介護障害福祉事業の【実地指導・監査・集団指導】その違いと内容は?どのような点を調査されるのかを解説

実地指導(介護)
井ノ上剛(社労士・行政書士)

もうあなたの事業所には行政庁からの「実地指導」はありましたか?介護障害福祉事業の実地指導では、事業所の人員基準、設備基準、報酬請求の妥当性など多面的に調査確認が行われます。実地指導の通知が来てから対策を講じたのでは遅いため、日ごろの業務運営の中で適正な状態を確保するよう努めましょう。

このコラムの推奨対象者

・まだ実地指導を受けた経験のない人
・実地指導と集団指導、監査の違いを知りたい人
・どのような項目が実地指導で確認されるか知りたい人

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。人員基準、設備基準はもとより、介護障害福祉事業については全面的に調査研究しているため、どうぞ安心してお読みください。

介護・障害福祉事業の実地指導とは?

介護・障害福祉事業は言うまでもなく自治体の指定事業です。指定権者である自治体は、新規指定から1年以内に実地指導を行い、以後は指定有効期間(6年)のうちに、実地指導を行う事を原則としています。

年間実施率が10~20%であることを考えると「概ね6年の有効期間内に実地指導が行われる」と考えると良いと思います。

実地指導で何らかの違法状態が確認されると、事業主はその違法状態の改善についての報告を求められ、場合によっては指定効力の停止(営業停止)、最悪の場合は指定取消の処分を受けます。

仮に指定取消処分を受けると、その法人が営業する同種の介護・障害福祉サービスは連座制を受け、同時に指定取消となるだけでなく、法人役員は5年間、新規開業が出来ません。実地指導とはそのように重大なものなのなのです。

集団指導、実地指導、監査の違い

ひとことで実地指導と言っても、正確には3種類に分かれています。ここではその3種類について、詳しく理解していきましょう。

集団指導

都道府県や市町村が主催し、会場を設けて各事業所から管理者等に出席を求める、集団型の指導説明です。

集団指導では主に制度説明を中心とした基本知識の理解を求めます。

実地指導

このコラムで解説している指導方法です。指導員が事業所に赴き、現地で資料調査および関係者からのヒアリングを中心に進めます。事前に実地指導日が通知されるのが一般的です。

利用者生命の危険に関わる法令違反や、報酬請求に不正がある場合、実地指導から次に説明する監査へ移行します。

監査

利用者生命の危険に関わる法令違反や、報酬請求に不正がある場合、監査が実施されます。監査日は通知されず、抜き打ちで実施されることもあります。監査で違反が認められた場合、指定取消を含む行政処分が行われます。

報酬の不正請求があった場合には、返還させられるだけでなく、40%の追徴金の支払い義務が発生する場合もあります。

人員基準/タイムカード、勤務表、サービス提供記録

実地指導で最も留意しなければならないのは人員基準です。介護・障害福祉事業の場合、全ての指定に人員基準が設けられています。必要な資格を保有してかどうかの確認はもちろんの事、常勤換算で人員基準を満たしているかどうかの確認も重要です。この場合の「常勤」とは就業規則で定める事になります。

一般的な法人の場合、所定労働時間は週40時間で定められていますが、小規模な介護・障害福祉事業の場合、最大で44時間まで所定労働時間を延ばす事ができます。所定労働時間の下限は労働基準法には定めがありませんが、介護・障害福祉事業の制度下では、下限32時間とされています。

そのため、就業規則で週の所定労働時間を32時間~44時間で定める事になり、定めた時間従事してはじめて常勤換算1人でカウントできるという仕組みです。

この人員基準はタイムカード、勤務表、サービス提供記録、賃金台帳等により多面的にチェックを受けるため、日頃ギリギリの人員で運営している事業の場合、多くは人員基準不備で指摘を受ける事になります。

また指定申請時に氏名を記載した者が、指定日から仕事に従事していない場合、虚偽の指定申請として指定取消となるケースもあるため、指定申請時の人員選抜はくれぐれも慎重に行いましょう。

設備基準/指定時からの変更は?

次にポイントとなるのが設備基準です。デイサービス(通所介護)や就労支援施設などの通所型の事業はもちろんのこと、訪問介護や訪問看護などの訪問型事業の場合であっても、指定時に確認を受けた事業設備の実地確認が行われます。

例えば相談室として申請した部分が、実態的には事務所として使用されている場合などは、変更届の提出漏れとして指摘を受ける事になります。

ケアプラン~個別介護計画~サービス提供記録

サービスの提供面で最も指摘を受けやすいのが、

ケアプラン → 個別介護計画 → サービス提供記録

の一連の流れです。介護・障害福祉事業の場合、報酬の大半は各自治体の公費で賄われます。本来利用者が必要としないオーバーサービスを提供し、不当な報酬を得ると返還請求の対象となります。

訪問介護事業を例にとって考えましょう。訪問介護事業のケアプランは居宅介護支援事業所のケアマネージャーが作成します。ケアプランに沿った個別介護計画を、訪問介護事業所のサービス提供責任者(サ責)が作成します。サ責が作成した個別介護計画に基づいて、実際の介護サービスを提供し、サービス提供記録として記録するのが一連の流れです。

この一連の流れが論理的につながらないと、指導対象となるため日頃から十分な注意が必要です。

また、サ責が100%現場業務に従事してしまっている場合、「サ責以外が個別介護計画を作成している」旨を指摘されるため、併せて注意しましょう。

事業所内に掲示義務のある書類

運営規定(概要版)、個人情報保護方針、重要事項説明書などの書類は事業所内に掲示義務があります。特に運営規定は複数枚に渡るため、概要版の作成と掲示に注意が必要です。

それぞれの書類がデータフォルダや机の中に保管されている状態では指摘を受けるため、必ず事業所内に掲示しましょう。

まとめ

以上の通り、介護・障害福祉事業の実地指導には多面的な観点から確認を受けます。経営者または管理者のコンプライアンス意識と、実際にそれを運用する職員の存在が不可欠となります。 実地指導の通知が来てからでは遅いため、日頃の運営体制に不安をお持ちの事業所は、是非当社にご相談下さい。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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