役員報酬の金額はいつ変更できるのですか?

役員報酬の金額はいつ変更できるのですか?

年度初めの3カ月間に限り、変更することができます。その後1年間は固定です。

解 説

役員報酬とは会社の役員に対する給与のことです。

当然ながら、役員報酬は会社の経費(損金)として取り扱う事できるため、役員報酬額が大きければ大きいほど、逆に会社決算時の利益は小さくなり、それに伴って納税すべき法人税額が下がります。法人税額は、会社利益に対して一定%で課税されるためです。

なぜ、役員報酬の変更は「年度初めの3カ月間に限られ、その後1年間は固定」とされているのか、理由を考えてみましょう。

まずは、会社にかかる法人税と役員報酬にかかる所得税・住民税の税率の違いに着目します。

法人税と所得税の税率の違い

●会社
会社の利益  ×  約30%(法人税)

●役員報酬
所得 × 5%~45%(所得税)
所得 × 10%(住民税所得割)

所得税率は、所得の金額に応じて少しずつ上がります(累進課税)。ここで言う「所得」とは、役員報酬の総額(いわゆる額面)から次の金額を引いて計算します。

役員報酬の総額(いわゆる額面)から引く項目

社会保険料、基礎控除、扶養控除、その他控除(生命保険・地震保険等)

さらに、これとは別に給与所得控除という、概算経費も引くことが出来ます。給与所得控除とは、分かりやすく言えば会社勤めをする人のための必要経費です。例えば、自費で購入するスーツや靴、ビジネスバッグや筆記具等を概算で経費として認めている、と考えれば分かりやすいでしょう。給与所得控除は給与収入に応じて、年末調整時や確定申告時に計算します。

具体的な例でご説明しましょう。

役員報酬月額100万円、年収1200万円のAさんの例

年収(役員報酬) 1200万円

給与所得控除  ー 195万円
社会保険料控除 ー 180万円
基礎控除    ー  48万円
扶養控除    ー  86万円
生命保険料控除 ー  10万円
控除の合計   ー 519万円

所得 681万円

※あくまでもAさんの事例です。

先にご説明した通り、所得税率は所得の金額に応じて、5~45%の間で少しずつ上がります。

Aさんの場合、所得が681万円であり、この場合の所得税率は20%です(控除額があるので実質的には20%以下です)。住民税率(10%)と合計すると、30%となり、法人税率とほぼ一致します。

Aさんが会社の経営者だとしましょう。会社とAさん自身の合計納税額を低く抑えたい場合、Aさん自身の役員報酬が月額100万円(年収1200万円)になるまでは、なるべく会社に利益を残さず、Aさん自身が役員報酬を多く取ることにメリットがある点が分かります。

つまり事例で年収1200万円までは、役員報酬の所得税率+住民税率 < 法人税率 だからです。

ある年度でAさんは自分の役員報酬を月額50万円(年収600万円)にしていましたが、上記のシミュレーションに気づき、こんなことを考えたとします。

A社長

今期は会社が黒字になりそうだな。会社の法人税額を抑えるために、決算の前に自分の役員報酬額をアップしようかな?または自分に賞与を出そう かな?

これに対して税を徴収する税務署としては・・・

税務署

そのような事を認めると、法人税額が不当に少なくなるのでダメです。役員報酬は年度初めの3か月間に決定し、その後1年間同額を継続して下さい。

と決められている訳です。以上がこのQ&Aの結論と理由です。

(参考情報)
国税庁HP:所得税の税率(令和3年4月)
国税庁HP:給与所得控除(令和3年4月)
国税庁HP:扶養控除(令和3年4月)

【この記事の執筆・監修者】

山下 龍志
山下 龍志(やました りゅうじ)
◆1981年生 関西大学大学院卒
◆税理士(近畿税理士会 南支部 登録番号143312)
◆中小企業庁認定 経営革新等支援機関※ ID:106727012301
◆事務所 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル