介護障害福祉事業を開業する方向けの相続税講座④|相続不動産を売却するときの譲渡所得税

相続不動産を売却するときの譲渡所得税

■所得税のしくみ

1.所得税と住民税を知ろう

所得税・住民税はその人の1年間の収入によって税額が決まります。
会社勤めの方の場合、毎月のお給料から所得税と住民税が源泉徴収されます。
会社が本人の代わりに納付をしてくれるわけです。

住民税は、「前年所得に応じて、6月~翌年5月」という変則的な課税になります。
よくプロ野球選手が、「引退後の税金がしんどい」というのは、住民税のことです。

2.所得税の年末調整

実は毎月のお給料から引かれる所得税は、「仮計算」なのです。

この時点では、

①その人の年間に支払う生命保険料
②住宅に対して支払っている損害保険料
③住宅ローンの支払残債

などが一切考慮されていません。

これらを総まとめするのが「年末調整」です。
年末調整では月々仮徴収した所得税を清算して余った分を返し、足りない分を追加徴収します。(ごくまれですが。)

ご参考までに、扶養控除は年末調整時点で判断します。
従って年末に結婚し、扶養対象者が増えた場合、1年間を対象に再計算することができるため、還付金額が大きくなります。

3.個人事業主は確定申告

一方で個人事業主は確定申告をします。
翌年3月15日が期限です。

所得税の計算方法の基本的な考え方は、年末調整と同じです。

しかし、個人事業主の場合「課税の対象」となるのは、収入ではなく所得です。

つまり、給与所得(企業勤めの方)の課税対象が給与収入であるのに対して、個人事業主の場合、「収入―経費」が所得となり、課税の対象となります。

経費の例としては、一般的な企業同様、家賃・交通費・通信費・消耗品費など、その事業を営むために必要なものです。

蛇足ですが、給与所得者(企業勤めの方)も個人事業主と同様、自前の経費をかけて仕事をしています。(例:スーツ、靴、カバン)

これらの経費は、「給与所得控除」として、自動的に計算され、所得税が軽減されています。

■不動産の売却に対する所得税のしくみ

1.不動産の売却にかかる税金は?

では、これらの給与所得者(企業勤めの方)や個人事業主が、不動産を売却した場合、どのような税金が課せられるのでしょうか?

この章では、不動産を売却した場合の「利益」に対して課税される所得税をご説明します。
一般的には「譲渡所得税」と呼ばれます。

所得税は「累進課税」方式をとっています。

つまり、課税所得が大きい方ほど、税率も上がるわけです。

平成27年1月時点の所得税率は、5%~45%。

これに住民税率10%を加えると、15%~55%にもなります。

つまり、「所得額に応じて税率が決まる」というわけです。

2.不動産の売却の場合は分離課税

しかし不動産の売却利益を得た場合には、

「他の所得がどうであろうと、別にして計算する」

というルールがあります。分離課税と呼ばれます。

3.譲渡所得税 分離課税の税率は?

つまり、高額所得者もそうでない人も、不動産売却で得た利益は一律の税率で税額が計算されるわけです。

最大で39%(所得税・住民税含む)かかります。非常に大きい税率です。

計算式は次の通りです。

「譲渡益」 × 「税率」

では、所有不動産を3000万円で売却した場合、

3000万円 × 39% = 1170万

こんなに多額の所得税(住民税)がかかるのでしょうか?

以下、詳しくご説明を続けます。

■「譲渡益」と「税率」を詳しく学ぶ

1.譲渡益は売却額ではない

先に、

「A譲渡益」 × 「B税率」

で譲渡所得税(住民税)が決まるとご説明しました。

しかし、A譲渡益、B税率にはそれぞれ次のような考え方があります。

A譲渡益

譲渡益は単なる収入ではない。「売却費」-「購入費」です。

2.購入費はつまりかかった費用のこと

購入費の事を税法では「取得費」と呼びます。

「取得費」には物件を購入した時に支払った次の費用が含まれます。

【取得費内訳】
物件そのものの費用、仲介手数料、契約書印紙代、登録免許税、不動産取得税、造成費用、 立ち退き費用、建築した場合の建築費ほか

さらに「購入した時に支払った費用」とは別に「今回売却するに当たり支払った費用」も売却代金から控除することができます。これを譲渡費用と呼びます

譲渡費用の内訳は取得費とほぼ同じです。

3.ケーススタディ~不動産売却の際の譲渡所得税

ケーススタディ

AはBに土地を売却した。
Aが購入した時は2000万円だったが、
地価が上昇し、3000万円で売れた。
Aは購入に際して、登記費用、仲介手数料として30万円を負担していた。
さらに今回の売却で建物解体費用として100万円を負担している。

4.解説~不動産売却の際の譲渡所得税

この場合、譲渡所得税の計算は次の通りです。

3000万円(売却代金)
-2000万円(購入代金)
-30万円(取得費)
-100万円(譲渡費用)
=870万円(課税所得)

870万円×39%=339万円

前回の事例では、

3000万円×39%=1170万円

だったため、譲渡所得税がかなり下がったのが分かります。

しかしそれでもこの譲渡所得税は、

「他の収入状態にかかわりなく一律に課税」

されるため、重いと感じます。

そこで、所得税法ではその他もろもろの特例を認めて、税額を抑えることができるようになっているのです。

■不動産売却の際の居住用不動産の3000万円控除

1.居住用不動産の3000万円控除とは?

