介護障害福祉事業を開業する方向けの遺言講座①|遺言の種類と基礎知識

遺言の種類と基礎知識

■遺言の基礎知識

1.遺言は法律行為

法律用語では(ゆいごん)ではなく(いごん)と読みます。

遺言は法律行為の一種です。

つまり、「自分が死んだ後の事について自ら法律上の決定をする」

という強い機能があるわけです。

2.遺言最大の注意点は偽造の防止

このことは、遺言者(被相続人)にとっても遺族(相続人)にとっても、深い意味を持ちます。

最も懸念すべきポイントは「偽造の防止」です。

遺言者本人が亡くなった後では、その遺言自体が正しいものなのかどうかを確認する手段がありません。

そこで、民法では「遺言の様式」を厳しく定めているわけです。

要約すると、

「民法で定める様式に従わない遺言は無効」ということです。

以下基礎知識として、遺言の種類から確認していきます。

■普通遺言(自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言)

一般的な遺言の種類です。 生前に落ち着いた環境で作成するものです。

表にまとめると次のようになります。

 自筆証書秘密証書公正証書
概要内容、氏名、日付全て自書し押印。署名のみ自書。押印・封印後、公証人役場で証明を得る。本人と証人2人が公証人役場へ行き、本人が口述し、公証人が記述。
証人不要2人以上2人以上
家裁の検認※必要必要不要
長所・作成が容易
・遺言内容を秘密にできる
・存在を明確にできる
・遺言内容を秘密にできる
・保管の心配がいらない
・存在を明確にできる
・要件不備の心配がない
・検認手続きが不要
短所・検認手続きが必要
・紛失の恐れあり
・要件不備、偽造の可能性
・検認手続きが必要
・要件不備の可能性
・遺言内容が漏れる可能性がある

■特別方式の遺言(一般危急時、船舶遭難時、伝染病隔離者、在船者)

あまり知られていませんが、死亡の危機に直面した時や一定の環境にあるときにも、特別の方法で遺言することができます。

しかしこのような局面が去り、普通方式で遺言が出来る状態になって6カ月生存した場合には無効となります。

  一般危急時 船舶遭難時 伝染病隔離者 在船時
ケース 病気で死亡の危急が迫っているとき 船舶沈没の危急が迫っているとき 伝染病のため行政処分で隔離されているとき 船舶航海中であるとき
概要 ・遺言者が口述
・証人が筆記
・遺言者と証人全員が署名押印
・遺言者が口述
・証人が筆記
・証人が署名押印
・遺言者が作成(代筆でも良い)
・遺言者、筆者、警察官、証人が署名押印
家裁の確認 作成後20日以内に家裁で確認手続き 作成後遅滞なく家裁で確認手続き 不要
家裁は遺言の内容が正しいとの「心証」を得なければ確認手続きをしない
証人 3人以上 2人以上 警察官・証人各1人以上 船長または事務員1人以上証人2人以上
家裁の検認※ 必要

以上のように、民法では遺言の様式を7種類に分類し、それぞれに厳しい条件をつけることで、「偽造の可能性」を限りなくゼロに近づける努力をしてくれているわけです。

■未成年者も遺言できる?

1.未成年者の遺言と民法の関係

民法5条には未成年の法律行為について書かれています。

民法5条
「未成年が法律行為をするには、法定代理人(親など)の同意を得てください」

あ、そうか。未成年の人が単独でする遺言は無効か。

2.未成年者でも遺言は可能

いやいや、急ぐなかれ。同じく民法961条、962条には次のように書かれています。

民法961条
「遺言は15歳から可能です。」

民法962条
「民法5条は遺言に限っては適用しません」

なるほど。これで遺言可能年齢が分かりました。

「15歳になったら遺言可能」

なわけですね。

■成年被後見人も遺言できる?

1.成年被後見人の法律行為と遺言の関係

民法では未成年者の他にも、「単独での法律行為が制限されている」方々が規定されています。

一般にもよく知られるようになった「成年後見制度」もその一つです。

成年被後見人(サポートを受ける人)の遺言について解説します。

成年被後見人の法律行為は、成年後見人(サポートする人)がいつでも取り消すことができます。

これは、成年被後見人が「単独では適切な判断がしにくい」という考えに基づいています。

このように、単独での法律行為が制限される「成年被後見人」ですが、遺言に関しては、要件が少し緩やかになっています。

2.民法で見る成年被後見人の遺言

民法973条
「判断能力が回復している時に、医師2人以上の立会いのもとなら遺言できます」

なぜ通常の法律行為(取引)とは異なり、成年被後見人の遺言作成の要件が緩やかにされているのでしょう。

現在の一般的な学説によりますと

①遺言の効力が発生するときには、本人はすでに亡くなっており、直接の不利益を受けない

②遺言は主に相続人の「身分・地位・遺産の分け方」を示すものであり、相続人の枠を超えて財産処分するものではない

というのが理由です。(②に関しては、少し反論したくなりますが・・・)

3.成年被後見人の遺言の注意点

しかしここで1つ見落としてはならない条文があります。

民法966条
「成年被後見人の遺言は、成年後見人(と成年後見人の親族)に有利な場合は無効。
ただし成年後見人が遺言者の血縁である場合は有効。」 (一部意訳)

というものです。

最近、新聞やニュースで、成年後見人(サポートする側)が成年被後見人(サポートされる側)の財産を使い込んで逮捕される、と言う事件がいくつか報道されました。

これらを防ぐための条文ですね。
次のような考えに基づいています。

①遺言者の血縁でない後見人(サポートする人)は悪事を働く可能性がある
②遺言者の血縁である後見人(サポートする人)は悪事を働く可能性がない

残念ながら、昨今の社会情勢を見ていると、この前提は現代の日本では通用しない考え方ではないかと思います。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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