルパーなどを含め、全ての訪問介護員に対して定期健康診断を実施する必要がある点です。

2点目は、定期健康診断の費用負担です。費用は全額事業主が負担する必要があります。ただし労働安全衛生法で、定期健康診断の実施が義務付けられていない職員が、本人都合により、事業主が実施する健康診断を受診しない場合に限り、本人負担で健康診断を実施し、診断結果を提出することが認められています。

3点目は、労働安全衛生法同様に、1年に1回以上、定期健康診断を実施する必要がある点です。

4点目は、新たに加算を算定する場合に限り、今後1年以内に定期健康診断を実施する計画があることで足りる点です。

以上4点が、定期健康診断に関する具体的要件となります。

緊急時等における対応方法の明示

算定要件(5)は、緊急時等における対応方法の明示です。「運営規程」への記載が義務付けられている「緊急時等における対応方法」を利用者に明示する必要があります。ただし、利用者に交付する「重要事項説明書」に「緊急時等における対応方法」の記載があれば、それで足ります。

以上、特定事業所加算ⅠからⅤの全てに求められる算定要件について解説しました。

特定事業所加算ⅠとⅢに求められる算定要件

続いて、特定事業所加算ⅠとⅢに求められる算定要件(6)について解説します。算定要件(6)は、別のコラムで解説する重度者等対応要件で「看取り期の利用者への対応実績が1人以上」を選択した場合に限り満たす必要がある点にご注意ください。

算定要件(6)を満たすためには、医療機関又は訪問看護ステーションと24時間の連携体制を確保したうえで、「看取り期の対応方針」を利用者に説明し、その継続的な見直しおよび職員研修を行う必要があります。

「看取り期の対応方針」については、次の4点を定める必要があるため、具体的に解説します。

注意点

1点目は、事業所における看取り期対応方針に関する考え方、

2点目は、医療機関または訪問看護ステーションとの緊急時を含む連携体制、

3点目は、利用者の意思確認、情報提供の方法、

4点目は、利用者に提供する資料および同意書などの様式です。

以上4点を「看取り期の対応方針」に記載する必要があります。

特定事業所加算Ⅴだけに求められる算定要件

本編の最後に、特定事業所加算Ⅴだけに求められる算定要件(7)と(8)について解説します。

算定要件(7)は、中山間地域等に居住する者に対して、継続的にサービスを提供していることです。移動距離が長く、事業運営が非効率にならざるを得ない事業所を評価する項目であると言えます。

算定要件(8)は、サ責が起点となり随時介護支援専門員、医療関係職種等と共同し、訪問介護計画の見直しを行っていることです。包括的な算定要件を定め、加算区分Ⅴの算定要件を後押しする位置づけとなります。

以上2点が、特定事業所加算Ⅴだけに求められる2つの算定要件です。

まとめ

「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」、第15回は「訪問介護の特定事業所加算_体制要件編」を解説しました。特定事業所加算ⅠからVに求められる要件のうち、事業所の体制要件についてご理解頂けたかと思います。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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