【資格手当】と処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算の関係 加算を使えば効率的に資格手当を支給できる!

【資格手当】と処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算の関係 加算を使えば効率的に資格手当を支給できる!
井ノ上剛(社労士・行政書士)

皆さんの会社では資格手当を支給していますか?今回のコラムでは介護福祉士、実務者研修、初任者研修などの介護資格、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの非介護資格、社会福祉士、保育士その他の福祉資格者に対する資格手当を、処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算から支給する方法を解説します。

このコラムの推奨対象者

・処遇改善加算を使って資格手当の支給を行いたい
・毎年年度末に処遇改善加算の余剰があり対処に困っている
・効率よく処遇加算、特定加算、ベースアップ加算を配分したい

コラムの信頼性

タスクマン合同法務事務所は、介護障害福祉事業の設立と運営支援に専門特化した法務事務所です。このコラムの執筆時(令和5年8月)現在、介護障害福祉事業の累積支援実績599社。処遇改善加算制度に精通しているため、一般の社労士事務所とは異なるアプローチで御社の人事労務分野をサポートすることが可能です。

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加算の略称

初めに言葉の定義からご説明します。コラムでは処遇改善加算のことを処遇加算、特定処遇改善加算のことを特定加算、ベースアップ等支援加算のことをベア加算と、それぞれ略称を用います。またそれらを総称する場合は「3つの処遇加算」と呼ぶことにします。

結論から申しますと、資格手当をそれら3つの処遇加算から支給することができます。厚生労働省の通達において3つの処遇加算をどのような手当項目で支給するかは「各事業所で定める」とされているためです。

賃金規程を再検討し、資格手当を3つの処遇加算から支給することにより、事業所独自の賃金負担を最小限に抑えつつ、従業員の資格取得意欲を増進させ、事業所のサービス提供水準の向上を目指すことが出来ます。

是非、このコラムの説明を正確に理解し、資格手当を3つの処遇加算から支給する方法をマスターして下さい。

資格保有状況の大分類

以下の説明では便宜上「研修修了者」等も含めて「資格」と呼ぶことにします。なおサービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者、生活相談員等は事業所における「役職名」であるため、これらの役職者に対する手当は「役職手当」に該当します。役職手当を3つの処遇加算から支給する方法は以下のコラムで解説しています。

資格の保有状況に応じて、3つに大分類することから始めます。

No. 資格の種類 具体例
職種必須 訪問介護員における初任者研修
機能訓練指導員における理学療法士
オーバーライセンス 訪問介護員における介護福祉士
無関係ライセンス 訪問介護員における理学療法士
機能訓練指導員における介護福祉士

①が一般的な資格手当です。職種に従事するために必須となる資格を保有していることに対して、資格手当を支給するという趣旨です。

②のオーバーライセンスは、具体的には訪問介護員における介護福祉士が該当します。訪問介護員は初任者研修修了者でも良く、必ずしも介護福祉士が求められるわけではないという意味でオーバーライセンスと呼ぶことにします。仮に当人が介護福祉士、実務者研修、初任者研修等の資格を保有している場合でも、最上位の資格手当のみを支給するのが一般的です。このルールを明記しておかないと、重複して資格手当を支給することになってしまうためです。

問題は③の無関係ライセンスです。具体的には訪問介護員における理学療法士、機能訓練指導員における介護福祉士等です。例えば理学療法士資格が求められるのは通所介護の機能訓練指導員等であり、訪問介護員には必要ではないという意味です。

仮に当人に介護福祉士手当と理学療法士手当を支給する場合でも、3つの処遇加算からそれぞれの資格手当を支給することができますが、デメリットとして、必須職種に従事している職員への配分額が少なくなること等が挙げられます。

一方メリットとして従業員の資格取得意欲を増進させること等が挙げられます。例えば「無関係ライセンスの場合は資格手当を50%支給する」との制度にすると、現状の従事職には不要ではあるけれども、別資格にチャレンジしようとする社風を生むことができるでしょう。事業所の人事環境に応じて制度設計すれば、従業員のモチベーションアップにも繋がります。

3つの処遇加算と資格手当の関係

続いて資格手当を処遇加算、特定加算、ベア加算のどれを原資とするのかを検討します。この検討のためには従業員をABCの3つに区分する必要があります。(A)は経験・技能ある介護福祉職員、(B)は他の介護福祉職員、(C)はその他の職種です。この区分の説明は別のコラムで詳しく解説していますのでご参照下さい。

