第2回 算定要件編(全5回)初心者のための分かりやすい処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算
初心者のための処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算をテーマに、全5回に分けて解説していきます。第2回は処遇加算等の算定要件です。
このコラムの推奨対象者
・処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ加算の違いが分からない方
・自分で処遇改善加算等の手続きをしているが、不安に思っている方
・これから介護障害福祉事業を開業するために知識を習得しておきたい方
コラムの信頼性
タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年2月)現在、介護障害福祉事業の累積支援実績537社。日々多くの事業所様から処遇改善加算等のご相談をお受けし、対応しています。このコラムでは処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算の算定要件について詳しく解説します。
このコラムと同じ内容を動画でもご覧頂けます。読むのが苦手な方はこちらをどうぞ。
処遇加算のキャリアパス要件
初めに、処遇加算のキャリアパス要件について解説します。
処遇加算のキャリアパス要件では、加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの表現と、キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの表現を混同しやすいため、ご注意ください。
キャリアパス要件 | 加算 | ||||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | |||
Ⅰ | ☑仕事内容と責任に応じた昇格制度(キャリアパス表)を作成 ☑仕事内容と責任に応じた昇給制度(賃金制度)を作成 ☑その内容を就業規則などに明記し周知 |
3つ全て | 〇 | 〇 | ど ち ら か |
Ⅱ | ☑社内研修を実施し能力評価 ☑資格取得のための休暇制度または費用の一部補助等 |
1つ以上 | 〇 | 〇 | |
その内容を全ての介護職員に周知 | |||||
Ⅲ | ☑一定の年数による昇給 ☑保有資格による昇給 ☑能力評価による昇給 |
1つ以上 | 〇 | - | - |
その内容を就業規則などに明記し周知 | |||||
【職場環境要件】 | 1つ以上 | 〇 | 〇 | 〇 |
まずはキャリアパス要件Ⅰからです。キャリアパス要件Ⅰでは、以下3つ全てを実施することが要件となります。
仕事内容と責任に応じた昇格制度“つまり”(キャリアパス表)を作成すること
仕事内容と責任に応じた昇給制度“つまり”(賃金制度)を作成すること
その内容を就業規則などに明記し周知すること、
キャリアパス要件Ⅱでは、以下1つ以上を実施し、その内容を全ての介護職員に周知することが要件となります。
社内研修を実施し能力評価を行うこと
資格取得のための休暇制度または費用の一部補助等を行うこと
キャリアパス要件Ⅲでは、以下1つ以上を実施し、その内容を就業規則などに明記し周知することが要件となります。
一定の年数による昇給
保有資格による昇給
能力評価による昇給
そして処遇加算Ⅰでは、全てのキャリアパス要件を満たす必要があり、加算Ⅱではキャリアパス要件ⅠとⅡを、加算Ⅲではキャリアパス要件ⅠとⅡのどちらかを満たす必要があります。
また全ての加算の共通の条件として、職場環境要件を満たす必要があります。職場環境要件については下記のページを併せてご確認ください。
職場環境要件(処遇改善加算・特定処遇改善加算)
特定加算の算定時要件と実績報告時の要件
続いて、特定加算の算定時要件と実績報告時の要件について解説します。
特定加算の算定時要件には、介護福祉士等配置要件、処遇加算要件、職場環境要件、見える化要件の4つがあります。
算定要件 | 加算 | |||
Ⅰ | Ⅱ | |||
介護福祉士 等配置要件 |
訪問介護 | 特定事業所加算(Ⅰ)または(Ⅱ) | 〇 | - |
通所介護 | サービス提供体制強化加算(Ⅰ)イ | |||
居宅介護(障害) | 特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅳ)いずれか | |||
重度訪問介護(障害) | 特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅲ)いずれか | |||
生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続A型B型、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイ | 福祉職員配置等加算(Ⅰ)から(Ⅲ)いずれか | |||
