介護障害福祉事業を開業する方向けの相続遺産分割講座⑦|債権者は遺産分割協議に参加できるか

債権者は遺産分割協議に参加できるか

■債権者は遺産分割協議に参加できるか

1.相続における権利は固有のもの

相続はあくまでも「相続人固有の身分」による権利です。

そのため、いくら相続人に対して債権者(貸付などを持っている人)がいても、その債権者が相続人に代わって、自動的に遺産分割協議に参加することはできません。

2.ケーススタディ~債権者の遺産分割協議への参加

ケーススタディ

Aの相続人はBC(ともに子)である。
BはXから300万円を借りている。
Aが死亡した。

3.解説~債権者の遺産分割協議への参加

このケースでは、Xが遺産分割協議に、「Bの代わりに」参加することはできません。

民法に次のような規定があります。

民法260条 (一部意訳)
①共有者(ここでは相続人)の債権者は自己の費用で、分割に参加することができる。
②参加請求があった債権者を除外して分割しても、債権者は保護される。

少しニュアンスが分かりにくいですが、

「自動的に相続人の代わりに参加する権利が与えられるのではなく、参加請求することで初めて参加することができる」

という趣旨です。

では、相続人としては

「相続人の債権者に気付かれないうちに遺産分割協議を終えよう」

と考えてよいものかどうか。

■詐害行為取消権と遺産分割協議

1.ケーススタディ~詐害行為取消権と遺産分割協議

ケーススタディ

Aの相続人はBC(ともに子)である。
BはXから3000万円借りているが、遅延が続いたため
一括で返済しなければならない状態となった。
遺産は土地建物5000万円、現金500万円のみである。

2.解説~詐害行為取消権と遺産分割協議

ここで、Bの債権者であるXの心境としては、
「Bが少なくとも土地の1/2の相続すれば、それを売却させたり 抵当権を設定することで自分の貸付金の一部が回収できる」

と考えます。

しかしBCとしては、

「先祖代々受け継がれてきた土地建物を、他人のものにしたくない」

と考えます。

そこでBCが遺産分割協議で

「土地建物はCが相続、Bは現金500万円を相続」

と決定したとしましょう。

このBCの間の遺産分割協議は、

「債権者を害することを目的とした行為」

として、詐害行為取消権の対象となります。(民法424条)

3.遺産分割協議で詐害行為取消権は成立するか

ここで問題となるのが、民法424条2項。

「詐害行為取消権は財産権のみを対象とする」です。

遺産分割協議が「身分行為」であるなら、詐害行為取消権は対象とならないわけです。

判例は次のように示しています。

「相続の場において、身分行為と言えるのは、相続するかしないか(相続放棄等)まで。相続放棄がなされない場合、以後は財産行為となる。よって、遺産分割協議は財産行為であり、詐害行為取消権の対象となる」 (最2判平11.6.11)

4.遺産分割協議と詐害行為取消権の結論

相続人が借金などを負っている場合、その債権者は当然には遺産分割協議に参加することはできないが、次の点にご注意ください。

①債権者が相続の事実を知った時、遺産分割協議に参加をすることができる

②債権者が遺産分割協議に参加できなくても、後から詐害行為取消権で取り消しを求めることができる。

だれかを欺く目的で分割方法を考えても、効果がないという事です。

【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
※ご契約がない段階での記事に関するご質問には応対できかねます。
 ご了承お願い致します。

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)0120-60-60-60 
     06-7739-2538