このコラムを読むと分かること

・2019年(令和元年10月)改正の特定処遇改善加算の概要が理解できる
・特定処遇改善加算の適用要件が理解できる
・特定処遇改善加算受給後の配分方法の仕組みが理解できる

介護(福祉)職員の賃金改善を国費補助する処遇改善加算。平成24年に交付金方式から現在の加算方式に変更された後、数度に渡り改正。このコラムでは2019年(令和元年)10月実施の特定処遇改善加算について詳しく解説する。

このコラムの目次

①特定処遇改善加算とは?制度の趣旨を一言で説明
②10年以上の介護福祉士がいなくてもOK!
③特定処遇改善加算を職員に配分する方法。対象者を理解しよう
④中小企業には嬉しい特別措置も
⑤賃金改善(配分)以外の要件
⑥適用を希望する場合2019年(令和元年)8月までに届出を
⑦特定処遇改善加算と一緒に雇用助成金の受給も
⑧特定処遇改善加算のまとめ

①特定処遇改善加算とは?制度の趣旨を一言で説明

制度の趣旨

平成31年4月12日付で厚生労働省から都道府県・市町村宛てに、「特定処遇改善加算の考え方」が通達されている。合計29枚の文書でなかなか分かりにくい。まずは制度の趣旨を一言で説明しよう。

特定処遇改善加算とは、一定キャリアの介護職員がいる場合に、現行の処遇改善加算に加えて加算が得られる制度だ。現行の処遇改善加算同様、受給額以上を対象職種に配分する必要がある。(特定処遇改善加算の受給には、現行の処遇改善加算でⅢ以上を取っている事が条件となる)

現行の処遇改善加算と大きく異なるのは、受け取る特定処遇改善加算を、その「一定キャリアの介護職員」だけでなく、その他の介護職員や事務職員にも配分できる点である。

訪問介護の場合の特定処遇改善加算率は(Ⅰ)で6.3%、(Ⅱ)で4.2%。対象事業所では有効な賃金施策となる。具体的な計算方法は以下の通り。

基本サービス費に各種加算減算(現行の処遇改善加算を除く)を加えた額 × 加算率

対象外の業種

概ね全ての介護・障害福祉事業が適用対象となるが、一例を挙げると次の事業は対象外となる。(他にも対象外はある点に注意)

・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅介護支援(ケアマネ)
・福祉用具貸与、販売

②10年以上の介護福祉士がいなくてもOK?対象者を理解しよう

勤続10年以上の介護福祉士問題について

まずは人的要件から確認する。報道でクローズアップされている要件は「10年以上の介護福祉士がいる場合」だが、これは必ずしも正確であるとは言えない。

厚労省通達のQ&Aには明確に「勤続10年以上の介護福祉士がいない場合であっても取得可能である」と記載されている。それはどういう意味か?

「勤続10年以上の介護福祉士」とはあくまでも基本的な考え方であって、例えば次のようなキャリアでも問題ない。

・複数の法人にまたがる経歴でも通算10年ならOK
・介護事業所だけでなく医療機関の経歴も含まれる
・事業所内の能力評価や等級システムによっては10年未満でもOK

つまり事業所の裁量で決めることができる!

「勤続10年以上の介護福祉士」を制度上正式には経験・技能のある介護職員と呼ぶ。この「経験・技能のある介護職員」について、厚生労働省は下記の通り例示している。

介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続10年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能などを踏まえ、各事業所の裁量で設定することとする。

キャリア10年というのはおよその目安という趣旨である。

介護福祉士の資格保有は必須か?

厚生労働省の通達内のQ&Aには、介護福祉士の資格を有する者がいない場合の措置が記載されている。

Q&Aからは介護福祉士不在でも特定処遇改善加算が取得可能なように読み取れる。しかし制度の趣旨から考えると、これはあくまでも例外中の例外であることをご認識されたい。

特定処遇改善加算(Ⅰ)にはサービス提供体制強化加算の最上位区分が必要

特定処遇改善加算には(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類がある。このうち、特定処遇改善加算(Ⅰ)の受給要件の一つに、サービス提供体制強化加算の最上位区分を取っていること、が規定されている。(この要件を介護福祉士の配置等要件と呼ぶ)

サービス提供体制強化加算とは、訪問介護事業を例にすると、「特定事業所加算の(Ⅰ)または(Ⅱ)」に当たる。さらに特定事業所加算の受給要件を簡単に説明すると以下のようになる。

特定処遇改善加算と特定事業所加算、紛らわしいが混同しないこと!

特定事業所加算(Ⅰ) 

下記のアで1つ、イで1つを同時に満たすこと

特定事業所加算(Ⅱ)

ア~イのうち、1つを満たすことと

ア-1)介護福祉士の割合が30%以上
ア-2)介護福祉士+実務者研修等を修了している職員の割合が50%以上
イ-1)全てのサービス提供責任者が実務3年以上の介護福祉士
イ-2)全てのサービス提供責任者が実務5年以上の実務者研修修了等

この要件を満たすことが出来ない場合、特定処遇改善加算(Ⅰ)は受給できないが、特定処遇改善加算(Ⅱ)は受給可能性がある。詳細は本コラム後半で解説する。

③特定処遇改善加算を職員に配分する方法。対象者を理解しよう!

