訪問看護ステーションの設立・開業前に把握しておくべき運営上の注意点

このコラムを3分読めば理解できること
・訪問看護ステーションの運営規定が理解できる
・訪問看護ステーションに課せられた責務が理解できる
・その他設立・開業前に注意しなければならない点が理解できる。
訪問看護ステーションの設立・開業を計画中の方向け、設立・開業前に把握しておくべき運営上の注意点解説コラム。このコラムでは、訪問看護ステーションの設立・開業前に把握しておくべき運営上の注意点について、介護保険の専門家が詳しく解説する。
このコラムの目次
①訪問看護ステーションの運営規定に書くこと
②掲示義務(運営規定概要、勤務体制、重要事項説明書)
③訪問看護サービスの提供拒否と拒否時の対応
④受給者証の確認、要介護認定申請・更新の援助
⑤サービス担当者会議への参加、居宅支援事業所との連携、利益提供の禁止
⑥サービスの提供記録と訪問看護報告書
⑦保険適用外サービス
⑧同居家族への訪問看護サービス提供禁止
⑨訪問看護事業者から市町村への通報義務
⑩このコラムのまとめ
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①訪問看護ステーションの運営規定に書くこと
訪問看護ステーションの指定申請書に添付が義務付けられる運営規定。ここでは訪問看護ステーションの運営規定について、必要記載項目を確認していこう。
1.事業の目的および運営の方針
御社の経営理念および訪問看護ステーションの運営方針について記載する。運営規定は利用者の目にする書類となるため、なるべく経営者の想いを分かりやすい表現で記載しよう。
2.従業者の職種、員数および職務の内容
管理者、看護師、保健師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士に区分しつつ、それぞれ常勤、非常勤での人数を記載する。
あくまでも事業開始時点の人数で良い。
3.営業日、営業時間
ここでは次の定義に注意して記載しよう。
営業日、営業時間
事務所のドアが開いている日、時間帯である。
サービス提供日、サービス提供時間
実際の訪問看護サービスを提供する日、時間帯である。24時間体制で電話対応が可能な場合は、その旨も記載しよう。
4.指定訪問看護の内容、および利用料その他の費用の額
指定訪問看護の内容
例示すると主に次のような内容となる。
・病状・障害の観察
・リハビリテーション
・ターミナルケア
・療養生活や介護方法の指導
・カテーテル等の管理
訪問看護の利用料
介護保険適用の場合は「報酬告示上の料金」と記載し、介護保険適用外の場合も、「法令基準に基づいて説明および徴収を行う」との趣旨で記載すればよい。
5.事業の実施地域
訪問看護ステーションから実際に出張訪問する地域を記載する。実施地域内での利用申し込みは、「③訪問看護サービスの提供拒否と拒否時の対応」で示す場合を除いては断ることができない。
またここで記載する「事業の実施地域」についてはあくまでも目安であるため、実施地域を超えてサービスを行う事を妨げる趣旨ではないこと、およびその場合には追加の交通費を請求することができることも理解しておこう。
6.緊急時における対応方法
訪問看護サービスの提供中に緊急事態が生じたい場合は、主治医および管理者へ即座に報告して必要な措置を講じる旨、またそれらに連絡が取れない場合は緊急搬送の手配を取る旨を記載する。
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②掲示義務(運営規定概要、勤務体制、重要事項説明書)
次に訪問看護事業者が事業所(ステーション)内に掲示しなければならない書類について確認しよう。
訪問看護事業者は、利用者、その家族または事業所で働く職員がいつでも閲覧できるよう、次の書類を掲示しておかなければならない。
ア)運営規定の概要版
イ)看護師等の従業員の勤務体制
ウ)重要事項説明書
重要事項説明書とは、ア)、イ)に加えて事故発生時の対応、苦情処理体制等、利用者がサービス選択するために必要な事項を記した書面のことを指す。
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③訪問看護サービスの提供拒否と拒否時の対応
訪問看護サービス提供の拒否
ここでは運営規定に記した訪問看護サービスについて、利用申し込みを拒否できるかどうかを確認しよう。
介護保険(医療保険)サービスは、収益の大半が公費によって賄われる公的サービスである。さらに訪問看護サービスは利用者の生命と健康に関わる、極めて重大な任務を担う。
そのため、訪問看護ステーションに利用申し込みがあった場合、事業所側に正当な理由がない限り拒否することができない。
ここで言う正当な理由とは次の3例である。
・当訪問看護ステーションの人員不足のため対処できない
・利用申し込み者の居宅が、当訪問看護ステーションの実施地域外
・技術上の問題等で適切な訪問看護サービスを提供することができない
サービス提供を拒否した場合の対応
訪問看護ステーションが上記の理由で、サービス提供を拒否する場合、利用者保護のため、断ったステーション側に次の責任が生じる。
・主治の医師および居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)へ連絡する
・適切な他の訪問看護ステーションを紹介する
