【令和6年度法改正対応】生活援助の提供条件|身体介護と生活援助、生活援助中心型の提供条件、提供拒否|訪問介護の開業講座⑤
タスクマン合同法務事務所がお送りする福祉起業塾です。近い将来、訪問介護の立ち上げを考えておられる方に向けて「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」をお届けします。第5回のテーマは「生活援助の提供条件」です。身体介護と生活援助の意義、生活援助中心型の提供条件、サービス提供を拒否する場合の条件について詳しく解説します。
このコラム推奨対象者
・身体介護と生活援助の意義を理解したい方
・生活援助中心型の提供条件を理解したい方
・サービス提供を拒否する場合の条件を理解したい方
コラムの信頼性
タスクマン合同法務事務所は社労士・行政書士・司法書士・税理士が合同し、介護保険事業・障害福祉事業に専門特化してご対応しています。このコラムの執筆日時点、職員数70名、累積顧客数は北海道から沖縄まで768社、本社を含め8つの営業拠点で運営しています。コラムでは身体介護と生活援助の意義、生活援助中心型の提供条件、サービス提供を拒否する場合の条件について詳しく解説します。
同じ内容を動画でも解説しています。
身体介護と生活援助
初めに訪問介護サービスにおける身体介護と生活援助の意義について解説します。
「身体介護」は利用者の身体に直接触れて行う入浴、排せつ、食事などの介助を指します。あくまでも介助が前提となるため、マッサージについては、たとえ専門の資格者が提供する場合であっても、身体介護に含まれる余地はありません。
「生活援助」は、調理、洗濯、掃除などの日常生活の家事援助ですが、通達では「生活援助」に含まれない例が示されています。具体的には以下の通りです。
生活援助に含まれない例
①商品の販売・農作業など、本人の生計を成り立たせるための行為
②家族のための洗濯・調理・買い物、家族の部屋の掃除・来客の応接・自動車の洗車など、直接本人の援助に該当しない行為
③草むしり・花の水やり、犬の散歩など、訪問介護員が実施しなくても日常生活に支障がない行為
④家具の移動・模様替え・家屋の修理など、日常的な家事の範囲を超える行為
「身体介護」と「生活援助」の区分については、「平成12年老計第10号通知」に具体例が示されていますが、これらはあくまでも具体例に過ぎず、市町村は一律機械的な判断をすることなく、個々の利用者の状況に応じて、「身体介護」と「生活援助」の区分判断を行う必要がある旨も、併せて示されています。
家族介護の原則と介護保険の関係
ここで家族介護の原則と介護保険の関係について、解説を加えたいと思います。
日本の介護保険制度には、「家庭内介護を優先する」との考え方が根底にあります。これは、民法第730条「直系血族及び同居の親族は、互いにたすけ合わなければならない」との規定に基づくものです。
家族が同居している場合、家庭内での支援が期待されることから、訪問介護サービスをある程度制限し、介護保険財源と人的資源の維持に繋げようというのが、介護保険制度の大前提となります。
調理、洗濯、掃除などの家事援助に代表される「生活援助」について、施行規則第5条では以下の通り制限を設けています。
施行規則 第5条 (生活援助の制限)
要介護者が単身の世帯に属するため、又はその同居している家族等の障害、疾病等のため、これらの者が自ら行うことが困難な家事であって、要介護者の日常生活上必要なものとする
そのため訪問介護で「生活援助」を提供するためには、ケアプランに「生活援助が必要な理由」を記載する必要があります。
その一方で「平成12年老企第36号通知」では、以下の解釈が示されています。
平成12年 老企第36号通知
同居家族に障害、疾病がない場合であっても、同様のやむを得ない事情により、家事が困難な場合にも、「生活援助」を提供できる
つまり、市町村は単に「同居家族がいるかどうか」、「その同居家族に障害や疾病があるかどうか」というような画一的な判断にとどまることなく、個々の利用者の状況に応じて判断すべきことが定められているわけです。
なお、訪問介護員が自らの同居家族に対して訪問介護サービスを提供することは、指定基準第25条により禁止されています。
要するに、訪問介護員が自らの同居家族に、業務として訪問介護を行う前に、民法上の同居家族としての扶助義務を果たしましょう、という趣旨です。もちろん別居家族に対する訪問介護サービスの提供は可能です。
また、同居介護員が、自らの同居家族に対して、家族としての介護を行わず、同じ事業所内の他の訪問介護員によるサービス提供をさせる場合には、それが「やむを得ない事情」に該当するか、市町村の判断が必要となります。
訪問介護の提供拒否
訪問介護事業者は、身体介護と生活援助を総合的に提供する必要があり、「偏り」があってはならない旨が定められています。(指定基準第29条の2)
ここで言う「偏り」については、特定のサービスが、サービス提供時間の大半を占めている場合に限らず、請求状況、ケアマネジャーからのヒアリング、訪問介護計画、パンフレット、広告、職員配置状況などを総合して、「偏り」の有無を市町村が判断します。
この「偏り」の問題を、訪問介護サービス拒否の観点から検討したいと思います。
訪問介護事業者は「正当な理由」なく訪問介護の提供を拒むことはできず、仮に「正当な理由」によってサービス提供ができない場合は、ケアマネジャーへの連絡や、他の訪問介護事業者の紹介を行う必要があります。(指定基準第9条、10条)
ここで言う「正当な理由」については、解釈通知に例示があるためご紹介します。
正当な理由の例(解釈通知)
①「生活援助」の依頼を断り、他の事業所を紹介する場合です。その条件として、運営規程の「提供する訪問介護の内容」に「身体介護中心型」を明示し、かつ「その他運営に関する重要事項」に「生活援助中心型」のサービスを提供する他の事業所との連携内容を明示する必要があります。
②事業所の訪問介護員の人数的な問題から、利用申し込みに応じきれない場合です。
③利用者の居住地が事業所の通常の業務範囲外である場合です。
これらによって「正当な理由」が認められる場合には、指定基準には違反しないことになります。
ケアマネジャーに対する利益供与
本編の最後に、ケアマネジャーに対する利益供与について解説します。
ケアマネジメントの公正中立性を確保する観点から、訪問介護事業者はケアマネジャーに対して、特定の事業者によるサービスを利用させることを目的として、利益供与することが禁止されています。要するに「利用者を紹介してくれたら、いくら支払う」というやりとりが禁止されているわけです。
また実際に利益供与をしなくても、利用者に必要のないサービスをケアプランに記載することを働きかける行為も禁止されています。ケアマネジャーに対してだけではなく、利用者に対して働きかける行為も同様に禁止されています。
これらの基準に違反して、実際に利益供与を行った場合、指定権者は改善命令などを行わず、即時に指定取消とすることができるため、くれぐれも注意が必要です。
まとめ
「令和6年度法改正対応、訪問介護の開業講座」、第5回では「生活援助の提供条件」をテーマに解説しました。身体介護と生活援助の意義、生活援助中心型の提供条件、サービス提供を拒否する場合の条件についてご理解頂けたかと思います。
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【この記事の執筆・監修者】
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◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士・行政書士
◆奈良県橿原市議会議員
◆介護福祉士実務者研修修了
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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