介護障害福祉事業を開業する方向けの相続遺産分割講座①|登記の仕組みと公示力・公信力

介護事業者が知っておきたい「登記の仕組みと公示力・公信力」

■所有権と公示の関係

1.所有権の証明

リサイクルショップが流行っています。

いらなくなった本、DVD、家電製品。
ありとあらゆるものを「買取り」してくれます。

私が腕時計をリサイクルショップに持って行ったとします。

リサイクルショップの店員さんは、私が身に付けている腕時計を見て、

「その腕時計があなたの物であることを証明してください」

とは言いませんね。

2.どうやって所有権を証明する?

腕時計には、その所有者を証明する制度がないわけです。
(高価な腕時計には認定証がありますが、現在の真の所有者を証明することにはなりません)

法律の世界では、物の売買とそれに伴う所有権の移転は、

「意思表示だけ」で成立します。(民法176条)

しかし、それではお互い「言った・言わない」のトラブルが発生するため、契約書が作成されています。

特に消費者と事業者の契約には、「消費者契約法」・「特定商取引法」などの特別法により、契約書の作成が義務付けられています。

しかし取引における「意思表示」や「契約書」は、「売買の当事者間」の問題であるため、外部の第三者からは見えません。

部外者(今回のケースではリサイクルショップの店員さん)にとっては、目の前の人がどのような経緯で腕時計を得たのか、また本当の所有者なのかどうか分かりません。

そこで民法が考え出したのが、

「公示」

という制度です。

3.公示制度とは?

一言で言えば、

「当事者間では分かるが、部外者にはだれが所有者か分からないから、みんなに示してください」

という仕組みです。

動産(不動産以外と考えてください)の場合、「今持っていること」が「公示」です。

不動産の場合、「登記」が「公示」です。

■登記の公示力と公信力

1.登記に公信力はない

ほっとしました。
「だれが所有者か」は、

動産の場合、持っていること。
不動産の場合、登記。

「これを信じて取引をすればよいのか」

と考えてしまいますが、ここが大きな誤解なのです。

「公示を信じて取引してよいか」

つまり、「公示が本当の所有者であることの保証をする」という事を、

「公信」と言います。そして、

「動産の公示(持っていること)」には公信力がある(信じたものは救われる)
「不動産の公示(登記)」には公信力がない(信じたものは救われない)

のです。

2.では登記官・法務局の仕事は何なのか?

「不動産の公示(登記)に公信力なし(信じたものは救われない)」

なぜでしょう?

法務局(かつては登記所と呼んでいました)には、登記官がいます。
登記されている情報は、謄本(登記事項証明書)として発行されます。

登記官の仕事は要するに、

「申請された所有権移転登記は、書類上は問題なく整っているので移転登記をします」

という事に過ぎないのです。

3.そもそも登記の実態調査など不可能

毎日大量に申請される登記について、登記官が一つ一つ申請者の背景や、取引の状況を調査することが不可能なため、「書類審査」だけになるわけです。

「詐欺や脅迫によって取引が成立した」等の情報は、一切考慮できていないのです。

この審査によって謄本(登記事項証明書)が作成されますが、謄本も「○月○日に売買があり、所有者が××に移った(らしい)が、これを信じても保護はされませんよ」

と言っているのと同じです。

■登記の本来の目的とは何か?

1.登記の本来の目的は何なのか?

登記官、謄本(登記事項証明書)の意味については理解できましたね。

では「登記」は何のためにするのでしょう?
「・・・・の状況では、登記をしたもの勝ち」 という特定の状況があるのです。

つまり、

同じ土俵の2人が、ある不動産の所有権を争ったとき、登記をしたものが勝ち。

これこそが登記の生命線とも言えるのです。

2.権利書とは何か?

権利書の意味にも誤解があります。

権利書はあくまでも、

「権利書を持っている人」=「登記申請できる人」
の推定に過ぎず、

「権利書を持っている人」=「真の所有者」
ではないのです。

近頃導入された、「権利書」に代わる「登記識別情報(パスワード)」についても、

「登記識別情報(パスワード)を知っている人」=「登記申請できる人」
であり、

「登記識別情報(パスワード)を知っている人」=「真の所有者」
ではないのです。

相続の基礎知識として、まずこれら「登記」の知識を理解しておきましょう。