介護障害福祉事業を開業する方向けの遺言講座④|遺言執行者についての基礎知識

遺言執行者とは?遺言執行者についての基礎知識

■遺言執行者とは?

1.遺言執行者はどんな仕事をするの?

自分の死後の財産処分や身分上の判断(子の認知)を実現することができる遺言。

公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言それぞれに効力の差はありませんが、そもそも遺言自体には2つのハードルがあります。

1つ目は有効性の問題です。

この点、公正証書遺言ではその作成過程が厳密に定められているため、「本人の遺言かどうか」の疑いはありません。

秘密証書遺言と自筆証書遺言は、遺言内容を遺言者が一人で作成する場合があるため、「本人の遺言かどうか」の問題と「法的に有効かどうか」の問題が残ります。

この点は、遺言の専門家である司法書士・行政書士などに作成の支援を依頼することで解決できます。

2つ目は遺言がその通り実行されるかどうかの問題です。

財産を受け取る受遺者や法定相続人の合意のもと、遺言内容とは異なる遺産分割をしたとしても、罰則はありません。

しかしその「合意」が表面上のものであり、一部の関係者が渋々合意せざるを得ないような場合も存在するでしょう。

そのような事態を避けるために、「遺言執行者」の制度があるのです。

遺言執行者はまさに、「遺言の内容を実現する」のが仕事なのです。

2.遺言執行者の指定方法は?

遺言執行者の指定は「遺言によってのみ」行う事ができます。

契約書や内容証明で遺言執行者を指定しても効力はありません。

遺言執行者は未成年者、破産者以外は誰でもなることができます。

一般的には相続人、受遺者、遺言作成にかかわった司法書士・行政書士などを指定することが多いようです。

遺言によって財産を受け取る利害関係人を遺言執行者にするよりも、客観的に公平な立場で遺言執行をしてくれる司法書士・行政書士を指定した方が良いかもしれませんね。

■こんなときどうする?遺言執行者

1.遺言執行者は必ず必要?

例えば相続分の指定のように、遺言執行者が選任されていなくても、死亡と同時に自動的に効力が発生する遺言内容もあります。

つまり、「Aに3分の1、Bに3分の2」という遺言を遺した場合、遺言執行者がいなくても持ち分は確定するわけです。

一方で、遺言執行のための具体的な行動が必要な場合があります。

①子供の認知

②相続人の廃除・廃除の取消

以上に関しては、遺言執行者が遺言の内容に沿って、現実の手続きを行う必要があります。

2.遺言執行者が必要なのに指定されていない場合は?

遺言執行者が必要なのに、遺言執行者が指定されていない場合には、相続人や受遺者等の利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てます。

申立先は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。

■遺言執行者を指定する意味

1.遺言を「実現」の側面から分類

遺言を法的に有効な状態で遺すことができても、それが正しく実現されなければ意味がありません。

遺言を「実現」という側面で分類すると、次の2つに分けられます。

A.死亡日に遺言の記載内容が発効し、効力が実現するもの・・・例)遺産分割の一定期間の禁止など

B.執行して始めて遺言の記載内容が実現するもの・・・例)不動産の名義変更登記、銀行預金の引き出しなど

Bの場合のように、「執行して初めて遺言の記載内容が実現するもの」を遺言に記載する場合、遺言執行者を指定します。

以下、遺言執行者が指定されていない場合、どのような状態に陥るかを解説します。

2.遺言を書いても、直ちに不動産名義変更ができないケース

上記のBのケースをもとに、例を出して考えてみます。

「私の所有する不動産****を長男に相続させる」

・妻は既に亡く、子供は男3人
・遺言執行者の指定がされていない

この場合、たとえ法的に有効な遺言であったとしても、遺言執行者が指定されていないことで、不動産の名義変更登記には、次男・三男の実印と印鑑証明が必要です。

仮に次男・三男が異議をとなえた場合はどうなるか?

長男自らが裁判所に申し立てて手続きをするという、途方もない無駄な労力が必要です。 

3.遺言を書いても、直ちに銀行預金の引き出しができないケース

不動産の名義変更登記のときだけでなく、銀行の預金引き出しの場合も同様です。

銀行窓口での預金引き出しには、原則としては相続人全員の実印と印鑑証明が必要です。

仮に遺言があり、「次男に**銀行○○支店の預金全てを相続させる」とあったとしても、遺言執行者が指定されていなければ同様です。

つまり銀行としては、「相続人全員」または「遺言執行者」に全責任を負ってもらいたいわけです。

■遺言執行者の仕事 だれを選ぶ?

1.遺言執行者の具体的な仕事

遺言執行者の具体的な仕事は、次の通りです。

・遺言に基づく不動産名義変更の登記申請(登記義務者となり、遺言の内容を実現します)

・銀行預金の名義変更(遺言執行者自らがお金を受け取ることはありません)

・遺言で認知された子がある場合の行政手続き

・上記に伴う被相続人・相続人の戸籍簿、不動産登記簿、固定資産税評価証明書、住民除票などの収集
遺言執行者が指定されていない場合、これらの全ての手続きを相続人全員が協力して進めなければなりません。

結果として、遺言が遺されておらず、相続人が話し合いで解決しなければならないのとほとんど同じ状態に陥ります。

遺言執行者を指定するのとしないのとでは、「遺言の実現」の面で考えると雲泥の差が生じるのです。

2.誰を遺言執行者に指定するとよい?

この問題を考える場合には、2つの側面から検討しましょう。

①実際の執行手続きの難易度の面

すでにご説明したとおり、遺言の執行には「不動産登記申請の知識」、「固定資産税評価額から登録免許税を計算する知識」、「戸籍簿を収集し、読み取る知識」などが必要です。

また「住民除票とはなにか?」、「原戸籍と除籍の関係は?」などを理解している必要性があります。

もし仮にそれらの知識を多少は有していたとしても、実際に執行を行う多くの時間が必要です。
②相続人の感情面

相続人を遺言執行者に指定するのは避けたほうが良いでしょう。

その遺言を見た他の相続人が「Aがこの遺言を書かせたのでは?」との疑問が当然ながら生じるからです。

例え法定相続分に基づく均等分の相続であったとしても、

「本来は私(B)の貢献度が高いから多めにもらいたかったのに、Aが均等相続にもっていった」と要らぬ推測を生じる場合があります。

上記①②から考えると、遺言執行者は遺言作成にあたり助言を得た司法書士・行政書士を指定するのが客観的に合理的だと言えます。

司法書士・行政書士が遺言執行する場合の費用は、「遺言が残されていない場合の、通常の相続手続き費用」とほぼ同額、15万円~です。
遺言作成をする場合は、「実現」まで視野に入れて検討を行いましょう。