【役職手当】と処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算 役職手当の支給で従業員のモチベーションをアップ!

【役職手当】と処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算_役職手当の支給で従業員のモチベーションをアップ!
井ノ上剛(社労士・行政書士)

皆さんの会社では役職手当を支給していますか?今回のコラムでは管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者、生活相談員等の法定の役職、およびチーフやリーダー等の事業所独自の役職に対する役職手当を、処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算から支給する方法を解説します。

このコラムの推奨対象者

・処遇改善加算を使って役職手当の支給を行いたい
・毎年年度末に処遇改善加算の余剰があり対処に困っている
・効率よく処遇加算、特定加算、ベースアップ加算を配分したい

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年8月)現在、介護障害福祉事業の累積支援実績602社。処遇改善加算制度に精通しているため、一般の社労士事務所とは異なるアプローチで御社の人事労務分野をサポートすることが可能です。

同じ内容を動画でも解説しています。

コラムで用いる表現の略称

初めに言葉の定義からご説明します。コラムでは処遇改善加算のことを処遇加算、特定処遇改善加算のことを特定加算、ベースアップ等支援加算のことをベア加算とそれぞれ略称を用い、それらを総称する場合は「3つの処遇加算」と呼ぶことにします。

またサービス管理責任者のことをサビ管、児童発達支援管理責任者のことを児発管、サービス提供責任者のことをサ責と呼ぶことにします。

結論から申しますと、役職手当をこれら3つの処遇加算から支給することができます。厚生労働省の通達において3つの処遇加算をどのような手当項目で支給するかは「各事業所で定める」とされているためです。

賃金規程を再検討し、役職手当を3つの処遇加算から支給することにより、事業所独自の賃金負担を最小限に抑えつつ、役職者のモチベーションをアップさせ、事業所のサービス提供水準の向上を目指すことが出来ます。

是非、このコラムの説明を正確に理解し、役職手当を3つの処遇加算から支給する方法をマスターして下さい。

役職の分類

役職手当を検討する前に、それぞれの役職手当が3つの処遇加算のどこから支出可能かを整理する必要があります。

職種 処遇加算   特定加算・ベア加算
介護福祉職員 その他の職種
①介護職員、職業指導員、就労支援員、児童指導員、保育士、生活支援員、世話人、サ責 ×
管理者、生活相談員、看護師、機能訓練指導員、相談支援専門員、運転手、栄養士、調理担当職員、事務職員、管理者 × ×
サビ管、児発管、心理指導担当職員 × ×

まずはサ責です。サ責に対する役職手当は、3つの処遇加算全てから「介護福祉職員」として支出することができます。「サ責は介護職員の中から選任する」とされているためです。

続いて管理者、生活相談員です。管理者、生活相談員に対する役職手当は原則として、特定加算・ベア加算の「その他の職種」枠から支出することになります。管理者、生活相談員は職種区分上、介護福祉職員に該当しないためです。

一方、管理者、生活相談員が①の職種を兼務する場合は介護福祉職員とみなすことができ、介護福祉職員として勤務する部分に対して処遇加算からの支出も可能ですが、役職に対する手当に関しては、やはり「その他の職種」枠から支出するのが妥当だと言えるでしょう。

最後にサビ管、児発管です。サビ管、児発管に対する役職手当は特定加算・ベア加算の「介護福祉職員」枠から支出することになります。

一方、サビ管、児発管を人員基準以上の配置を行った上で、①の職種を兼務する場合、その勤務部分については処遇加算からの支出も可能ですが、役職に対する手当に関しては、やはり特定加算、ベア加算の「介護福祉職員」枠から支出するのが妥当だと言えるでしょう。

具体的な制度設計の方法

続いて具体的な制度設計の方法について、訪問介護、通所介護、通所型障害福祉事業の3つに分類して、説明します。

等級 想定役職 基本給 処遇加算手当 特定加算手当 ベア加算手当 合計
5 管理者 260,000 40,000 30,000 20,000 350,000
4 サ責 240,000 35,000 25,000 15,000 315,000
3 チーフ 220,000 30,000 20,000 10,000 280,000
2 リーダー 200,000 25,000 15,000 5,000 245,000
1 一般 180,000 20,000 10,000 0 210,000

まずは訪問介護からです。分かりやすく説明するために、等級を5つに分類しています。実際には各等級内に細かい昇給段階を設けますが、ここでは省略しています。

また「想定役職」とあるのは、これから説明する役職手当との関係において、その等級にいる従業員が必ずしもその役職に就任するのではなく、例えば「5等級の従業員の中から管理者を選任する」という意味になります。

つまり「管理者に選任されない5等級職員も存在する」という趣旨です。このように設計することで「役職者としては適任ではないけれども、昇給はさせたい」というケースにも対処することができます。

