介護障害福祉事業を開業する方向けの相続遺産分割講座⑭|生前贈与と法定相続分(特別受益)
■相続人の1人だけが多額の援助を受けていた
1.ケーススタディ~生前贈与と相続(特別受益)
Aには相続人BC(ともに子)がある。
Bが結婚する際、Aから1000万円の援助を受けた。
Aが3000万円を残して死亡した。
2.解説~生前贈与と相続(特別受益)
さてこの事例で、
「BCの相続分を1500万円ずつとして公平か」
という問題が生じます。
実際の相続では非常に多い事例です。
「兄さんは昔、○○を買ってもらった」
「姉さんは昔、××を援助してもらった」
被相続人からの生前贈与を、遺産分割の際に加味しないと相続人間に不公平が生じる場合があります。
3.生前贈与と相続(特別受益)についての民法の規定
そこで民法903条では次のように規定しています。
①「特別受益」に該当する生前贈与を、相続財産に加える。
②「本来の相続財産」と「特別受益」の合計を「みなし相続財産」とする。
③みなし相続財産をもとに、各人の相続分を計算する。
(相続税の計算上も生前贈与が課税対象となりますが、定義が若干異なります)
4.生前贈与と相続(特別受益)の具体的計算
事例の計算は次のようになります。
本来の相続財産(3000万円)+Bの特別受益(1000万円) =みなし相続財産(4000万円)
Bの相続分 4000万円×1/2-1000万円(生前贈与分)=1000万円
Cの相続分 4000万円×1/2=2000万円
■どんな援助が「特別受益」に当たるか?
1.特別受益の認定は、遺産分割協議で
特別受益にあたるかどうかは、全相続人の協議つまり遺産分割協議で決定します。
この協議が整わない場合、審判等で決定します。
ちなみに、「この生前贈与は特別受益にあたるかどうか」というピンポイントの審判、訴訟は受け付けてくれません。(最1判平12.2.24)
審判はあくまでも「相続財産全体についての紛争案件」として争うという趣旨です。
2.民法で見る特別受益
民法903条に一応の例示がありますのでご紹介します。
①遺贈(遺言による贈与)
②婚姻のための贈与
③養子縁組のための贈与
④生計資本のための贈与(つまり広い意味でのその他贈与)
④については、被相続人と相続人の関係や資産状況などにより判断する必要があります。
つまり、単に親として子の扶養義務を果たしたもの(特別受益ではない)か、
またはそれを超えるレベルのもの(特別受益に該当)かということです。
■生命保険金と特別受益
1.高額な死亡保険金が特別受益の対象になることも
生命保険金は原則として相続財産とはなりません。
つまり生命保険は受取人固有の権利ですので、分割の対象とならないという意味です。
では生命保険金は法定相続分に影響させることは常にないのか?
つまり「絶対的に特別受益に該当しないのか?」という問題が生じます。
2.最高裁判例で見る生命保険金と特別受益
最高裁判例では
「保険金の額、遺産総額に対する比率、生前の被相続人との関係性などを総合判断し、特別受益とする可能性がある」(最決平16.10.29)
としています。
つまり、ほとんど財産を残さなかった被相続人が、唯一死亡保険金により高額な保険金を「特定の相続人」に受け取らせた場合には、特別受益として分割する余地がある、という意味です。
■代襲相続と特別受益
1.代襲相続人と特別受益の関係
「特別受益」として相続財産のテーブルに乗る贈与は、原則として「相続人に対するもの」に限ります。
相続人以外に生前贈与しても、それは相続人の権利とは無縁のものだからです。
では代襲相続の場合はどう考えるのでしょうか。
2.ケーススタディ~代襲相続人と特別受益の関係
Aには相続人BCD(ともに子)がある。
Bには子Eがある。
Bが死亡し、次にAが死亡した。
3.解説~代襲相続人と特別受益の関係
Aよりも先に相続人であるBが死亡している場合、Bの子Eが代わりに相続します。
このことを代襲相続と呼びます。
さてこのケースでさらに2つのパターンを検討します。
4.AからBに生前贈与がある場合
この場合、Bの生前贈与が特別受益に認定され、子であるEが実際に受け取る相続財産から控除されます。
Bが生きていたなら受け取る相続財産 < Eが代襲することによる相続財産
とするとおかしいからです。
5.AからEに生前贈与がある場合
このケースは、さらに2つのパターンに分ける必要があります。
①Eへの生前贈与がBの死亡前 → 特別受益にならない
「生前贈与の時点ではEは相続人ではない」というのがその理由です。
②Eへの生前贈与がBの死亡後 → 特別受益になる
「生前贈与の時点でEは代襲相続人である」というのがその理由です。
■10年前に贈与された土地の評価額は?
1.生前贈与(特別受益)の計算方法
では具体的に、
「特別受益」を「元々の相続財産」に加算する方法をご説明します。
例えば被相続人の死亡の1週間前、相続人の1人に500万円の贈与をしたとします。
弟「兄さん、いくらもらったの?」
兄「500万円。」
弟「じゃ、特別受益として最終財産に500万円を加算しよう。」
で問題ありません。貨幣価値が1週間で増減することはまずありませんから。
2.10年前に贈与された土地の評価額は?
これに対して、
「10年前に1000万相当の土地の贈与を受けた」
場合は話が別です。
土地の価格(地価)は毎年変動するためです。
弟「兄さんがもらった土地、いくらだったの?」
兄「当時1000万。」
弟「違うよ、今の価値なら2000万はするよ。
だから特別受益を2000万円として、最終財産に加算しよう。」
となります。
つまり、贈与財産は相続開始時点(被相続人死亡時)の価値に直す必要があるのです。
(民法904条)
■法定相続分以上に生前贈与を受けた場合の返還義務
1.ケーススタディ~法定相続分を超える生前贈与を受けた
Aには相続人BC(ともに子)がある。
Bが結婚する際、Aから1000万円の援助を受けた。
Aが500万円を残して死亡した。
2.解説~法定相続分を超える生前贈与を受けた
さてこのケースで、1000万円を特別受益とすると、
500万円(元々の相続財産)+1000万円(特別受益) =1500万円(みなし相続財産)
Bの相続分=1500万円×1/2-1000万円=-250万円
Cの相続分=1500万円×1/2=750万円
となります。
しかし相続財産は500万円しかない。
この場合、BはCに250万円支払う義務があるのかどうかが問題となります。
3.民法で見る法定相続分を超える生前贈与
条文の規定では
民法903条2項「Bがもらいすぎの時は、0とする(マイナス分の返還の規定なし)」
結果的には次のようになります。
Bの相続分=0円(これとは別に特別受益1000万円)
Cの相続分=500万円
BにはCに不足分を支払う義務はありません。
【この記事の執筆・監修者】
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ご了承お願い致します。
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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