このような場合に備えて、地域の同業者(訪問看護)とは良好な関係性を構築することも重要となる。
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④受給者証の確認、要介護認定申請・更新の援助
訪問看護ステーションがサービス利用の申し込みを受けた場合、次の対応をしなければならない。
1.被保険者証により被保険者資格、要介護認定の有無と有効期間を確認する
2.要介護認定の申請を行っていない利用者の場合、申請を援助する
3.要介護認定の有効期間満了が近い場合、更新手続きを援助する
要介護認定の更新は、申請から最大で30日かかるため、少なくとも有効期間の30日前には更新申請する必要がある点を理解しておこう。
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⑤サービス担当者会議への参加、居宅支援事業所との連携、利益提供の禁止
利用者が利用する介護保険サービスについて、計画を立てるのが居宅介護支援事業者(ケアマネージャー)だ。
訪問看護ステーションの看護師は、居宅介護支援事業者が主催するサービス担当者会議に参加することで、利用者の心身の状態について、医療福祉全般の関係者と情報を共有する責任を負っている。
特に居宅介護支援事業者とは、ケアプランと実際に提供する看護サービスの整合性を確認する目的で、連携を密にしなければならない。
一方で、訪問看護ステーションを含む、全ての介護サービス提供事業者は、居宅介護支援事業者に対してあらゆる利益供与が禁止されている点にも注意しよう。
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⑥サービスの提供記録と訪問看護報告書
訪問看護事業者は、サービスの提供(訪問)の都度、提供した具体的なサービス内容を記録(サービス提供記録)しなければならない。
この訪問看護サービス提供記録に基づき、定期的に主治医に提出するのが訪問看護報告書である。
訪問看護報告書には、訪問日を明らかにしたうえで、訪問看護サービス提供記録に基づき、次の事項を記載する。
・病状の経過
・看護、リハビリテーションの内容
・家庭での介護の状況
・その他特記事項
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⑦保険適用外サービス
訪問看護サービス提供に関係して、保険外のサービスを提供することについて検討してみよう。
保険外のサービスとは例えば次のようなサービスだ。
・家事代行サービス
・理美容サービス
・マッサージ
主目的はあくまでも訪問看護であるため、上記のような保険外サービス提供の糸口として訪問看護を実施することは法令で厳しく禁止されている。
保険外サービスを提供する場合には、それが保険対象外である旨、および利用料について利用者および利用者の家族に詳しく説明しなければならない。
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⑧同居家族への訪問看護サービス提供禁止
家族には相互に扶助の義務があるため、看護師自らが同居の家族に対して訪問看護サービスを提供した場合、保険算定できない。
一方で、同一の訪問看護ステーションに所属する他の看護師であれば、上記の訪問看護サービスを提供することができるため、勤務体制の計画次第では希望が叶う可能性がある。
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⑨訪問看護事業者から市町村への通報義務
訪問看護ステーションにおいては、利用者が次に該当する場合、利用者の居住する市町村に通知する義務がある。
・理由なく訪問看護師の指示に従わないことで、要介護度を悪化させる場合
・不正手段によって保険給付を受けようとする場合
公費の不正流用について、訪問看護ステーションも監視の一翼を担っていることを理解しよう。
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⑩このコラムのまとめ
以上が訪問看護ステーションの設立・開業前に把握しておくべき運営上の注意点だ。当社に訪問看護ステーションの設立・開業をご依頼の方には、運営規定の作成も当然に含めて対応しているのでご安心を。
設立前の多忙な時期に、事務作業によって時間を取られないためにも、計画段階から当事務所へご相談されることをお勧めする。
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訪問看護ステーション設立・開業前の方へ
①訪問看護とは?介護保険と医療保険の観点から
②訪問看護ステーション設立・開業に必要な人員基準
③訪問看護ステーションの事業所(事務所)要件
④訪問看護設立・開業前に把握したい運営上の注意点
⑤訪問看護の介護保険報酬1 基本報酬を中心に
⑥訪問看護の介護保険報酬2 加算を中心に
【この記事の執筆・監修者】


- (いのうえ ごう)
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◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
◆タスクマン合同法務事務所 代表
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