③老いと死の不安を解消する6つの支援制度
ここでは高齢者を取り巻くさまざまな生活上の問題点を取り上げ、法的サポートの観点から検討してみます。
■老いと死の不安を解消する6つの支援制度
1.少しずつ低下する判断能力の監視「見守り契約」
見守り契約は、本人を定期的に訪問したり電話でやり取りすることで、「判断能力の状態」や「生活の様子」を確認する仕組みです。
見守り契約を単独で契約するだけでも、「健康状態は大丈夫か?」、「詐欺にあっていないか?」などの監視サポートをすることは可能ですが、最大の効果を発揮するのは任意後見契約との関係です。
4で説明する任意後見契約は認知症などで判断能力が低下したときの財産管理等を、自分の信頼できる人に任せる契約です。しかし任意後見契約は「契約」してから「発動」するまでに空白の期間が存在します。
つまり、任意後見契約を締結した時点では判断能力が十分あったとしても、その後徐々に認知症などが進み判断能力が低下。その判断能力の低下期間を見過ごしてしまい、本人が詐欺や悪質商法に引っかかっては元も子もないのです。
そこで、任意後見人に就任してくれた人に、同時に「見守り契約」を依頼し、判断能力の低下の状況を随時「見守ってもらう」わけです。見守り契約は民法の準委任契約に基づく契約です。
2.任意後見開始前の財産管理サポート「財産管理契約」
財産管理契約も見守り契約と類似しています。任意後見契約を締結しても、「契約」から「発動」までの移行段階では、徐々に判断能力が低下する場合がほとんどです。
その移行期の「財産管理のトラブル」に備えて、任意後見人等に財産の管理を事前に委ねておきます。預貯金の引き出しや投資不動産の家賃収入管理などを契約に基づいて委任する仕組みです。
財産管理契約についての詳細はこちらをご覧ください。
3.判断能力が不十分な人の日常生活をサポート「日常生活自立支援事業」
日常生活自立支援事業は、1「見守り契約」、2「財産管理契約」とは多少意味合いが異なります。
地域の社会福祉協議会が行う福祉サービスです。日常生活に必要な最低限の預金の引き出しや福祉サービスの利用の支援を受けることができます。
実施主体が社会福祉協議会であることから、任意後見契約とは別の意味合いを持ちます。しかし事実上の「見守り契約」が含まれているため、「判断能力の低下状態」、「健康状態」、「生活の安全」については監視サポートを受けることができます。
日常生活自立支援事業についての詳細はこちらをご覧ください。
4.認知発症に備える「任意後見契約」
任意後見契約は認知症などで判断能力が低下したときの財産管理等を、正常な判断ができるうちに、自分の信頼できる人に任せる契約です。
任意後見契約の発動後は、任意後見人の行動は裁判所が選任する「任意後見監督人」によって監視されます。
任意後見制度についての詳細はこちらをご覧ください。
5.死後の遺族の遺産争いを防ぐ「遺言」
遺言は主に、死後の遺族の不要な遺産相続争いを避けるために、相続分の指定等を書き記す法的書面です。
相続分の指定のほかにも、認知・信託・親族の後見人の指定などを行うことができます。
6.遺言では効力が生じない事を別契約する「死後事務委任契約」
葬儀や死後の行政手続き、関係者への死亡の通知。本来は遺族が行うべきことを、特定の人(遺族を含む)に委任する契約です。
遺言で書くこともできますが、強制力をもちません。したがって葬儀や死後の行政手続き、関係者への死亡の通知などは、遺言とは別にしたためます。それが「死後事務委任契約」です。
このように、「老い」・「死亡」に対する不安を解消するための法的な仕組みが整備されています。制度を駆使して不安を解消し、安心安全な老後生活を送りましょう。
■労務専門コラム 認知症・成年後見編
>>①基礎から学ぶ成年後見制度
>>②成年後見・保佐・補助の仕組み
>>③老いと死の不安を解消する6つの支援制度
>>④基礎から学ぶ任意後見制度
>>⑤財産管理契約・日常生活自立支援・死後事務契約
>>⑥悪質商法・詐欺商法から高齢者を守る
>>⑦認知症と不動産売却・遺産分割(相続)
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