この上で次の通り役職手当を設計します。

  処遇加算 特定加算 ベア加算 合計
介護福祉
職員
その他
の職種
介護福祉
職員
その他
の職種
管理者手当     40,000   10,000 50,000
サ責手当 15,000 10,000   5,000   30,000
チーフ手当 5,000 3,000   2,000   10,000
リーダー手当 3,000 1,000   1,000   5,000

管理者に対する役職手当は先に説明した通り、特定加算・ベア加算の「その他の職種」枠から支出することになります。管理者としての職務が、介護福祉職員に該当しないためです。

一方サ責以下、チーフ、リーダーに対する手当は、3つの処遇加算全てから「介護福祉職員」として支出することができます。

ここで誤認しがちなのが、「サ責手当」と「介護福祉士手当」を混同することです。サ責に就任するためには、介護福祉士または実務者研修修了資格が必要ですが、介護福祉士、実務者研修修了者に対する手当は「資格手当」に該当します。

これと同様のことが、この後説明する「生活相談員手当」や「サビ管・児発管手当」にも言えます。これらも資格手当ではなく役職手当に該当します。なお資格手当に関しては別のコラムで解説していますので、以下のリンクをご参照下さい。

補足しますが、賃金規程には「役職手当は、想定役職等級に該当する従業員のうちから、役職選任された者に対して支給する」と記載しておきましょう。先に説明した通り「役職者としては適任ではないけれども、等級はアップさせ昇給させたい」というケースに備えるためです。

続いて通所介護です。

  処遇加算 特定加算 ベア加算 合計
介護福祉
職員
その他
の職種
介護福祉
職員
その他
の職種
管理者手当     40,000   10,000 50,000
生活相談員手当     25,000   5,000 30,000
チーフ手当 5,000 3,000   2,000   10,000
リーダー手当 3,000 1,000   1,000   5,000

訪問介護との違いは1点のみ、つまり生活相談員手当の原資となる加算です。生活相談員は、通所介護事業所の利用者や家族、地域の医療機関や福祉関連施設との連携窓口となる重要な役職ですが、実際の介護サービスには従事しない職種であるため、役職手当の加算原資が特定加算、ベア加算の「その他の職種」枠からとなります。その他の考え方は訪問介護の場合と同じです。

最後に通所型障害福祉事業です。具体的には就労移行支援、就労継続支援A型B型、生活介護、共同生活援助、放課後等デイサービス、児童発達支援などが該当します。訪問介護、通所介護との相違はサビ管、児発管手当の原資となる加算のみです。

  処遇加算 特定加算 ベア加算 合計
介護福祉
職員
その他
の職種
介護福祉
職員
その他
の職種
管理者手当     40,000   10,000 50,000
サビ管・児発管手当   25,000   5,000   30,000
チーフ手当 5,000 3,000   2,000   10,000
リーダー手当 3,000 1,000   1,000   5,000

サビ管、児発管は個別支援計画の作成、本人・保護者・障害児の相談対応や従業員に対する技術指導と助言を行う重要な役職ですが、実際のサービス提供を行わない職種であるため、処遇加算を役職手当の原資とすることができず、特定加算、ベア加算の「介護福祉職員」枠からの支出となります。その他の考え方は訪問介護の場合と同じです。

このように役職手当の内訳を細分化すると、3つの処遇加算それぞれの余剰額を効率的に役職手当に充当することができます。そのために給与明細における役職手当の手当名称で処遇加算、特定加算、ベア加算の判別ができるよう表示すると実績報告書の作成が楽になります。

また役職手当を設計するためには、3つの処遇加算の年間受給額に基づき、会社全体の役職手当の支給限度額を計算しておく必要があります。このあたりの作業は当社の社労士が最も得意とする分野です。

なお、管理が煩雑に感じる場合は、例えば「役職手当は特定加算から支給する」等、一本化した方が管理が容易になるでしょう。

すでに役職手当を独自手当として支給している場合

最後に、すでに役職手当を独自手当として支給している場合を検討します。ここまで、現状役職手当を支給しておらず、新たに役職手当を設ける場合を前提に説明してきました。

すでに役職手当を会社独自の手当として支給している場合に、「今後は役職手当を処遇加算から支給する」とはできません。支給を約束している役職手当を一方的に白紙とし、3つの処遇加算に置き換えることは労働基準法および処遇加算制度に違反するためです。

この様なケースでは現在支給している役職手当を増額する場合に限り、このコラムで説明した手法を採用することが可能となります。具体的には既存の役職手当10,000円を30,000円に増額させる場合に、その差額20,000円部分を3つの処遇加算から支給するようなケースです。このような制度設計も当社の社労士が積極的にサポートしますので、お困りの際はご相談ください。

まとめ

以上が3つの処遇加算と役職手当の関係です。今回のコラムの内容を正しく理解してもらえれば、事業所独自の賃金負担を最小限に抑えつつ、従業員のモチベーションをアップさせ、事業所のサービス提供水準の向上を目指すことが出来ます。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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