説明の前提条件として、ある職員が介護福祉士と理学療法士の資格を保有し、勤務する会社が訪問介護と通所介護を運営。この会社では介護福祉士手当を30,000円、理学療法士手当を20,000円、無関係ライセンスの場合、資格手当を50%支給するものとします。ここで当該職員が、訪問介護事業の訪問介護員から通所介護事業の機能訓練指導員へ人事異動する場合を検討します。

従事する職種 訪問介護員 機能訓練指導員
職種区分 A・B
介護福祉士手当 処遇加算 30,000 処遇加算
特定加算 特定加算 15,000
(30,000×50%)
ベア加算 ベア加算
理学療法士手当 処遇加算 10,000
(20,000×50%)
処遇加算
特定加算 特定加算 20,000
ベア加算 ベア加算
合計支給額   40,000   35,000

多少違和感がありますが、ご覧の通り訪問介護員に処遇加算、特定加算、ベア加算から理学療法士手当を支給し、機能訓練指導員に特定加算、ベア加算から介護福祉士手当を支給することも可能です。先にご説明した無関係ライセンスに該当します。ABCグループの区分が、資格を基準とするのではなく、従事する職種を基準としているため、このような制度設計が可能となるわけです。

具体的な制度設計の方法

続いて資格手当を処遇加算、特定加算、ベア加算のどこから支給するかを検討します。内訳を検討するためには3つの処遇加算の年間受給額に基づき、会社全体の資格手当の支給限度額を計算しておく必要があります。一例として次の様に設定するものとします。

従事する職種 訪問介護員 機能訓練指導員
職種区分 A・B
介護福祉士手当 処遇加算 20,000 処遇加算
特定加算 8,000 特定加算 12,000
ベア加算 2,000 ベア加算 3,000
理学療法士手当 処遇加算 7,000 処遇加算
特定加算 2,000 特定加算 18,000
ベア加算 1,000 ベア加算 2,000
合計支給額   40,000   35,000

事例の様に資格手当の内訳を細分化すると、3つの処遇加算それぞれの余剰額を効率的に資格手当に充当することができます。そのために給与明細における手当名称を資格手当(処)、資格手当(特)、資格手当(べ)等と表示すると実績報告書の作成が楽になります。このあたりの作業は当社の社労士が最も得意とする分野です。

なお、管理が煩雑に感じる場合は、例えば「資格手当は特定加算から支給する」等、一本化した方が管理が容易になるでしょう。

従事する職種 訪問介護員 機能訓練指導員
職種区分 A・B
介護福祉士手当 処遇加算   処遇加算
特定加算 30,000 特定加算 15,000
ベア加算   ベア加算  
理学療法士手当 処遇加算   処遇加算
特定加算 10,000 特定加算 20,000
ベア加算   ベア加算  
合計支給額   40,000   35,000

すでに資格手当を独自手当として支給している場合

最後に、すでに資格手当を独自手当として支給している場合を検討します。ここまで、現状資格手当を支給しておらず、新たに資格手当を設ける場合を前提に説明してきました。

すでに資格手当を会社独自の手当として支給している場合に、「今後は資格手当を処遇加算から支給する」とはできません。支給を約束している資格手当を一方的に白紙とし、3つの処遇加算に置き換えることは労働基準法および処遇加算制度に違反するためです。

この様なケースでは現在支給している資格手当を増額する場合に限り、このコラムで説明した手法を採用することが可能となります。具体的には既存の介護福祉士手当10,000円を30,000円に増額させる場合に、その差額20,000円部分を3つの処遇加算から支給するようなケースです。このような制度設計も当社の社労士が積極的にサポートしますので、お困りの際はご相談ください。

まとめ

以上が3つの処遇加算と資格手当の関係です。今回のコラムの内容を正しく理解してもらえれば、事業所独自の賃金負担を最小限に抑えつつ、従業員の資格取得意欲を増進させ、事業所のサービス提供水準の向上を目指すことが出来ます。

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【この記事の執筆・監修者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
【記事内容自体に関するご質問には応対できかねますので、ご了承お願い致します。】

◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
奈良県橿原市議会議員
◆介護職員実務者研修修了
タスクマン合同法務事務所 代表
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