配分の対象者

次のステップでは、特定処遇改善加算の配分対象者を整理する。対象は大きく分けて3種だ。

(Ⅰ)経験・技能のある介護職員(つまり先に述べた勤続10年の介護福祉士)
(Ⅱ)他の介護職員
(Ⅲ)その他の職種

これらの職員に対して、基本給、手当、賞与において配分する。なお厚生労働省の通達では、基本給での配分が望ましいとされている。

(Ⅰ)経験・技能のある介護職員への配分方法

このカテゴリーの職員1人以上に、

・現行の処遇改善とは別に、特定処遇改善加算分として月8万円以上
・特定処遇改善加算分を支給後、年収が440万円以上

どちらかを実施しなければならない。

ここで言う8万円には、事業主負担の法定福利費増加分は含めることができるが、年収440万円には法定福利費増加分を含めることができない。なお既に年収が440万円以上の職員がいる場合は、この条件は既に満たしていると判定される。

また年収の算定について、法改正初年度(2019年度)は12カ月未満となるため、「12カ月特定処遇改善加算を受けていた場合の年収」で想定することが可能である。

(Ⅱ)他の介護職員

特定処遇改善加算が従来の処遇改善加算と異なるは、配分方法の柔軟性にある。

上記の(Ⅰ)経験・技能のある介護職員への配分の2分の1未満であれば、他の介護職員に対しても特定処遇改善加算を配分することができる。

ここで比較する(Ⅰ)~(Ⅲ)の各職種への配分額については、平均値で比較する。平均値の算出には、配分を行わない者も分母に算入することに留意したい。

(Ⅲ)その他の職種

さらに介護職以外の一般事務職にも特定処遇改善加算を配分することができる。上記の(Ⅱ)他の介護職員の2分の1未満であることが要件である。ただし、

(Ⅲ)その他の職種の平均賃金<(Ⅱ)他の介護職員

となっている場合には、本項の要件は既に満たしていると判定される。

またその他の職種の職員に特定処遇改善加算を配分後、年収が440万円を上回る場合にも、対象とすることはできないことに留意しよう。

④中小企業には嬉しい特別措置も

中小企業で最もネックになるのが、

(Ⅰ)経験・技能のある介護職員1人以上に、

・現行の処遇改善とは別に、特定処遇改善加算分として月8万円以上
・特定処遇改善加算分を支給後、年収が440万円以上

どちらかを実施することだろう。しかしこれには一定の配慮措置がある。

・小規模事業所で加算額全体が少額
・職員全体の賃金水準が低く、1人だけアップするのが困難
・規程の整備などに時間がかかる

このようなケースでは、例外的に合理的な説明を付けることで、上記要件を満たさなくても良い場合がある。該当する場合には試みても良いだろう。

⑤賃金改善(配分)以外の要件

特定事業所加算の主な要件は先に述べた通りだが、この他にも3つ要件があるので確認しておきたい。

現行加算要件

現行の処遇改善加算のⅠ~Ⅲいずれかを取得していること。特定処遇改善加算と同時に取得することも可能なので、まだ取得していない場合は今すぐ準備を始めよう。

職場環境要件

「資質の向上」、「労働環境処遇の改善」、「その他」の3カテゴリーからそれぞれ1つ以上の取組を行う必要がある。

現行処遇改善加算を得る際に既に実施している取組と重複してもよい。詳細はここでは省略する。

見える化要件(2020年4月から実施)

特定処遇改善加算に基づく取り組みを、

・介護サービス情報公表制度(http://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/
・自社のホームページ

いずれかで公表していること。公表相手には当然ながら事業所職員も含まれる。

特定処遇改善加算ではすべての要件を満たせば特定加算(Ⅰ)を、「介護福祉士の配置等要件」以外を満たせば特定加算(Ⅱ)を受給することができる。「介護福祉士の配置等要件」とは、先に説明した「特定事業所加算(Ⅰ)または(Ⅱ)を取っていること」を指す。

なお、当然のこととして労働基準法の遵守義務も併せて課せられているため、適切な労務管理が必要となることは言うまでもない。

⑥適用を希望する場合2019年(令和元年)8月までに届出を

特定処遇改善加算を受給するためには、毎年2月末日までに改善計画書を提出する必要があるが、法改正初年度となる2019年(令和元年)10月から受給を希望する場合、8月31日までに提出が必要だ。それ以後は、加算を得たい月の前々月末日が提出期限となる。

なお、実績報告書は最終加算の支払いがあった月の翌々月の末日が期限。通常は毎年7月31日となる点にも留意したい。

⑦特定処遇改善加算と一緒に雇用助成金の受給も

特定処遇改善加算 と並行して、雇用保険を財源とした「人材確保等支援助成金」の受給が可能となる場合がある。

「人材確保等支援助成金(介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)」とは介護労働者が職場に定着し、長く働ける環境づくりをする取り組みに対して、事業者に一定の助成金を支給する仕組みだ。

一例として、人事評価・賃金制度の実施導入を行うことで50万円。1年後、2年後に離職率が改善されれば、ボーナス的に57万円、85万円を受給することができる。

特定処遇改善加算と並行して受給のための計画を取りたいところだ。

⑧特定処遇改善加算のまとめ

以上が特定処遇改善加算 の制度概要である。介護事業所にとって国費によって賃金改善ができる絶好の機会であると言える。

加算の取得には複雑な書類作成知識が必要となるため、手続きにお困りの方は是非当事務所までご相談を。