「自分が今住んでいる家を売る」
「住まなくなって3年以内に売る」

色々な事情があると思います。

しかし投資用不動産を売るのではなく、自宅(元自宅も)を売るというのは、生活的に困窮しているか、新たな自宅を購入するか、いずれにしても多額の資金が必要となる局面でしょう。

そのような事情を背景に、一定の条件の下で、

「譲渡益が3000万円未満だったら、譲渡所得税をかけませんよ」

というありがたい制度があります。
それが「居住用財産の3000万円控除」です。

2.居住用不動産3000万円控除 条件

①一定範囲の親族への売却は対象外
②自分が株主として関与する法人等(同族会社)への売却は対象外
③前年、前々年に同一制度の適用を受けている場合は対象外
④住宅ローン控除との併用は不可

3.ケーススタディ~居住用不動産3000万円控除

ケーススタディ

AはBに土地を売却した。
Aが購入した時は2000万円だったが、
地価が上昇し、3000万円で売れた。
Aは購入に際して、登記費用、仲介手数料として30万円を負担していた。
さらに今回の売却で建物解体費用として100万円を負担している。

4.ケーススタディ~居住用不動産3000万円控除

この場合、譲渡所得税の計算は次の通りです。

3000万円(売却代金)
-2000万円(購入代金)
-30万円(取得費)
-100万円(譲渡費用)
-3000万円(居住用財産の特例)
=0円(課税所得)

※そもそも取得費、譲渡費用を考慮せずとも課税所得は0円になります。

通常の売却はこの制度適用で譲渡所得税が発生しない結果となります。

以下その他の特例制度を簡単にご紹介します。

■その他 不動産を売却した場合の譲渡所得税の特例

1.長期保有した不動産についての税率

「不動産を5年を超えて保有した」

つまり、短期投資の目的ではなく、長期で保有した事に対する恩恵で、譲渡所得税率が下がる制度があります。

保有期間税率(所得税+住民税)
5年超(長期譲渡所得)20%
5年未満(短期譲渡所得)39%

2.さらに長く保有した不動産についての税率

「不動産を10年を超えて保有した」

さらに長期にわたり保有した場合には次の特例があります。

譲渡益税率(所得税+住民税)
6000万円以下の部分14%
6000万円を超える部分20%

3.買替え特例

「買替え特例」はここまでご説明した制度と異なり、

「とりあえず所得税・住民税を0にする」

という制度です。
「とりあえず」という点がミソです。

つまり、
「一定の条件に合致する不動産を売って、新しく買う場合、売却で得たお金は新しい不動産の購入資金に費やされ、もはや手元にないでしょう?」

という事が前提になる制度です。

条件に合致した場合、取りあえず所得税の課税を延期します。

そして「新しく購入した不動産を、また売却するとき」に改めて課税がなされるという仕組みです。(単に課税の繰り延べをしただけです)

■相続不動産を売却した時の特例

1.ケーススタディ~相続不動産を売却した時の特例

ケーススタディ

Aは甲土地建物を2000万円で購入した。
取得費として100万円を負担した。
Aが死亡し、Bが甲土地建物を単独相続した。
Bはすでに自宅を保有していたため、甲土地建物を3000万円で売却した。

2.解説~相続不動産を売却した時の特例

さてこのケースでBの譲渡所得税は

3000万円(売却収入) - 0円(購入費・取得費)
=3000万円(課税所得)

で計算されるように見えます。

しかし、相続不動産の特例で、「被相続人であるAの購入費、取得費」の合計2100万円を引き継ぐことができるのです。

結果として次のように計算します。

3000万円(売却収入) - 2100万円(購入費・取得費)
=900万円(課税所得)

さらにBが相続税を納めていた場合には、一定金額の相続税も「取得費」として売却収入から控除することができます。

ここで得た課税所得に、すでに説明した各種特例制度を適用し、最終的な譲渡所得税を計算します。

3.ケーススタディ~取得費が分からない場合の特例

ケーススタディ

Aが死亡し、Bが甲土地建物を単独相続した。
Aが甲土地建物を購入した時の費用は調べても分からない。
Bは自宅をすでに保有していたため、甲土地建物を3000万円で売却した。

4.解説~取得費が分からない場合の特例

ありそうな事例です。

このような場合、「3000万円に課税してしまうのは酷」であるため、一定の取得費を「みなし計算」する特例があります。

取得費が不明な場合、収入(売却)金額の5%を取得費とみなします。

3000万円×5%=150万円
課税所得2850万円

無いよりまし、というレベルですね。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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