処遇加算要件 | 処遇加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定(特定加算との同時申請も可能) | 〇 | 〇 | |
職場環境要件 | 6つの区分から各1つ以上を選択(処遇加算の実施項目との重複可) | 〇 | 〇 | |
見える化要件 | 情報公表サイトや自社サイトで特定加算に関する取り組みを公表 | 〇 | 〇 |
介護福祉士等配置要件から確認していきましょう。介護福祉士等配置要件とは、一定の資格者の配置を行い、事業別に定められる特別の加算を別途取得することが要件となります。特別の加算とは例えば、
訪問介護では、特定事業所加算(Ⅰ)または(Ⅱ)
通所介護では、サービス提供体制強化加算(Ⅰ)イ
居宅介護(障害)では、特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅳ)のいずれか
重度訪問介護(障害)では、特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれか
生活介護以下、ご覧の施設型の障害福祉事業では、福祉職員配置等加算(Ⅰ)から(Ⅲ)
以上のいずれかを指します。
次に、処遇加算要件では、処遇加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定する必要があります。まだ処遇加算を取得していない場合は、特定加算との同時申請も可能です
職場環境要件では、定められている6つの区分から各1つ以上を選択する必要があります。処遇加算の実施項目と重複があっても大丈夫です。職場環境要件については下記のページを併せてご確認ください。
職場環境要件(処遇改善加算・特定処遇改善加算)
見える化要件では、情報公表サイトや自社サイトで特定加算に関する取り組みを公表する必要があります。
以上4つの要件に対して、特定加算Ⅰでは全てを満たす必要があり、特定加算Ⅱでは介護福祉士等配置要件以外を満たす必要があります。
続いて、特定加算の実績報告時の要件について解説します。
特定加算では事業所に所属する従業員をABC3つのグループに分類します。Aグループは、経験・技能ある介護福祉職員です。Bグループは、他の介護福祉職員、Cグループは、その他の職種です。
グループ | 具体的内容 | 配分比 | |
(A)経験・技能ある 介護福祉職員 |
所属法人等での勤続10年以上の※資格者を基本としつつ、他の法人での経験・技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定。
|
1 | |
(B)他の介護福祉職員 | (A)以外の介護福祉職員 | 1 以下 | |
(C)その他の職種 | (A)(B)以外の職員(看護職員、運転手、調理職員など) | 0.5 以下 |
Aグループ、経験・技能ある介護福祉職員は、所属法人等での勤続10年以上の資格者を基本としつつ、他の法人での 経験・技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定することができます。
資格者とは、介護保険事業では介護福祉士を、障害福祉事業では介護福祉士以下、ご覧の資格を指します。その条件は「各事業者の裁量で設定できる」とされていることから、求める資格や経験年数等については、事業所ごとに調整することが可能です。
また、1人以上は月額8万円以上の賃金改善、または年収440万円以上とする必要がありますが、困難な場合は理由を示すことでその要件が免除されます。
Bグループは、Aグループに該当しない介護福祉職員のことです。
Cグループは、AグループにもBグループにも該当しない職員、例えば看護職員、運転手、調理職員などです。第1回のコラムで解説していますので、併せてご視聴下さい。
特定加算の配分では、Aグループへの配分比率を1とした場合、Bグループを1以下に、Cグループを0.5以下にする必要があります。
このように、Aグループへの配分比率を高めることで、一定の経験年数を持つ介護福祉士等の資格者の賃上げを行うことが、特定加算の目的であると言えます。
続いて、配分比率の具体的な計算方法について解説します。
事業所の月当たり所定労働時間を160時間とし、常勤職員の年間労働時間を160時間×12カ月で1920時間であると仮定します。
グループ | グループの 賃金改善総額 |
総労働時間常勤換算数 | 賃金改善平均額 | 配分比率 (実績) |
配分比率 (要件) |
(A)経験・技能ある介護福祉職員 | 1,000,000円 | 3000h÷1920h=1.56人 | 1,000,000円÷1.56人=641,025円 | 1 | 1 |
(B)他の介護福祉職員 | 1,500,000円 | 5600h÷1920h=2.92人 | 1,500,000円÷2.92人=513,698円 | 0.8 | 1 以下 |
(C)その他の職種 | 600,000円 | 4500h÷1920h=2.3人 | 600,000円÷2.3人=260,869円 | 0.4 | 0.5 以下 |
Aグループの賃金改善総額が100万円であるとします。Aグループ全員の総労働時間が3000時間の場合、Aグループの常勤換算職員数は、3000時間÷1920時間で、1.56人となります。100万円を1.56人で割ると、1人当たりの賃金改善平均額は641,025円となります。これを1として基準にします。
同様にBグループの賃金改善総額が150万円、グループ全員の総労働時間が5600時間の場合、常勤換算職員数は2.92人となり、1人当たりの賃金改善平均額は513,698円となります。Aグループと比較すると比率が0.8となり、1以下の要件を満たします。
同様にCグループの賃金改善総額が60万円、グループ全員の総労働時間が4500時間の場合、常勤換算職員数は2.3人となり、1人当たりの賃金改善平均額は260,869円となります。Aグループと比較すると比率が0.4となり、0.5以下の要件を満たします。
以上が実績報告時の要件です。この比率となるように特定加算の配分を計画しましょう。
ベア加算の算定要件
続いて、ベア加算の算定要件について解説します。
ベースアップ等要件では、賃金改善の3分の2以上を、毎月決まって支払われる手当の引き上げに充てることが要件となります。
また処遇改善加算要件では、処遇加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定する必要があります。まだ処遇加算を取得していない場合は、ベア加算の届出と処遇加算の届出を同時に提出することも可能です。
ベア加算には処遇加算や特定加算のような加算レベルがありません。2条件を満たすことで取得できます。
手続きの難易度判定要素
続いて、手続きの難易度判定要素について解説します。
ここまでの内容でお分かりの通り、処遇加算、特定加算、ベア加算の3つの組み合わせにより、手続きの難易度に差が生じます。どのような場合に手続きの難易度がアップするのか、確認していきましょう。
難易度判定要素 | 難易度増加ポイント | |
指定自治体(提出先)が複数にまたがる | ★ | |
介護保険、障害福祉にまたがる | ★★ | |
指定事業が複数あり | 全ての事業所住所が同じ | ★★ |
事業所住所が複数(給与を所属別に管理) | ★★★★★ | |
ベア加算があり | 「その他職種」がある | ★★★★★ |
「その他職種」がない | ★★★ | |
特定加算があり | (A)(B)いずれか1グループ | ★★★★★ |
(A)(B)(C)のうち2グループ | ★★★★★★★ | |
(A)(B)(C)3グループ | ★★★★★★★★★★ |
1つめは、指定自治体(提出先)が複数にまたがる場合です。単純に提出先が増えるため、手続きの難易度が上がるという意味です。
2つめは、事業が介護保険、障害福祉にまたがる場合です。介護保険と障害福祉で異なる内容の書類を作成する必要性が生じます。
同じような観点から、指定事業が複数あり、全ての事業所住所が同じ場合または事業所住所が複数にまたがる場合。これは給与を所属別に管理する必要があるためです。
また、ベア加算があり「その他の職種」がある場合とない場合、特定加算があり、ABいずれか1グループで設定する場合、ABCのうち2グループで設定する場合、またABC3グループで設定する場合、それぞれの手続きの難易度が異なります。
このような内容について難易度の判定を行うと、概ね表の通りとなります。星印の多さが難易度の高さを表しています。特定加算でABC3グループで設定する場合、手続きの難易度がもっとも高くなります。
このような点に十分注意して、自社の体制を検討しましょう。
まとめ
以上が第2回の解説内容です。
タスクマン合同法務事務所では、介護保険事業・障害福祉事業に専門特化した社労士、行政書士、司法書士、税理士がお客様を強力にバックアップしています。
第3回以降のコラムもご覧頂けると幸いです。
最後までお読み頂き誠にありがとうございました。
処遇改善加算顧問
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【この記事の執筆・監修者】
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※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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